第八章 序曲終幕 3.愛殺
二人を救うためにも、まずは土御門狩真の居場所を突き止める必要がある。
故に友介とカルラは手分けして渋谷を探そうとしたのだが、その矢先に友介とカルラのポケットの中でスマホが鳴った。
「あん? こいつは……」
「光鳥からね。あの女狐、ほんと腹立つわ。全部お見通しだとでもいいたいのかしら」
「まあ趣味は悪いわな」
送られてきたメールは狩真の詳しい居場所だった。
「ここは……」
「なにこれ、めちゃくちゃじゃない」
画像と文で送られてきた敵の居場所の情報に、友介とカルラが顔を顰めた。
ビルは倒壊し、アスファルトはめくれ、所々に死体が転がっている。体が千切れてしまったものもあれば、焼死体、果ては原形さえ留めていないものまで存在していた。
そしてその端に映る土御門狩真と、まだ無事な四宮凛の姿。
「ちっ……ほんと趣味が悪いな」
「とにかく行くわよ」
歩き出す二人の脚に迷いはない。
勝つ。その一念だけを胸に歩を進めた。
そして……。
「……ヒヒッ、やっぱ来たか。そりゃぁ来るよなぁ……アはははッ」
愉快そうに笑う狩真を無視して、友介は殺意のこもった目を向けながら口を開いた。
「よお、カス野郎」
「ああ、ヘタレ君」
狩真は凛を邪魔だとばかりに後ろへ押しやり、友介の隣に並び立つ赤髪の少女を視界に収めた。
「ハハッ、女神によしよしされて勇気百倍ってか?」
「残念ながらこいつにそれは期待できねえよ」
「やってほしかったならやって上げたけど?」
「勘弁」
「ま、そういうことね。アンタが思ってるほど私たちの関係は良いものじゃないわよ」
「へえ……変わった男女の在り方だねえ」
茶化し始めた狩真を無視し、友介は小さくため息を吐いてから。
「御託は良い。さっさと始めるぞ。そろそろ杏里もそいつも限界だろうが。そんで、なによりも……」
拳銃を握る両手に熱がこもる。絶対に許してはならない邪悪の前に、少年はとうとう吠えた。
「それを見るこっちは、とっくにブチ切れてんだよクソがァッッ!」
叫ぶや否や。
安堵友介は臆することなく特攻した。
対して。
土御門狩真は左手に持つ長刀を軽く振り。
「童子纏い・卑喰ノ鉈ァッ!」
万物を食す鬼の口を、己が得物たる外道丸に憑依させた。大量の牙を噛み鳴らし哄笑を上げる卑喰ノ鉈を見ても、すでに友介の中に恐怖はない。
五感拡張計画で得た右眼で対象の動きを未来まで完全にシミュレートし、雑な一閃を身を屈めることで避けた。髪先数ミリが巻き込まれたが友介自身に傷はない。
友介は勢いを殺すことなく狩真の懐に入ると。
「おっせえな、童子纏いさん」
白と黒、両の銃の口をその腹に押し付けて立て続けに五発の弾丸をぶち込んだ。狩真がたまらずたたらを踏み、尾を引くように鮮血が迸った。よろよろと友介から距離を取ったが、さして意味などない。
そもそも拳銃の間合いとは中距離を主とする。先のように間合いを詰めるなど愚行以外の何物でもないはずなのだ。
しかし、定石通りに戦ったところで狩真に勝つなど不可能だ。この男は戦闘の天才。センスだけでここまで戦う正真正銘の化け物ゆえ。
距離を取られたことで完全に友介の間合いとなる。故に次なる行動は決まっていた。
引き金を引いた。双方の弾丸が空になるまで鉛玉を叩き込んだ。
「ヒハッ、ハッ、あははは! あはははははははははははははははははッ!」
楽しそうに笑いながら、それら全てを長刀で弾く狩真。友介はそれに若干以上の苛立ちを覚えながらも冷静であった。
撃ち続け、やがて右の銃の弾倉が空になった瞬間、状況は動く。
弾倉交換のタイミングを逆算し、依然左の銃から弾丸が放たれ続けていることも無視して、土御門狩真は安堵友介を間合いに収めんと一歩踏み出した。
その、瞬間。
「――ッ、キハハッ!」
音もなく背後から忍び寄っていたカルラが放った背中への一太刀を、狩真は振り返ることなく大剣を背中に回すだけで回避した。
