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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第五編 楽園侵食
91/220

行間一 赤の始まり

 長い永い旅だった。


 その答えを得るために、本当に長い旅をしてきた。

 遠回りをしてしまったから、だろうか……。

 少女は、無数の屍の上でようやく目覚めた。


『これは、おかしい』

『違う。こんなのは違う』

『こんなモノは、聞かされていない』


 それはあるいは、現実逃避のように映るかもしれない。

 否。

 事実それは逃避以外の何物でもなかった。

 屍の上で違う違うと連呼する少女は必死に逃げていた。


 何から――?


 声だ。足音だ。迫る無数の骸の手が少女の背中を掠めては(おびや)かす。髪を撫ぜる。もう少し手を伸ばせば少女の髪を引き、その醜く汚れた体を八つ裂きに出来るであろうに、骸の山はそれをしない。優しく触れるだけで、復讐を果たそうとも、呪詛の言葉を吐きもしない。


 ああ――私を否定し八つ裂きにしてくれればどれだけ救われただろうか。


 骸は、罰を与えなかった。

 怨念も赫怒も悲嘆も歌わない。ただただ、少女の髪を撫で、その背中に指先を這わすのみ。

 お前を恨まない。

 ただしお前に『わたし』を忘れさせはしない。

 お前に『わたし達』を忘れさせはしない。

 お前は呪われる。

 それは、『わたし達』にではなく、お前自身がお前を許さないのだ。


 赤い。赤い液体が少女の足元に溜まっていた。

 全身を赤く染めた少女は骸の上で慟哭する。己の所業を自覚する。鬼畜の所業を回想する。


 斬った。

 斬った。

 斬った。

 斬って。

 斬って。

 斬り刻んだ。


 ――私は、何をした?


 少女の中に疑問が浮かぶ。恒河沙(ごうがしゃ)の人形。阿僧祇(あそうぎ)の骸。那由他(なゆた)の感触。不可思議(ふかしぎ)の叫喚。その果てに待っていたものは――無量大数の恐怖だ。


 ――私は、なんだ?

 ――この肉の器は、なんだ?

 ――この器に収まった魂は、なんだ……?


 誰だ。

 私は誰だ。


 絶叫があった。


 あるいはそれは産声だったのかもしれない。

 屍を寝床にする人ならざる悪鬼。まつろわぬ外道の住人。

 その、産声だったのだ。


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