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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第一編 法則戦争
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第二章 五感拡張計画 1.逃走

 日常は崩れた。安寧は壊れた。

 安堵友介の前に姿を現した魔術師・ヴァイス=テンプレートが牙を向く。


 さあでは第二章開幕です! 安堵友介は魔術師から逃れることが出来るのか!

 楽しんで下さい!

「走るぞ、唯可!」


 友介が唯可の手を引いて走り出した直後のことだった。

 視界の端でチカッ、と何かが光ったかと思うと、閃光が迸り渋谷の街を一瞬白く染め上げたのだ。

 あまりの光量に目をつむると同時、腹の底を震わすような爆音が轟く。


「な……!」

「きゃっ!」


 突然の轟音に二人して縮こまり、数秒して顔を上げた。風が吹き抜け、髪を揺らす。


「何だよ一体……」


 視界がチカチカと明滅する。視力が回復するのを待ち、友介は閃光の出所を追った。


「あれは……」


 そして、思わず目を疑ってしまった。

 黒煙が空へと昇っていく。

 粉塵が舞い、瓦礫が地上へと降り注ぎ、友介が見ているその瞬間に、何人もの人間が瓦礫の下敷きとなっていた。


「嘘だろ、おい……」


 友介が向いている方角にはスクランブル交差点がある。いつもなら多くの人間でごった返している場所だ。数多くの人々が自侭(じまま)に口を開き、笑い声で溢れているはずのそこは、今や地獄絵図と化していた。

 閃光は渋谷108から迸ったものらしく、建物は夕日のような美しいオレンジ色に染め上げられていた。

 だが、それ以上に。


「ま、ずい……」


 確かな緊張を含んだ声で友介が小さく呟く。


「マズいぞ……早く逃げるぞ唯可! このままじゃ逃げ場が無くなってなぶり殺しにされるっ!」

「え、何が……?」

「あれ見ろ! お前の方が詳しいだろ! 魔術師が……魔術師がこの街に現れた!!」

「え、あ……っ」


 ようやく唯可も気付いたらしい。

 燃え盛る渋谷108の足下に何十人もの黒いローブを着た人間達が突如として現れ、逃げ惑う人々を虐殺し始めていた。

 時に炎の球体を生み出し、時に雷の槍を生み出し、無力な人間達を何の迷いもなく殺害していく。


「あれに見つかったら殺される。早く身を隠さねえと!」

「わ、分かった……」


 唯可の返事を待たず、友介は彼女の手を引いて走り出した。坂を真っ直ぐ下り、駅まで向かう。


「ゆ、友介……多分電車は動いてないよ!」

「いや、線路に降りて逃げる!」


 友介は駅員の注意を振り切って改札を無理矢理通り抜け、ホームへ出ると勢いそのままに線路へ躍り出た。


「あ、ちょっと君!」

「俺なんかに構ってる暇あったらあんたも逃げろ! 殺されるぞ!」


 直後のことだった。

 駅員室を中心に竜巻が発生した。風の奔流に襲われ、二人は派手に吹っ飛ばされてしまう。一緒に様多種多様な瓦礫が飛んできて、危うく潰される所だった。


「クソッ! 立て、死ぬぞ!」


 友介は唯可の手を引いて無理矢理立ち上がらせると、渋谷駅の方角へ向けて駆け出した。


(リスクが高いが……どうせどこも同じように地獄に変わってるだろ……! だったら人が多い渋谷に行った方がマシだ!)


 それか……、


「おい唯可! 技術省って分かるか!? 科学圏ならどこにでもある官庁だ! あらゆる技術のデータが保存されてるチップが隠されてるっていう場所なんだけど……」

「な、名前だけなら知ってるよ!」

「良かった……。今からそこへ向かう。千代田区にあるんだが、そこまで走れるか!?」

「が、頑張る……けど」

「? 何だ?」


 唯可は俯きながら、けれど走る足を止めずに、


「私を置いて行って欲しい……。私があいつを倒すから、友介は——」

「ふざけんなよバカがっ!!」


 唯可の戯言を友介が一喝した。


「そんなこと出来るわけねえだろうが!」

「でも……でも、私の目的は……」

「目的……って、危ねえ伏せろ!」


 唯可が屈んだ瞬間、元々唯可の首があった場所を、小さな水塊が音速近くの速度で通過した。

 あと一瞬警告が遅かったら……そう考えただけで脊髄に冷水を浴びせられたかのような怖気(おぞけ)を感じる。


(クソ……クソ……クソッ!! 何か得物があれば牽制くらいはできるかのしれないのに!)


