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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第一編 法則戦争
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第二章 五感拡張計画 2.『異端』

 逃げ続ける友介と唯可だが、とうとう唯可に限界が来てしまう...... 


 前話までとは打って変わって、今回はあまりアクションとかないです。

 箸休め回みたいな感じです。

 それでも楽しんでいただければ嬉しいです!

「はあ……はあ……はあ……はあ……はあ……っ!」

「唯可、大丈夫か? どっかで休憩するか?」

「だい、じょうぶ……っ」


 学校から三十分以上走り続けて、さすがに唯可の体力に限界が近付いてきた。彼女は激しく息を切らし、顔を真っ赤に上気させている。


(やっぱ女の子にはキツいよな……)


 走る速度も目に見えて遅くなっているのが分かる。顔は上を向いているし、さっきから何度も転びそうになっている。


「唯可」

「何……って、きゃっ!」


 見かねた友介は、唯可を背におぶって走ることにした。


「ちょっ、友介!? 何これ、どういうこと!」

「どういうこともクソもねえよ! さすがに体力がヤバそうだったから、お前をおぶって逃げることにしたんだよ」

「そんな……追い付かれちゃうよ!」

「大丈夫だ。道も選ぶし、子供に追い付かれるほど俺の足は遅くない」

「そ、そうだけど……なんていうか、その……えと」

「あん? 何だよ。言いたいことあるなら先に言え」

「いや、だからね……」


 唯可は友介の背中にくっつきながら、顔を林檎のように赤く染めた。


「だから、その……近いっていうか……恥ずかしいていうか……」


 唯可は顔を友介の背中に埋め、か細く、それでいてほんの少し喜びを含んだ声で答えた。



「ドキドキする……」



「————」


 瞬間、友介は顔が真っ赤になるのを自覚した。


「あ、ああ。そうか……わ、悪いな」

「こう、心臓が何回も跳ねて、胸の奥がチリチリしてるみたいで——」

「ああ、もう良いから! 言わなくていいから! それ以上言うとなんか色々ダメだからな! 集中力切れて逃げ切れないぞ」

「ねえ友介」


 しかし唯可は、焦る友介の言葉を無視して、こんなことを尋ねてきた。


「何で、そんなに私のために頑張ってくれるの?」

「あん?」

「何で、私を放っとかないの……?」


 それは、ヴァイス=テンプレートの襲撃からずっと唯可が疑問に思っていることだった。

 友介と唯可は今日の朝出会ったばかりだ。二人は再会した幼なじみでもなければ、幼い頃に約束を交わした恋人同士でもない。

 それに唯可は魔女だ。今は強力な魔術は使えないが、いつかは魔術圏全てのトップに君臨するかもしれないような素質を持っている人物だ。

 それに。

 それに……、


「さあな」


 思考の沼に陥りかけていた唯可を、友介の声が現実に引き戻した。

 いつの間にか友介は走り出していて、唯可は落ちないように友介の体を掴んで密着した。体中が熱くなっているかのような錯覚を覚えたが、あまり気にしないことにする。よく分からないが、友介の言う通り、これ以上考えると何かが危ない気がする。何が危ないのかは分からないが、とにかく何かが危ない。


「俺も、何で危険な目に遭ってまでお前を助けようとしてるのかは分からねえ。ただ一つ、俺はお前を死なせたくないって思ってるのは確かなんだ。そう思う気持ちの根拠が分からないけど、とにかく、俺はお前を死なせたくない」

「うん……」

「あ、でも」


 友介は思い出したかのように言葉を弾ませた。


「俺はお前にちょっと憧れてるな」

「憧れてる……? どういうこと?」

「それは……言いたくない」


 そう言った友介の顔を横から眺める唯可。彼の顔はどこか悲しそうで、後悔に溢れているような気がした。


「ねえ、友介」

「あん」

「私は味方だよ」

「……何が」

「昔友介に何があったのか知らないよ。でも、今の友介は優しいじゃんっ。こんなお荷物な私を死なせたくないと言って、一緒に連れて逃げてくれてる。それどころか、走れずに邪魔になった私をおぶってくれてる。私は、友介みたいに優しい男の子は知らないよ」

「………………」


 友介は何も言葉を発しようとしない。ただ黙って、彼女の言葉の意味を吟味した。


(そうじゃ、ないんだよな……)


 けれど結局、彼女の言葉に納得することなんてできなかった。それができていれば、四年経った今でも悪夢にうなされることなどあるはずがない。


「ありがとうな」


 でも。

 背中に感じるその体温は、少しだけ少年の心を救ってくれた気がした。




 魔術師による計画的な渋谷襲撃に対して、科学圏東日本国はまともな対応を取れていなかった。

 その主な原因はやはり襲撃が突然過ぎたことだろう。渋谷に試験的に設置されていた『Mセンサー』が魔術師の存在を感知することができなかったということもあり、奇襲は完璧に完遂されてしまった。


 だが、それ以外にも大きな要因があった。

 それは、軍隊の不在。東日本国は、戦力のほとんどを『中立の村』跡へ送っていた。今朝のニュースや新聞、ネットでも大きく取り上げられていた科学圏の勝利。これは、東日本国全土の戦力をこの戦いに投じただけでなく、アメリカやノースブリテンなどの科学圏の主要国の多大な助力があったからこその勝利だった。


 つまり。

 現在、科学圏東日本国は、自国軍による防衛が不可能であり、かつ、同盟国の応援を求めることも出来ない状態にあるということ。状況は、国民が考えている以上に危険な状態にあるのだ。


