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雪の残像  作者: Motoki
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『僕はね、天使様を見た事があるんだよ』


 メールで、一弥にそう告げたのはいつの事だったろう。

 バカにされると思って、今までは誰にも言えなかった言葉。だけど一弥は、そんな僕の言葉さえも、受け入れてくれたんだ。


 鞄を持って教室から廊下に出ると、僕の彼氏、藤本一弥が廊下で待っていた。

 寒い廊下で壁へと背中を預け、携帯を弄っている。

 伏せられたまつ毛が顔に影を落とし、話しかけるのが躊躇われる程、沈んだ表情に見えた。

 ――一弥はいつも、こんなにつまらなそうな顔してたっけ?

 心に浮かんだ疑問は、足が前に進むのを止めてしまう。

 しばらく呆然と立ち尽くしていると、携帯の画面を見つめたままの一弥が、フッと笑みを零した。

「……あ……」

 思わず出てしまった声に、一弥が顔を上げる。

「なんだ、終わってたのかよ」

 途端に不機嫌そうな顔をして、携帯をズボンのポケットへと入れた。

 歩き出した一弥を追って、小走りに付いて行く。

「ねぇ」

 誰とメールしてたの、と訊きたくなる。


 一弥に笑顔を浮かべさせたのは、誰なの?


「終わってたんなら、声ぐらいかけろよな」

 話しかけた僕の声が聞こえなかったのか、一弥が吐き捨てるように言う。

「うん。……ごめん」

 俯いた僕の先で、一弥が振り返った気配がした。そして、チッと小さく舌打ちの音がする。

 だから、僕は顔を上げられなくなった。

 そして耳には、周りのざわめきが木霊する。まるで耳にこびり付いたかのように、それはいつまでも離れてくれない。

「今日、家寄ってくから」

 呟くように吐き出されたその言葉に、僕は小さく「うん」と頷く事しか出来なかった。


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