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雪の残像  作者: Motoki
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 この遊園地でしゃがみ込んで泣くのは二度目だ。あれはいくつの時だったろう。両親が離婚する寸前だったから、四歳の時か……。

「真はあなたになついてるから」

「子供には、母親が必要だろう」

 低い声で僕を押し付け合いながら歩く、両親の背中が遠ざかる。僕がはぐれても、気づきもしなかったのだろう。


 ごめんなさい。いい子になるから。もうわがままなんて言わないから。だから、ケンカしないでェ……!

 膝を抱えて泣きながら、僕は心の中で叫んだ。

 周りのざわめきが、遠くに聞こえる。

「迷子かしら」

「親は何してるんだ」

 遠巻きに囁く、大人達の声が耳に届く。

「見て見て、パパー」

「ママー、あれ乗りたいー」

 楽しげに叫ぶ、子供達の声も。

 寒さと寂しさに一際震えて……。余計に涙が溢れ出した。

 ――ごめんなさい。

 もう何に謝ってるのかも、解らない。しゃくりあげた僕は、ここがどこなのかも忘れて、わんわんと両親を呼びながら泣き叫んだ。

「おい。ジャマだ、クソガキ。踏んじまうぞ」

 低く放たれた声。

降りしきる雪の中。振り返ったそこに、僕は光り輝く『天使様』を見たんだ。


「ねぇお客さん。もしかして、迷子ですか?」

 囁く声に振り返ると、ここの従業員らしい男が一人、身を屈めて立っていた。歳は二十代後半くらい。帽子を目深にかぶり、眼鏡をかけている。

 夕闇の中。あの時と同じに雪と大きな観覧車をバックに立っているけれど、あの時の天使様とは、別人だった。

 そうだよね。

「迷子に、見えますか?」

 ――僕もう、十七なんだけど。と心の中で呟きつつ、涙を拭う。

「いやぁ、どうだろう。微妙かな」

 クスクス笑った男は、フワリと手を泳がせながら後退った。

「でもねぇ」

 手を口元に添えて、内緒話でもするように囁く。

「そんなトコでしゃがんでると、誰かに踏まれますよ」

「えっ?」

 観覧車の方へと歩いて行く男に、ガバッと立ち上がる。


 この人は、天使様じゃない……!


 グッと掌を握り締め、自分に言い聞かせる。

 でも足は、観覧車へと踏み出していた。

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