 首相官邸前には多くの車が並び、緊急招集をかけられた閣僚達が続々と中へ足を踏み入れて行く。

 千代田区にある各官庁——特に防衛省と技術省——では背広を着た男達が凄まじい形相で怒号を飛ばし合っていた。


「ははは。こりゃ酷いねえ。良い大人が慌てふためいちゃってまあ」


 そんな彼らの様子をモニターで眺めながら笑う人影が首相官邸の一室にあった。彼女は不謹慎にもこの状況を楽しんでいるらしく、先ほどから笑顔が絶えない様子だ。

 彼女の横に立つ男が、それを見咎めて何度も厳しい声を投げかけているが、彼女はどこ吹く風で楽しそうにモニターを眺め続けている。


「おい、いい加減にしないか。実際に人が死んでいるのだぞ。こういう時に働かずして、いつ働くのだ!」

「うるさいなあ……今良い所なのに。ていうか、君こそ働いてきたらどうだい? この緊急事態に総理大臣がいないなんてマスコミに知られたら、君、その首飛ばされるよ? 僕じゃなくて国民に」

「私の首などどうでも良いのだ! それよりも、実際に国民達が命の危機に瀕しているのだ。彼らの命を守れなくして、何が総理かッ!」

「だったら僕に助力を求めるなよ」


 少女は切れ長の目で、じろりとこの国のトップを睨んだ。眼光だけで人を殺せるのではないかというほど鋭く、危険で、深く、冷たい光を帯びている。

 しかし少女の横に立つ男はそれに負けじと、毅然(きぜん)とした態度でそれを睨み返す。


「お前が開発を求めたMセンサーは何の効力も発揮しなかった」

「おいおい、それは少し酷いんじゃないのか? 魔力探知機……通称Mセンサー。あれがなければ今頃まだ君はこの部屋に来てすらいないはずだけど」


 Mセンサーとは、東日本国が作り出した、最先端の技術が詰め込まれている科学圏の『希望』そのもののような機器である。『魔力探知機』という正式名称からも想像できる通り、魔力の発生を感知することの出来る優れもので、ゆくゆくは世界に蔓延する魔力にベクトルを与え、科学圏が世界の魔力を操るという野望の元に始まったプロジェクトだ。

 だが——、


「それがどうした!? 確かに魔術師の存在をいち早く察知することはできた! だがそれだけだ! 奴らが魔力の解放と共に攻撃を開始してしまうのだから、襲撃を未然に防ぐなんてことできなかったではないかっ!! あれだけの予算をつぎ込んでおいて、その結果がこのザマだと!?」

「あのさあ……プロジェクト開始から四年で出来上がった物が完璧な性能を持つなんてことは有り得ないって僕言わなかったっけ? なのに君は支持率欲しさにあれを『完成した』と言った。……さっき君は自分の首なんてどうでも良いとか言ってたけど……」


 少女は意地の悪い笑みを浮かべながら核心である一言を告げる。


「それは、誰かが『その台詞』を聞いたという事実が欲しかったんだろ?」


 ぐ……っ、と男の顔が醜く歪んだ。


「あのね、僕はこの国の『総帥』だよ? 君がどんな人間なのか、僕が分からないとでも思った?」

光鳥(ひかりどり)感那(かんな)……この女狐が!」

「まあでも、せっかく努力してこの地位に上り詰めたんだ。頑張ってる後輩を見るのは嫌いじゃないから、しょうがなく一つだけ教えてあげよう」


「な、何だ! 教えてくれ! 頼む、何でも良い!」


 必死だな、きもっ……、という心の声は表に出さず、光鳥感那と呼ばれた少女は皮肉げな笑みを浮かべて男が最も聞きたくなかった結末を教えてやった。


「渋谷は確実に落とされる。いいや、渋谷だけじゃない。東京……軍の帰還状況によっては東日本国全土が魔術師達の手に落ちてしまうかもね」


 残酷な真実。信じるにはあまりに絶望的な事実を前に、男は顔を青くした。


「な……! なぜだ! いくら何でもそれは言い過ぎではないか!?」

「いいや、奇跡でも起きない限り確実にこの国は終わりでしょ。なんつったって……」


 彼女は手を軽く振ってモニターに映る映像を切り替えた。それは、地獄と化した渋谷に張り巡らせている監視カメラからの映像だった。

 そこに、一人の少年が映っている。

 映した瞬間。

 少年がこちらを見た。


「ひっ!」


 男が悲鳴のような声を上げたが、それも仕方ないことだろう。

 その少年の両眼の白目は過度な充血によるものなのか、赤く変色していたのだから。


「どういう風の吹き回しか、ヴァイス=テンプレートが出ばってきたんだ……。化物ぞろいの神話級魔術師の中でも『異端』と呼ばれる男だよ。どういう目的があるのか知らないけれど、あれに目をつけられて平穏無事で終われるだなんて考えてるんだったら、今すぐそんな甘い考えは捨てた方が良い。とにかく、『最悪の事態だけは避ける』——これを肝に銘じとくんだね」

「…………っ」


 絶句する男をよそに、感那はモニターを切り替えた。


「あ、そうだ。僕から言えることはそれだけだから、君はもう行ってね。さすがにそろそろ邪魔で殺したくなってきちゃったし」

「あ、ああ……すまんな」


 そう言って、幽鬼のような足取りで部屋を出て行った。

 それを見送ることもなく、感那はチャンネルを変えて、画面に映っている少年を見た。ヴァイス=テンプレートではない。映っているのは、安堵友介。彼は『魔女』をおぶりながら、息を切らして走っている。


「君も災難だね、安堵友介君。まあ、せいぜい足掻いてくれよ」


 そう言って、光鳥感那はさして興味もなさそうにモニターの電源を切って眠りに落ちた。

 ありがとうございました!

 次話はとうとうヴァイス=テンプレートと激突するので、是非よろしくお願いします!!

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