死人、逃げる
「な…なぜお前が生きているの!確かにお前は地中で殺ったはずなのに!」
女が信じられないものを見る目でフラムを見つめる。
「俺がそういうものだからだよ」
フラムは適当にそう返しつつ、エルフに向かって直行する
「…いいわ。また殺してあげる。何回でも何回でもあなたが潰れるまで」
女はそう呟くとさっきの戦闘とは比べ物にならないほどのスピードでフラムに迫る。
フラムはその姿を見て冷や汗を流す。あの速さでは追いつかれるのではないかと内心で焦る。
しかしフラムにはただやるべきことを正確に、的確に行うしかなかった。
エルフとの距離が10メートルほどになった頃
「フィリア!」
「【嵐刃】!」
フラムは全力疾走しながらフィリアに合図を送ると、フィリアはスキルによってエルフに取り付けられた手錠と管を切断する。
フラムはスピードをそのままにフィリアを左腕に持ち替え、落ちてくるエルフを右手でキャッチした。
エルフの体重は人族の2/3倍ほどだが、二人を腕に抱えるのは流石にきつく、わずかにフラムのスピードが落ちる。それでもフィリアが走るよりは早いのだが。その隙に女がフラムに追いつく。
「二人抱えて私から逃げられると思ってるの?牢屋に帰りなさい坊や!」
女がそう叫びながらトップスピードでフラムに詰め寄り、拳を突き出す。
フラムはどうってことないが、抱えてる二人が危ない。
「くそっ!」
フラムは無理やり体を捻ってかわそうとするが、間に合いそうになかった。
しかし
「精霊さんお願い!守って!」
フィリアのその叫びによって女の拳がフラムに届くことはなくなった。
エルフのユニークスキル【精霊知覚】によって精霊の力を借り、魔族の一撃を受け止めたのだった。
「ナイスフィリア!助かった!」
それと同時にピローン♪という何処かで聞いたことのある音ともに
『スキル、【豪腕】、【超速】を習得しました』
という声が頭のなかに流れてきた。
「神様仏様スキル様!マジナイスタイミング!」
【豪腕】によって負担の少なくなった両腕に思わず笑みを浮かべるフラムだったが、足の方はあまり変化がないように感じる
(あれ…?じゃあもしかして、【超速】)
すると周りの風景の流れが一気に加速する。どうやら起動型スキルだったようだ。突然女と比較しても遜色ない、いや、女すら上回るほどのスピードを出したフラムに女は驚きを隠せないようだ。
「なにそのスピード!?人族が魔族を凌駕する速さを手に入れるなどありえないわ!」
「潰されてもピンピンしてるような奴が人族なわけないだろうがどアホ。フィリア!準備しろ!」
「はい!いつでも大丈夫です!」
スキルによってとてつもない速さを手に入れたフラムは転移陣に向かって突っ走る。
「っ、逃がさないわよ!【轟力】!」
女がそう叫ぶと女の角と目が赤黒く変色した。そして【超速】スキル使用中のフラムと同等の速さでフラムを追う。
魔族のユニークスキル【轟力】。一時的にすべての身体能力を向上させるというものだ。
しかし、そのスキルを使用するのは遅すぎた。
「転移!」
フィリアがそう叫ぶとフラムたちの体を光が包み込み、そして光が消えるとそこにはフラムたちの姿はなかった。
「逃げられちゃった…。エルフはまた採りに行けばいいとして、あの坊やは一体何なの?魔族に対抗できるのなんて魔族か龍族くらいのもののはずなのに。人族、今度は何を開発したっていうの?それともあの子が言ってたように、人族ですら無い別の何か…?どちらでもないものだとしたら何をするかわかったもんじゃないじゃない、危険因子だわ。とにかく一度上に報告しておきましょう。」
女はフラムの脅威性に目を細めるのだった。