「背中から襲うなんて騎士サマっぽくねェなぁ……」
「黙りなさい、外道」
挟み込まれた形になった狩真だが、その表情は余裕そのもの。
否――。
あれは、心底楽しんでいる者の目だ。
森でカブトムシやクワガタを見つけた少年のように、未知の楽しみに心を躍らせるキラキラと瞳を輝かせていた。
「ああ、楽しい。楽しい楽しい楽しい! ようやくまともな……血沸く殺し合いが出来る。出来てるッ! 俺はようやく、好きな奴を作れるかもしれねえッッ!」
「うっせえよ、一人でキマってんなぼっち野郎っ!」
狩真がカルラに気を取られている間に、二つの銃両方のリロードを終えていた友介は、崩呪の眼を利用して狩真の足場だけを崩した。
「おっと」
「躊躇うなカルラ! どうせ避けられる。刃で行けッ!」
「は……ぁ、ァあああああああああああッ!」
間の抜けた声を上げた狩真へ、大上段に振り上げた大太刀を叩き下ろした。
回避も防御も間に合わず、狩真の胴が袈裟懸けに斬りつけられた。
「ご、ぁっ!」
しかし、その速度と威力に反して、血の一滴すら噴き出さない。
この非常時においてさえ。己と仲間の命が懸かった状況でさえ、カルラは人を斬らない道を選んだ。
命を選ぶつもりはない。殺すつもりもない。もう二度と――誰一人死なせるものか。敵も味方も関係ない。
友介が舌打ち交じりにその様を遠目から見つめるかたわら、カルラはさらに一歩踏み込み懐へ忍び込む。切っ先を後方へ。腰の辺りで力を溜め込むと――一瞬の脱力。直後、爆発するかの勢いで膂力を開放し長刀を振り抜いた。銀の軌跡が狩真の胴へと滑り込んでいき――次の瞬間。
カルラの手首に鋼を叩いたかのような強烈な衝撃が返ってきた。
「――づっ!」
あまりの衝撃に手首が痺れ、危うく刀を取り落としそうになる。
(な、にが……ッ?)
驚愕に目を見開き絶句するカルラ。ほんの一瞬胴が空き、致命的な隙が生まれる。
しかしその千載一遇の好機を、狩真はふいにした。カルラの腹を蹴りつけて己の間合いの外に追い出すと、外道丸を地面に突き立てた。
「ヒヒっ、キハハハ……。ああ、いいぜ。テメエらなら……今のテメエらなら、本気を出してやってもいい。ああ、いや。出したい。出させてくれ」
その視線はカルラを一瞥した後、友介へと注がれた。
熱のこもった視線に悪寒を覚え、彼は銃を握る手に力を込めた。
「行くぞ。簡単に潰れんなよ。頼むからよ……俺に、感情ってヤツを教えてくれェッ!」
雄叫びの直後のことだ。
狩真を中心に世界の風景が塗り潰され始めた。
まるで火に炙られる紙のように、ジワリと侵食するように景色の有り様が変化していった。
「テメエらは初見だろォ? これが魔術の真の姿だよ。本当の俺ってヤツだよ」
土御門狩真は人を殺すことに特化している。それだけに特化している。
何者も彼に壊される可能性があり、この男に出会った数多の人間はその瞬間に命を落とす。
土御門狩真は己を襲う殺人衝動に逆らうことが出来ない。殺すことが楽しい。殺すことが気持ち良い。この快楽に比べれば性交のそれなど塵に等しい。犯すよりも殺す。壊すよりも殺す。それが土御門狩真の真実だ。
衝動に忠実に動いた末の悦楽から、逃れる術はない。
それゆえに、彼は生まれてこの方、一人として愛した人間がない。
愛そうがいつかは己の手で殺す羽目になるのだ。それはどれほど苦しみを伴うことだろう。
愛されたことがないわけではない。両親も兄妹も、これほど壊れ狂った自分のことを愛してくれた。好きだと言ってくれた。
しかし狩真は否と断じる。
「俺は誰も愛せねえ……」
それがどれほど苦しかったか。
好きな人間がこの世にいないことがどれほど悲しいことか。
それを最も知っている人間は、土御門狩真以外にいないだろう。
