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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第一編 法則戦争
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第二章 五感拡張計画 3.右眼

 なんとかして自宅に辿り着いた友介。

 しかしそこで待っていたのは......?


 では、どうぞ!

 渋谷の街を走り抜け、港区を突っ切って、とうとう友介は家に帰ることができた。

 唯可を地面に降ろし家へ飛び込む。


「ただいま! 杏里、夕子さん、無事、か……」


 しかし、玄関を開け放って目に飛び込んだ光景は、おおよそ信じられるものでは無かった。

 いいや。

 信じたくなかった。

 家の中はメチャクチャに荒らされており、その中心に一人の少年が立っていた。


「何で……」


 ヴァイス=テンプレート。

 神話級魔術師。

 安堵友介を付け狙うもの。


「友介……これ……」

「言うな」


 ゴクリと生唾を飲む。


「おい、杏里と夕子さんはどこだ」

「さあ? どこでしょうかー?」

「……ッ!! テメエよくもォ!!」


 瞬間、友介はヴァイスに飛び掛かっていた。

 対して魔術師は、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、


「大丈夫ですよぉ。すぐに同じ所に連れて行ってあげますから」


 直後、ヴァイスの右手に獅子の面が現れた。


(あれは……)


 友介は冷静にその面の考察を始める。


(身体能力増強の……!)


 友介の見ているすぐ目の前で獅子の面がヴァイスの顔に装着される。直後、轟!! と風を切りながら少年の細腕が人間の可視速度を超える速さで振るわれた。

 しかし友介はあくまでも冷静だ。

 そう、家族を殺された人間にはありえないほどに。


(義眼起動、神経経路の変更を確認、パルス変換完了、『()』の全機能を稼働しろ——!!)


 直後、右目の奥でチリチリと何かが回転するような感覚と共に、五感拡張計画で得た『眼』が完全に起動した。

 そして。

 絶対に回避不能な魔術師の一撃を、紙一重で()け切った。


「うそ……」


 背後で唯可が何かを言っているが、友介には聞こえていない。

 眼前の敵だけに意識が向く。その、一挙手一投足の全てを捉える。

 続いて二撃目、三撃目、四撃目と腕が振るわれるが、その全てを避け尽くす。


(なん……だ……?)


 さすがのヴァイスも、薄気味悪い物を感じ始めた。

 五感拡張計画。

 科学圏の暗部で行われている裏の研究。『人の身で人を超える』をコンセプトに始まった研究だ。

 研究内容はその名の通り、一人の人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれかを(いじく)り、昇華させるというもの。


「俺の右の眼窩(がんか)には研究によって完成した『眼』が埋め込まれている」


 人の筋肉の動きや血管の流れ方、大気中の分子の動き、そして光の明暗から、一瞬先の未来をも見通すことが可能となる『人知超越の右眼』。

 そして、彼の右目は人の嘘を見通すこともまた可能だ。先程から友介が冷静だった理由は、ヴァイスが友介の家族を殺すことも、ましてや見つけることすら出来ていないというのが分かっていたから。


(こいつは強い……でも、それだけだ。神話級だか何だか知らねえが……)