 後ろを振り向くと、小さな影がゆっくりと近付いてきていた。

 まるで逃げ惑う獲物をいたぶる肉食獣のような気配を感じる。


「そうだ、杏里は……? あいつは無事なのか!?」


 今まで自分のことで必死だったため思い出すことができずにいたが、彼女の中学校は渋谷駅が最寄りなはずだ。


「クソが、ふざけやがってェ!!」


 走る速度を上げる。唯可に付いて来られるか不安だが、信じるしかない。友介は駆ける足にさらなる力を込める。

 嫌が応にも四年前の地獄が脳裏に蘇った。


「唯可、まだ走れるか!?」

「うん……まだ、なんとか……」

「そうか、よか——ッ!?」


 言いかけて、しかし言葉は最後まで続かない。背後から時折飛来してくる水塊を、身を屈めて避けなければならなかったためだ。

 先程の唯可の時と同じように、友介の頭が存在した場所を小さな水塊が通過した。水塊は勢いを弱めることなく友介達の近くの壁に激突する。コンクリートが砕け散り瓦礫が飛散。その内の一つが友介の顔面を打ち、友介は痛みに喘いだ。しかしそれでも、走る足を止めることも、緩めることもなかった。


「友介! 手当は!?」

「いらねえよ! それよりも走るぞ!」


 水塊は五秒に一回ぐらいの割合で飛んでくる。それら全てをギリギリの所で躱しながら友介達は走り続けた。

 どれくらい走ったかは分からない。

 気が付けば渋谷に着いていた。

 しかし……


「クソ……やっぱり人が多過ぎる。一回外に出るしかねえか」


 駅は、渋谷という地獄から抜け出すために線路を走って逃げようとする人でごった返していた。


「でも友介、外に出たら……」

「魔術師がいることは分かってる。けど、ここで待ってても後ろからあいつが追い付いてきちまう!」


 友介と唯可はホームへ上がり、人の流れに逆らいながら屋外へ出た。


「ぷは……!」

「ふーっ」


 駅構外に出て一息つく暇もなく、友介は唯可の手を引いて走り出した。


「ひでえな、こりゃ……」


 スクランブル交差点は無人になっていた。もっとも死体ならそこらへんにゴロゴロと転がっているが、あれはもう人とは呼べない。


「次はどこに行くのっ?」

「武器屋だ! 渋谷のどっかにあったはずなんだけど……」


 友介は走りながら周りをキョロキョロと見回した。しかし、目に見える範囲にそれらしい店は存在しない。


(ダメだ。どこだったか全然思い出せねえ……っ)


 パニックに陥りそうになる頭を必死に落ち着かせ、友介は記憶の糸を辿る。


(どこだ……思い出せ……どこにある?)


 ————と。

 ヴヴヴ、とポケットに入れておいたスマホが鳴った。三コール、四コールとバイブが続いているので、おそらく電話だろう。


(こんな時に……!)


 友介はイライラを隠さない様子でポケットからスマホを取り出す。

 画面に映る電話番号を見て友介は血相を変えた。先程とは打って変わって、慌てた様子で電話に出る。

 電話の主は杏里だった。


「杏里! おい杏里! 大丈夫か!? そっちは無事か? 夕子さんは……てかお前怪我とかしてねえか!?」

『ちょっ、大丈夫だから。いきなり叫ばないでよ。耳に響くでしょ』

「あ……わ、悪い……。んで、大丈夫なんだな?」

『ええ、まあなんとかね』


 その言葉を聞いて友介はホッとした表情になる。これ以上家族を失うのはごめんだった。


『それで、そっちは大丈夫なの? 友介、こんな時に限って拳銃も何も持ってないでしょ』

「今はまだなんとか。拳銃については渋谷の武器屋から拝借しようと思ってる」

『バーカ、無理に決まってるでしょ。もうすでに大勢の人が自分の身を守るために拳銃やら散弾銃やらを奪い尽くしてるわよ』

「そうか、しまった……っ」


 そうだ。

 友介と同じように、自分の身を守るために武器を持とうとする人間は他にもたくさんいるだろう。襲撃から十分以上経ってしまった今では、店の奥にしまわれている分も盗まれているかもしれない。


「チッ……鬱陶しいな」

『それでなんだけどさ』


 次にどうするべきかを考えていた友介の耳元で、杏里が電話越しにこんな提案をした。


『一旦家に戻って来なよ。友介の得物のメンテは終わってるし、お金は後払いでも良いからさ』

「そこに行くまでに殺されるかもしれねえだろ。大体……、ッ!? クソッ!」


 背後から放たれた水塊を避けるために、友介はスマホを放り捨てて唯可を地面に押し倒した。

 スマホがカラカラと音を立てて友介から離れていく。


(クソッ……!)


 立ち上がって取りに行こうかとも一瞬考えたが、結局やめた。そんな暇は無い。


「唯可、とにかく俺の家まで走る! いけるか!?」

「う、うんっ」


 唯可の返事と共に二人は立ち上がって、再び駆け出した。

 命がけの逃走が再開する。


 ありがとうございます!

 次話ではニヤニヤイベントがある! ......はずです。

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