「――この衝動はな、もう止められねェんだよ」
生まれ落ちた瞬間から彼を蝕む殺人衝動は、既に自制出来る域を遥かに超えている。殺さなければ、発狂してしまうのだ。
故に――。
求める他者の形とは、己に勝てる者。同じ土俵で殺し合える同士が欲しい。簡単に死なない馬鹿が欲しい。壊しても壊しても起き上がる化け物と触れ合いたい。頭のネジが飛んだ怪物と愛し合いたい。
「あぁ……ようやく叶うかもしれねえ……」
強者、強者、強者。
ただそれのみを願った。女も薬も金も無用。希うものは強い誰か。優しくない何か。この無間の牢獄から己を攫い出し、犯してくれる何者かが欲しかった。
その唯一無二足り得る者が、目の前にいる。
「異端殺し……ああいや、安堵友介」
「――――っ」
友介が嫌悪感を隠そうともせず狩真を睨むが、そんなものは関係ない。
「ちゃんと……愛させてくれよぉ……?」
思いが溢れる。好きだ、と。その一念が胸にこみ上げてくる。
「あははははははっ! はははははははははははははははは! カーッハハハハハハハハハハハははははははははははははははははははははははははははははははは――――っッッ!」
哄笑を上げる狩真を中心に、空間の歪みが極大に達した。歪曲し既に原形も亡くなった世界が新たな色を帯び始めた。
それは白。
穢れなき純白。
何一つ邪念の存在しない無垢なる愛の具現であった。
景色の変化に伴い、術者たる狩真の姿も変じていく。
否、戻っていくという表現の方が正しい。
金色に染め逆立てていた短髪が腰の辺りまで伸び、元の色であろう黒へと戻った。
サングラスが空気に溶け、その端正な顔立ちがあらわになる。中性的なその顔立ちは、そこらの化粧をした女などよりも遥かに可憐。しかし口元に浮かべられた凶悪かつ醜悪な笑みにより、鬼女の如き印象を与える。
着用していた黒の着物と血色の羽織は女物のそれへと変化する。
変性を終えたその様はもはや、男であるというのに煽情的ですらあった。
「キヒヒヒヒハハハハハ……ッ」
狩真があるべき姿に戻ると、再度世界に変化が生まれる。
白く何もない空間。その地面から、ゆっくりと、ボロボロに擦り切れた門が姿を現した。仏閣に建てられる種類のそれであり、楼門と呼ばれるものだ。二階建てで最上重に屋根を持つ類の門。
柱には血が付着しており、その根元に転がる大量の死体が異臭を放つ。二階部からは怨嗟に満ちた呻き声が聞こえ、部屋の中からこちらを除く黄色い眼がいくつも見えた。
「――『染色』――」
見目麗しい可憐な容貌を持つ少年は、長く透き通った美しい黒髪を掻き上げると、うっとりと熱のこもったような視線を友介に向けながら、乱れた娼婦の如き笑みを口元に湛えて己が心象の全てを告げた。
「――――『羅性門・卑愛凶宴人味御供』――――」
大声一喝。
叫びあげた己が深層心理・精神世界の理に酔いしれて、人喰う鬼は満足げに息を吐く。
「ヒハッ、ああ、そうだ……これだ。これだよぉ……俺のこれを……愛を受け止めてくれる誰かが欲しかったぁ……」
容姿が変わろうとその精神は依然狂気に染まっている。いや、それどころか純化され、人間のそれとさらにかけ離れてしまっただろう。
少年は片目を歪に歪め、醜悪な視線で友介を射抜く。
「これが俺の染色。俺の世界で俺の心象。無意識下の世界だよ」
「…………っ」
「何を言ってんのか分からねえって顔だなァ」
楼門の二階部から五人の鬼が飛び出し、ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべる少年の周囲へはせ参じた。色も形も手に持つ得物すらバラバラな彼らは、皆一様にして狩真を守るような配置で立つ。
「出て来いテメエら。餌の時間だ。撒いてやるから戻ってこい」
狩真の許可と共に羅性門の二階部から大量の鬼たちが飛び降り――地に足を付けた瞬間、その体が空気に溶けるように消えた。