 ヴァイスの高速の蹴りを軽々と躱し、大きく息を吸った。


「ここに来たのは間違いだったな、魔術師!!」


 叫ぶと同時、友介は地を蹴ってヴァイスの横を通り抜けた。走り抜ける間際、友介はヴァイスの足を払って注意をこちらに向けさせることを忘れない。


「な……っ」


 一瞬だけ驚顎の表情を浮かべたヴァイスだったが、やがて表情を一転させて、


「ふふ……面白いですねえ!」


 ヴァイスは愉快そうに笑うと、右手に新たな面を取った。柄は——魚。

 獅子の面と魚の面を付け替え、両手を横へ大きく広げると、ヴァイスの周りに直径五メートルほどの水塊が七つ浮かんだ。

 瞬間、三つの水塊が音速近くの速度で射出される。


「ぐっ……!」

「ほほお! これも避けるのですかっ!」


 身を(よじ)りながら跳び、三つの水塊の隙間に体をねじ込んで全て(かわ)した——が、体勢に無理があった。

 さらにもう一つ、水塊が音速超過で射出。寸分違わず友介の脳天を貫く軌道だ。

 グン——ッ!! と水塊が加速し、友介の視界は一瞬にして水塊の青色で埋め尽くされた。

 だが——。

 水風船が割れるような軽い音と共に、水塊が四散した。


「……?」


 ヴァイスが怪訝そうに眉を細めた。起きた現象に対する推測が立てられず軽く混乱していると、友介が床に着地する音が聞こえてきた。


「ははは」


 そうして、ヴァイスはようやく気付いた。


「そうか、ここは武器庫なのですねえ……」


 友介が飛び込んだ部屋。

 そこは、壁、床、天井、あらゆる場所に銃器や刃物が置かれた武器部屋だった。拳銃や軍用ナイフはもちろん、機関銃や、果てはロケットランチャーまで置かれている。


「俺の家族はさ、武器屋を営んでるんだ。何でも、俺がこの家に来る前に存命だった杏里の親父さんが作った店らしくてな、それを今でも杏里と夕子さんが続けてる」

「何を訳の分からないことを——」

「店名は『Guard Friend』……友を守るんだとよ」


 安堵友介の右手には黒い拳銃、左手には白い拳銃が握られていた。


「二丁拳銃ですか。あなたに使いこなせるのですか?」

「その身で確かめてみろ!」


 ズドン!! ズドドンッ!! とヴァイスが都合三つの水塊を射出する。友介は両の拳銃の引き金をそれぞれ二度ずつ引き、二つの水塊を破壊した。残り一つの水塊は身を捻って避け、ヴァイスの懐に潜る。


「死ねよ」


 引き金を引き、鉛玉をぶち込む。

 だが、


「チィっ!」


 目の前で起きた現象に、友介が舌打ちを打つ。新たな水塊がヴァイスの真正面に生じ、弾丸を止めていたのだ。ギュルルルルル! と弾丸は高速で回転しながら水の盾を削っていたが、やがて勢いが死に、軽い音を鳴らして床に落ちた。

 友介は一旦距離を取って追撃に備える。

 右目を(すが)め、ヴァイスの全てを観察する。


「ああ、やはり忌々しい。その顔……八十年前を思い出すぞォ!!」

「……? はち——がふっ!!」


 不意に、背中に強大な衝撃が走った。

 体の中の空気が全て吐き出され、一瞬呼吸が止まった。衝撃を殺し切ることなどできるはずもなく、前へつんのめる。

 フラフラとした足取りで、朦朧とした意識の中ヴァイス=テンプレートの姿を正眼に捉える。

 だが、続く五つの衝撃も知覚外からのものだった。

 衝撃の度に、下手くそな操り人形みたいに体を無理矢理動かされた。最後の一発をその身に受けると、彼の体は勢い余って壁に叩き付けられてしまう。


「が……ッ!!」

「ほぉら。おまけの一発ですよお!」


 さらに一発、後頭部に衝撃が走る。

 壁に立て掛けられた銃器に凄まじい勢いで顔面を打ちつけられた。顔のどこかが切れたのか、手をやるとぬるりとした感触が返ってきた。


「あ、うぐ、あ、がァァァあああああああああああああああああああッッッ!!」

「ひははははははは! いい気味だ……いい気味だぞ、安堵友介ェ!! お前には、そういう苦悶の表情がお似合いだぁ!!」


 口調が乱暴になったヴァイスの言葉を聞きながら、友介は思考を巡らせた。


(一体、何が……っ?)