「しゃあ逃げきってやったぞおらぁぁぁぁぁぁ!………………あ?」
転移を終えたフラム達は目の前に外の景色が広がっているものだと思って目を開けた。しかし目の前に広がっていたのはあいも変わらず洞窟だった
「ナンデェェェェェェェェェ!!」
「おいフィリア!お前、ここから飛んできたのか?」
「いえ…私が飛ばされたのは森のなかからだったはずなんですが…」
「…まぁいいや。とりあえずそのエルフが目を覚ますまでここで待ってるか」
あの魔法陣は情報漏えい防止のため、魔族の魔力を流した時のみ正常に作動するというものなので、フラム達は適当なところに飛ばされ、また、女も追ってくることが出来なかったのだがそんなことをフラム達が知れるわけもなかった。
「うっ…ん…」
小一時間フィリアと雑談をして時間を潰していると、持ってきたエルフが声を出した
「アルク!大丈夫!?ほら水だよ!」
「あれ…?お姉ちゃんなんで…?…痛っ」
「無理しないの、ほらまだ寝てなさい」
フィリアがお姉さんぶりを遺憾なく発揮している。アルクってフィリアの弟だったのか。そりゃおいていけるわけ無いか
「う、うん…。僕捕まってたはずじゃなかった?」
「あのね、ここにいるフラムさんが私達を連れだしてくれたの!村に帰れるんだよ!一杯感謝しなくちゃね。」
「え、ほんと!?魔族に捕まってたんだよ?お兄ちゃんすごいんだね、ありがとう!」
「どうしたしまして。早く傷、回復すると良いな」
「うん!」
アルクが目を覚ましたので、フラム達はこの洞窟をぬけ出すために行動を開始した。アルクはまだ万全の状態ではないので、フィリアがおぶった。
あてもないのでただひたすらに歩く。この洞窟内には魔物が少ないようで、あまり鉢合わせることもなかったし、出てきても【豪腕】と【超速】を手に入れた今のフラムならば苦もなく倒すことのできるレベルの魔物ばかりだった。
毒以外にも、殴るという攻撃手段が増えたのは嬉しかった。まぁこの洞窟では出てくる魔物は全てアスを使って倒していたが、ゾンビのように毒が効かない者や皮膚や鎧が固くてナマクラではかすり傷一つつけられないような奴もいるのだろう。そういう時に攻撃手段がアスだけだと完全に詰みだ。なのでこれからのことを考えるとこのスキルはフラムにとって嬉しいものだった。
そうして時々出てくる魔物を適当にあしらいながら何時間歩いただろうか。どれだけ歩いても代わり映えのしない景色が続くだけで精神的にも肉体的にも疲れてきた。
「今日はこれくらいにしとくか。だいぶ歩いて俺も疲れてきた。一人背負ってるフィリアはもっと疲れてるだろ?」
「そうですね…流石にそろそろ限界です…」
そうして3人はその場に腰を下ろした。
「フィリア。エルフって皆風魔法スキル使えるんだよな?それは生まれつきなのか?」
足を休めている間、フラムはそう聞いてみた。
「いえ、エルフが生まれつき使えるのは【精霊知覚】だけなので幼い時に練習させられるんです。それがどうかしましたか?」
「それ、俺にも使えるようにならないかな?」
「うーん、時間はかかると思いますが出来ないことはないと思いますよ?魔物は皆それなりの魔力を持ってるって聞きますから」
「じゃあさ、ちょっと教えてくれねぇ?助けた礼ってことで頼めないか?」
「そんな恩に着せなくても教えてあげますよそれくらい。風魔法はですねー、手に魔力を込めて風、動け~ってずっと念じてるんです。それを毎日やってればいつか習得できます。ちなみに私は二年かかりましたけどね。」
「二年!?思ったより長いな…。まぁやって損することもないし気長にやってみるか」
フラムはその日、二人が寝た後もずっと手を前に出して「風ぇ!こい!」と念じ続けていた