水に絵の具を垂らしたように、彼ら各々の体の色が残滓として大気に残り、それらが狩真の胸へと吸い込まれていく。
「よーしよし。良い子じゃねえか。それでいんだよ」
地を蹴り軽々と二階部へと跳躍した狩真は、彼を囲っていた五人の鬼すらも吸収すると、満足げに笑みを浮かべた。
先ほど持っていた長刀――外道丸さえ既に彼の中に吸収されており、この世界の不可解さも含め何が起こるか皆目見当もつかない。
「お前……何した」
「さーてな。ただお前、さっきみたいな原始人みたいな戦い方してたら一瞬で死ぬぞ」
「その原始人に負けてたのはどこのどいつだよ」
「だから現代人に進化したんだろうが……よッ!」
キヒッ、という不快な笑い声と共に、染色の主たる土御門狩真がその左手を軽く振るった。虫を払うかのようなぞんざいな動作。さして気持ちも力も込められていない動き。
しかし次の瞬間起こった変化は劇的であった。
友介と狩真の間、その中間地点に炎の壁が生まれたのだ。下から突き上げるように轟々と吹き荒れる業炎。白一色の無窮の空間を横断した。
「ほら、俺に勝つんだろ? この女を救うんだろ? じっとしてちゃあ妹ちゃんがマジで鬼になっちまうぞ。それとも俺が犯してやろうかァ?」
「黙ってろよ女装野郎。お前の命はここで終わりだよ」
「ああ、そォかい。だったらやってくれよ、なァッ!」
友介とカルラが白い大地を蹴りつけて狩真の元へ走り始めた――その直後。
刀で切り刻まれたかのように友介の全身に裂傷が走り、血が噴き出た。
「が……ッ!」
傷は浅いものの、痛手に変わりはない。それでも立ち上がろうと地面に手を付けると、今度は凄まじい凍気によって皮膚が氷のように固まった。
「ぎ、ぃ……ぁあああああああああああああああああああああああああああッ!」
皮膚と拳銃が離れない。激痛だけでなく、身体が思い通りに動かないというストレスによって冷静さを失い思考能力が低下したところで。
「そらよぉッ!」
空から大量の巨大な鉄球が降ってきた。
「なん、だよこれぇ……!」
「文句言ってる場合じゃないでしょッ! こんなもん続けられたらいつか死ぬわッ!」
そう言いながらもカルラに外傷は見られない。超人的な勘と第六感で、今現在の所は危険を避けているのだ。
だがそれもいつまでも続くものではないだろう。
雨あられと降り注ぐ鉄塊を避けながらも着実に狩真との距離を詰めていたが、この世界はそれを許すほど甘くはない。
豪雨の如く降り注ぐ鉄球を避ける中、友介が見た光景は絶句するほかない。
吹き荒れる炎の壁を突き破って飛来する大量のニードル。それも凄まじい規模。人間程度の大きさを持つものだ。
押し寄せる刃物の波濤を回避あるいは迎撃し、友介は炎の壁まで辿り着いた。熱傷覚悟で右手を炎に付き入れる。
「ぁあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」
凄まじい熱量により激痛が炸裂し、喉が張り裂けんばかりの勢いで絶叫した。すぐさま抜いて右手が解凍されていることを感覚で確かめると、左手で握る拳銃の銃口を炎の壁に突き付け、崩呪の眼により生みだした黒点を撃ち抜くことで進路を開いた。
友介の隣をカルラが駆け抜け、狩真へ突貫する。
しかし、彼女のすぐ横の空間。何もない虚空から人間のふともも程度の太さを持つ鎖が現れ、カルラの横っ腹を叩いた。
「がふ……っ、ぁ、ああああああああああああああああああああッ!」
勢いそのままに後方へ吹き飛ばされる。地面を何度もバウンドし、衝撃に全身が軋みを上げた。
「カルラッ!」
「アンタに心配されるほどやわじゃないっての……っ! それより前向いときなさいッ!」
えずきながらも軽口を返すカルラ。友介は彼女を大丈夫だと断じ、言葉通り狩真を睨み上げた。
