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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第三編 鬼の影
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第一章 明るい彼らのバカな日常 2.それぞれの日常

 担任教師が教壇に立ち、今日一日の連絡事項を述べる。

 友介はそれを聞き流しながら、鞄の中からタブレット端末と紙のノートを取り出した。

 教室のあちこちでひそひそ話が聞こえてくるが、今は別に友介の陰口を言っている訳ではないようだった。


「そういやさ、今日中等部に転校生が来たらしいぜ」

「え!? マジで!? 可愛いかな」

「がははは! まあ俺が見に行ってやるか」

「さすがよっちー。いきなり転校生を落とそうってのか!」


 先ほど友介に因縁を吹っかけてきて、友介がリンチされるようにしむけて来たクソ共四人が何か下らない話をしていた。


 友介は彼らにバレないように盗み見る。

 よっちーと呼ばれる大男が、あの四人の中で中心人物である。何かにつけて友介に絡んできては、他のみんなが友介をリンチするように仕向けてくる少年。本名は確か剛野良樹(ごうのよしき)だったはずだ。友介が今まで出会った人達の中で最も体臭が酷い人間だ。そしてその周りに控えるのが子分A、子分B、子分Cの三人だ。


「でもまあ、よっちーなら行けるっしょ!」

「がははは! 当然だ! まあ可愛かったら友達くらいにはなってやっても良いぜ」


(何様のつもりだよデブ死ね)


 心の中で毒を吐きながら、友介は『転校生』という言葉について考えた。

 そう言えば、あの少女と出会ったのも、彼女が転校生として録命中学にやって来たからだった。……いやまあ実際は、友介をヴァイス=テンプレートから守るためにやって来たのだが、始まりは確かに転校生とばったり道で出くわしたというものだ。

 友介は静かに思う。



「……会いてえなあ」


☆ ☆ ☆


「くしゅん!」


 可愛らしいくしゃみが渋谷の街に小さく響いた。


「どうしたんですか、姫? せっかくの旅行で風邪ですか?」


 心配そうにこちらを覗き込んでくるのは銀髪の少女、ナタリー=サーカスだ。純白のノースリーブワンピースが、少女の褐色の肌によく似合っており、まるで人形のような印象を与えていた。


「ううん、違うよ。もしかしたら誰かが私の噂でもしてたんじゃない?」

「はあ」


 ナタリーの言葉に、空夜唯可が冗談めいた調子で返した。彼女は筆記体で英字の書かれた白いTシャツの上に黒い薄手のカーディガンを羽織り、黒地に白い水玉模様のあるスカートを穿いていた。そして当然、頭には彼女のチャームポイントたる魔女帽子を被っていた。


 二人は渋谷駅を出る。地面には二メートル四方ほどの正方形のタイルがいくつも埋め込まれているようだ。

 相変わらずビルと人が多い街だと思う。あの狂乱から二年しか経っていないというのに、ここまで復興できたというのか。科学圏の技術力が高いのか、あるいは残された人々の執念の賜物か。いずれにせよ、この復興は唯可にも希望を持たせてくれた。


 きっとここにはあの少年がいるから。この街でなら、きっと彼も立ち直ることが出来ただろう。

 ご機嫌な様子で鼻歌を奏でていると 突如、軽い電子音と共に唯可の目の前に小さなウィンドウが映し出された。


「わひゃあ!?」

「な、何ですか!?」


 突然のことに驚いた唯可とナタリーがそれぞれ奇怪な反応を見せる。周囲の人々が奇異の視線を向けてくるが、当の本人達にしてみればそれどころではない。


「ど、どどどどうしよう!」

「姫、お、落ち着きまちょう! きゅ、きっと大丈夫でつ!!」

「まずはナタリーが落ち着こうか!!」


 そうこうしている間にも事態はどんどん進んでいった。



『ようこそ、若者の街渋谷へ!! ここでは誰も彼もが主役です! たくさん輝いて己の可能性をひけらかして下さい!』



「「しゃ、喋ったーっ!?」」


 二人声を合わせて驚愕した。


「どどどどどどどゆこと!? どこから!?」

「ま、まさか新手の魔術師!? それとも科学圏からの空襲があるのでしょうか!! こんなに人がいるというのに!! とにかく身を隠しましょう! このままではなぶり殺しです!!」


 馬鹿みたいに騒ぐ二人の少女。

 まだ駅から一歩出ただけだというのにこの有様。

 波乱の渋谷観光になることは必至だろう。


☆ ☆ ☆


「ふわぁ……」


 とある学校の寮の一室に、馬鹿みたいな声を上げて重いまぶたを上げる少年がいた。ジリジリとうるさい目覚まし時計のアラームを、つい先刻と同じように布団の中から手を伸ばして止めた。


