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雪の残像  作者: Motoki
16/17

十六

「違ぇよ。俺はあの時『いや、こっちこそ悪ィ』ってちゃんと言おうとしてたんだぜ。それも聞かずにさっさと行っちまってよ。んで気付いたらお前、誰にでもすぐ『ごめん』って言ってんだもん。俺、最初お前嫌いだったなぁ。凄ぇイラついた」

「うん」

 そうだね。だってそれは、僕を守ってくれる呪文のような言葉だったから。

 誰ともぶつかる事なく、生きていくのには必要な言葉だったから。

 ――それで一弥は、ずっと怒ってたのかな?

 僕がいつまでも一弥に謝ってばかりだったから?

 だから、イライラしてたの?

「でもさ、そのうち。こいつの事笑わせてみてぇなって思うようになってた。こいつが遠慮しなくていい存在になりてぇって。だから何回も話しかけてさ、お前は憶えてねぇだろうけど、初めて笑ってくれた時は『やったーッ』って叫びたいくらいだったんだぜ」

 信じられない思いで一弥を見つめる。すると彼は、一瞬だけ僕を振り返った。

「寒くて死にそうだ。なんか奢れよ、真」

 照れたその声がやさしくて、思わず笑ってしまう。一弥の顔を見たい気もしたけれど、それより今は、この背中を眺めていたかった。闇でしか現れてくれない、さり気ない透明な翼を。

 僕もいつかなれるだろうか。この人の天使に。柔らかな大きな翼で、包んであげる事ができるだろうか。

 そして大事な何かを、伝える事が。

「ねぇ一弥。いつも誰とメールしてるの?」

 疑問に思って訊いてみる。

 一弥に笑顔を浮かべさせられているのは、いったい誰なの?

「ん? 見るか?」

 一弥は携帯を開くと、僕へと画面を向けた。


『その時にね、天使様が言ったんだ。「汝、案ずる事なかれ」だって。だから、大丈夫だよ』


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