「なんだァ……? 俺が見ねえ間にずいぶんボロボロじゃねえか」
そう言って彼は凛の体を抱き寄せて、その頬をべろりと舐めた。
「テメエ……ッッ! 何してんだぶっ殺すぞッ!」
「あ? 何で切れてるのー? ぼく分かんないなぁ。ギャハハハハハハッ!」
脳の血管がいくらか切れたような気がしたが、ここで思考をやめて突っ込めば奴の思うつぼだ。あれは作戦。友介から冷静さを奪うために挑発しているに過ぎない。
「お前……五体満足でいられると思うなよ」
「残念。すでに右腕がありませーん」
「じゃあ次は左腕と右脚だな。左脚も削ってやるよ。良かったな、だるまの完成だ」
「そりゃあ楽しみだな。やってみてくれ……出来るもんならなァッ!」
ゲラゲラと笑いながら左手を大きく振り抜く狩真。
直後、突風が吹き荒れ友介とカルラをさらに後方へ吹き飛ばした。友介は心地の悪い浮遊感を得たのち、背中に衝撃。すでに地面は氷点下の凍土ではないが、いつの間にか岩肌と化していた。
四肢が鈍い痛みに襲われる。立ち上がることすらままならぬほどに傷付いた二人だが、それでもなお立ち上がる。
「カルラ……行けるか」
「当然」
二人の視線の先では狩真が凛を撫でたり持ち上げたりしながら遊んでいた。正気を失い傀儡と化している凛は抵抗することも出来ず為すがままにされている。
友介とカルラはその光景に抑えきれぬ怒りを覚える。歯が砕けんばかりの勢いで口を閉ざし己を律することでギリギリのラインを保っているが、いつ怒りが爆発して思考が空白に染まるか分からない。
互いに鼓舞し合いながら共通の敵を見やる二人。
隙を伺おうと狩真を観察していたカルラへ、友介が唐突に話しかけた。
「そうだカルラ」
「なによ」
「役割を分担するぞ。俺はあのカスの掃除をする。お前は四宮を救い出してやってくれ」
「別にいいけど、アンタ勝てるの? 私の見立てだとこの空間は……」
「あらゆる殺し方と死因を現象として俺たちに突き付けてるんだろ。炎の壁は焼殺を意味し、氷の大地は凍死を意味する。鉄球は圧死を意味するし、ニードルの群れは刺殺の具現だ」
土御門狩真は殺人衝動に囚われた狂人だ。
そしてその彼が求めた世界は、それら全てを踏破する者がいる世界。
つまり……
「これは予想だが、この世界には弱点がある。そしてそれは、二人では決して為せないことだ。俺が一人でそれを達成しなきゃならねえ。だから……俺がこの世界を崩すから、カルラ、お前は四宮を救ってくれ。もうこれ以上あんなもん見たくねえんだよ」
「はいはい。自分をイジメてた奴だってのに優しいことね」
「イジメは関係ねえだろ」
「そうね……それに私も同じ気持ちよ。はらわた煮えくり返ってるし、今は気分じゃないからいじるのはまたこの今度にして上げる」
「はいよ」
すでにボロボロの二人だが。未だ致命打はない。友介の右手が赤く変色しているものの、使い物にならないというほどでもないため、事実上戦闘力は減じていない。
「じゃあ任せたぞ。俺はこの世界を壊す方法を考える」
「了解……ったく、報われないわね、アンタって」
「あん?」
「別に」
よく分からないことを言うカルラに疑問を覚えつつも、どうでもいいかと切り捨てる友介。
彼は視線を狩真へ向けると、つま先で地面を叩いて体の調子を確かめた。
(まあ行けるか。こっからどうなるかは知らねえけど……)
無傷で勝てる相手ではない。そもそもその程度の覚悟で挑んでいない。
杏里を救う。四宮を救う――そのためならば、腕や足が飛ぶことなど厭わない。
未だ思案するカルラを放って、友介が大地を蹴って狩真目掛けて疾走した。
「ハハッ、相談は終わりか? そんなら行くぞォッ!」
そして。
安堵友介は己の身すら滅んでもいいという覚悟でもって立ち向かう。
たった一つ、許せぬ理不尽に打ち勝つために。
時代はホモなんですよね〜〜〜!!!!