 ぼやける視界の中で友介を襲った衝撃の正体を探る。答えはすぐに見つかった。


「水……!?」

「ははは。まさか、水塊を弾き跳ばせば水の制御ができなくなるとでも思っていたのかな? だとすれば大間違いです……よっ!」


 口調が戻る。ヴァイスの周りにふわふわと浮かぶ七つの水塊が友介へ殺到した。


「——ッ!」


 友介は慌てて横へ飛び退きそれら全てをやり過ごす。

 ————が。

 顔に被る面をいつの間にか獅子模様のそれに付け変えていたヴァイスは、床を転がる友介へ乱暴な蹴りをお見舞いしてやった。

 内蔵をシェイクされたのではと疑うほどの激痛が友介の腹を中心に全身を駆け回った。痛みを紛らわすために床をのたうち回るが、大した効果は望めず、それどころか敵に隙を与えてしまう結果になる。


「おらよ!!」


 どぼん!! というくぐもった音と共に再度の衝撃が襲ってきた。


「……っ!! か、はっ!?」


 喀血し、身を捩るほどの体力も削られた。


(勝て、ない……)


 ヴァイス=テンプレートは動かなくなった友介の髪の毛を乱暴に引っ掴むと、自分と目線が同じようになるように無理矢理立たせた。

 友介は虚ろな瞳で眼前の魔術師を見つめる。

 その目は狂気に侵されていた。ただ一つの目的のために突っ切る者が、その目に持つものと全く同じ純粋な色。しかしそんな真っ直ぐな感情も、内に含んだ復讐心によって真っ黒に染め上げられていた。


(こいつは一体……)


 右手が高く掲げられる。手を刀のようにピシリと伸ばし、友介の喉を刺し貫かんとする。

 魔術師は一層愉快そうな表情を顔面に張り付け、弓を引き絞るようにゆっくりと右手を引いた。


「結局、その義眼は何の役にも立ちませんでしたねえ」


 ク……ッ、と右手が僅かに前へ(かし)ぐ。

 そして、友介の喉目掛けて手刀が飛ぶ——


「やめてェえええええええええええええええええええええええええええッ!」


 ——その、直前。

 灰色の尾を引く何かがヴァイスへ直進した。


「ロケットランチャー!?」


 さしものヴァイスもこれにはさすがに焦った。

 彼はとっさに友介を手放して後ろへ跳び退く。その一瞬の間に獅子の面を外して魚の面を被った。

 友介は糸の切れた人形のように床に倒れ込み、ヴァイスは体を思い切り反らした。弾頭がヴァイスの鼻先を掠め、そのまま反対側の壁へ激突。

 ゴバッッッ!! と音の洪水がヴァイスの耳を打った。爆炎がヴァイスを包み込まんと拡散される——!


(まずい!!)


 爆炎が部屋全体を埋め尽くす一瞬手前、ヴァイスは自らの周囲に浮かべていた水塊の七つ全てを爆心に差し向けた。

 爆炎を鎮火することに成功はしたものの、瞬間的に熱せられた大量の水は激しい音を立てて一瞬で蒸発する。


「これで、なくなったね……」


 そんな言葉がどこからか聞こえてくる。最初は意味が分からなかったが、徐々に唯可の狙いが分ってきた。


(しまった……っ。嵌められた!!)


 そう。今この瞬間、ヴァイスは水塊を持っていない。つまり、ヴァイスの身を守るものは何もない。ヴァイスの守りを崩すこと。それこそが唯可の狙いだったのだ。

 しかし、一つ問題があった。

 唯可とヴァイスの間には十分な距離があり、このままでは面の取り替えを一瞬で行えるヴァイスが相手では決定的な隙とはなり得ないのだ。

 彼は右手を軽く振り、亀の面をその手に持った。どういうトリックか、やはり虚空から一瞬にして面が現れたようにしか見えない。


「良い線を行ってしましたが残念だったですね! あと一歩足りなかったッ!」



「それはどうかな?」



 ————と。

 ヴァイスの予想もしていない所から声が聞こえた。

 黒目だけをぎょろりと動かして真下を見る。


「な……っ! 貴様、その体でまだ動けるのか!?」


 床に膝を突いた安堵友介が、不敵な笑みを浮かべて魔術師を睨み上げていた。

 銃口が眉間へ向けられている。ヴァイスは吸い寄せられるように銃口の奥にある金色の弾丸を凝視した。


「死ね。ゴミ」


 友介は刹那の迷いもなく引き金を引いた。

 弾丸は寸分違わずヴァイスの眉間を貫き、後頭部から抜ける。

 血と骨と脳漿が撒き散らされ、小柄な少年の体が、孔の(ひら)いた顔面から床へ叩き付けられた。

 第一編、完!?

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