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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第一編 法則戦争
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第一章 科学と魔術 5.襲撃

 目の前でクラスメイト惨殺された安堵友介。その矛先が遂に二人に向けられた。

 死が、迫る。


 今回はダークじゃないので安心して下さい! では、楽しんでいただければ嬉しいです。お願いします!

 面を被った直後のことだ。ヴァイスの体が二人の目の前から消えた。

 ————否、違う。

 人間には視認不可能な速度で駆けたのだ。風を置き去りにして数メートルの距離を一秒満たずに詰めた。音すら遅れているかのような世界の中で魔術師は腕を跳ね上げ、唯可の首を掻き切ろうと迫った。


「え……?」


 唯可が間の抜けた声を放つ。そして、声を上げた時にはもう全てが終わっている。神速で放たれた手刀が空夜唯可の首を()ね飛ばす————はずだった。


「なに?」


 しかし、思い切り振った腕は空を切った。予想外の事態に混乱する。

 さらに直後、真下から衝撃。とは言っても、攻撃というほどの威力ではない。トン、と少し力を入れた程度の衝撃。けれど、超速度で駆けていたヴァイスにとっては僅かなバランスの変化が致命傷に繋がる可能性もある。


「ぐっ……! 小癪な人ですねえ……」


 結局ヴァイスはバランスを崩して盛大に転んだ。廊下の壁にぶつかったのを見て、友介は唯可の手を引いて駆け出した。ヴァイスの前を通る際には心臓が凍るほど緊張したが、意外にもヴァイスは何もして来なかった。


「と、とにかく逃げよう! どこでも良い……逃げないと殺される!!」


 叫びながら友介は今しがたの現象に恐怖する。

 何だ、今のは? あんな速度で走る人間など見たことがない。


「ゆ、友介。さっきは何で避けれたの……? あんな速かったのに……」

「え、何がだ!?」

「ほら、さっきのあの魔術師の攻撃だよ……」

「ああ……説明は後だ! まずはどこでも良いから身を隠す! もう一度追い付かれたら今度こそ終わりだ。それに……」

「それに?」

「俺もお前に、聞きたい事がある」

「うん……」


 唯可の短い返事を聞いて、友介は僅かにだが顔を綻ばした。

 二人は階段を(くだ)り切ると、そのまま廊下を突っ切って昇降口を走り抜けた。勢いを止めず校門を抜け、坂を下り始めようとした。

 そこへ。

 背後から巨大な水塊が飛来してきた。


「な——ッ!?」


 水塊が友介の横を通り抜けて地面を穿った。轟音と共にアスファルトが砕け散る。

 友介は思わず立ち止まって背後を振り返ってしまう。

 近くには誰もいない。

 ただ、視界の向こう。友介が通っていた学校だった建物の屋上にそいつはいた。

 魔術師・ヴァイス=テンプレートは、顔に意地の悪い笑みを浮かべながら屋上の縁にゆったりと立っていた。

 見れば、彼の周囲には直径五メートルほどの水塊が六つほど浮かんでいた。ヴァイスの意志に呼応しているかのようにゆらゆらと空中に浮かび続けているそれらは、彼が右手を掲げると、まるで回転式拳銃の撃鉄を起こしたときのように、カチャリと回った。

 軽く右手を降ろすと、彼の頭上に位置する水塊が超高速で射出された。

 ゴッッッ!! という轟音すら伴って放たれる水塊は真っ直ぐに唯可へ向かって飛来する。


「な、あいつ……!」

「きゃっ!」


 友介は彼女を庇うため、とっさに彼女を地面に押し倒した。頭を打たないようにするために彼女の頭を抱きかかえるようにして守ってやる。

 水塊は友介の頭上スレスレをものすごいスピードで通過して行く。背後で爆音が轟き、舞い上がったアスファルト片が真上から友介を打ちつけていく。


「が……ッ!!」


 激痛が全身を襲うが、それでも重傷は負っていない。走れる。逃げることができる。


(ここで止まれば殺される……それだけはダメだ……。絶対に、ダメだ!!)


 脳裏にさきほどの凄惨な光景が蘇った。

 幼馴染みの顔面で殴られ続け、精神を壊された少年。

 そして。

 彼の最期の言葉を——。


「うぐ……っ。く、そぉ……」


 思い出した瞬間、吐き気が込み上げてきた。


「ゆうすけ、大丈夫……?」

「あ、ああ……心配するな」


 死体は見慣れているつもりだったが、そうでもなかったらしい。

 四年前から続くトラウマを乗り越えることもできていなかった。

 こんな状態で唯可を守れるのだろうか。もし、途中で心が壊れてしまったら。彼女を救えなかったら……。

 そんな最悪の可能性が友介の頭の中によぎった。


(ダメだ! そんな弱気じゃ、守れるもんも守れねえ!)


 彼はもう一度走ろうと心に活を入れた。




 友介が心の中で決意を固めている一方で、愉悦の笑みを浮かべるヴァイス=テンプレートは手に持ったスマホで部下に連絡を取った。


「ええ。そうです。お願いします。仕掛けを作動させます。どうか皆さん、存分に暴れて下さいな」


 彼は己の目的の達成が近付いていることを実感し、震えるような歓喜を感じ取っていた。体の内から湧き出る震えを止められない。

 それを部下に悟られないようにしながら、彼は決定的となる言葉を告げる。



「渋谷を地獄に変えて下さい」



 やっとだ。

 やっと貴様に辿り着いたぞ。

 湧き上がる復讐の炎を舞い上がらせながら、ヴァイスは指を鳴らした。



「————次はお前だ、安堵友介」



 直後。

 渋谷の街に爆音が轟いた。

 ありがとうございました! 次話からは第二章『五感拡張計画』になります! よろしくです!

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