「もっと寝たい……」


 そう言ってもそもそと布団から顔を出して、デジタル時計の液晶に映し出されている数字に目をやった。


「午前、くじ……九時……九時二十分!? うっわやべえ!!」


 直後、温もりと眠気を与えてきていた羽毛布団を跳ね上げて、短髪を茶色く染め上げた少年が起き上がった。

 少年——草加草次はダッシュで洗面所へ直行。歯磨きと洗顔、ヘアセットをものの三分で終わらせると、慌てふためいた様子で支度を始めた。しかしあまりの焦りのためか、勢い余って小指をテーブルの足にぶつけてしまい悶絶した。


「う、ぐぅおお……っ!!」


 それでも痛みを押して草次は支度を済ませた。


「っしゃ完璧! 一時間目には間に合うな!!」


 遅刻は確定してしまってるから仕方がない。草次はそう割り切って体当たりするように扉を開けた。

 直後。


「ふひゃあ!」

「何だ!?」


 素っ頓狂な声が耳元で響いた。突然の声に草次がひっくり返ってしまう。近くにいた何者かを巻き込んで床に転がった。


「つつつ……」


 軽く頭を打ってしまい鈍い痛みが広がった。地面を掴もうと右手を泳がした。すると何か柔らかい感覚が草次の掌に返ってきた。


「…………?」


 疑問に思い、草次はその柔らかい何かを必死に揉みしだく。

 一秒、二秒……五秒間たっぷりとその感覚を堪能し、草次はとうとう理解した。


(これ、まさか……)


 慈愛が込められた愛の象徴。男の理想そのもの。万物の頂点に位置するもの。



「おっぱい、か……」



 その、全てを悟りきったかのような声を聞いて。


「はわ、はわわわわわ! な、なななな、にゃ、な、にゃにを……っ」


 顔を()れた林檎のように紅潮させた痣波蜜希が、不届き者の顔面に拳を叩き込んだ。




 平日の朝の環状線の込み具合と言えば筆舌にしがたいものがある。おしくらまんじゅうの完成系のような空間にいれば、たとえ冬であろうと汗をかいてしまうものだ。この夏の時期ともなれば焦熱地獄と変わらないだろう。

 だがそれも、通勤通学ラッシュを過ぎてしまえば話は変わる。ガラガラ、というほどではないが、人の数もまばらになる。


 草次は鼻に詰めたティッシュのポジションを調整しながら、隣でゆでだこのように顔を赤くしている蜜希に話しかける。


「いやー、でも、びっくりしたぜ。なんで蜜希ちゃんがあんな所にいたんさ」

「び、びびび、びっくりしたのは、わ、わた、わたしの方、だよ……。い、いきなり私の、その、お……お……」

「おっぱい?」

「ふしゃあ!」

「のわっ!?」


 蜜希手刀が飛んで来た。喉を目掛けて飛んで来たそれを、草次は間一髪の所で避けた。


「く、くく、草加、くん……全然反省して、ない……」


 恨めしそうな視線を送ってくる蜜希に、草次は笑って、


「いやいや、してるって。今度はちゃんと許可を————ごめん待ってストップストップ」


 グーを構える蜜希をなだめる草次。

 電車に揺られながら、草次は隣に座る少女のを横目で眺めてみる。

 チェック柄のシャツと短いプリーツスカート。シンプルだが明るい雰囲気を醸し出しており、彼女の端正な顔を引き立てていた。


「んで、蜜希ちゃんは俺にお礼がしたいんだっけ」


 会話が途切れたことを見計らって、草次はさきほど蜜希に言われたことを思い出した。


『あの……この前助けてくれた、お礼……しし、したいな、って……』


 玄関先で顔を真っ赤に紅潮させた蜜希は、しどろもどろになりながらもそう告げてきた。人の顔を見ることが苦手なのか、草次から顔を逸らすように俯きながら一生懸命言葉を絞り出す蜜希は、控えめに言って超可愛かった。その後に付け加えた、『え、ええ、えっちなのは。な、なし!』と叫ぶ姿も萌えた。


 この前——とは、おそらく安倍涼太との一件のことだろう。草次としては己の誓いに従って蜜希を助けたに過ぎないのだが、彼女からすればお命の恩人に変わりはなかった。


 とりあえず何もして欲しいことなど特に無かったので、草次はとりあえず街へ出てデートしてくれというお願いをすることにしたのだ。


(棚からぼた餅とはまさにこの事! 蜜希ちゃんみたいな美少女とデートなんて一生あるかないか程度のことだぜ……ッ!!)


 本人が聞けば顔を真っ赤にして抗議しそうなことを考えながら、草次はクツクツと暗い笑みをこぼす。


「…………」


 隣で蜜希が軽く引いているが、喜びにウチ震える草次は気付いていない。


「それで、蜜希ちゃんはどっか行きたい所とかある?」

「えっと、わ、わたし? わたしは特に、ない、かな……?」

「おっけー! じゃあちょっと早いけど、駅降りたら昼にしようぜ!」

「草次君……ここ、で、電車、だよ……」


 大きな声を出す草次に、蜜希は唇の前で人差し指を立てて『しー』と注意した。

 注意された草次の顔は、心底幸せそうだった。


☆ ☆ ☆


 午前の授業に終わりを告げるチャイムが鳴り、昼休み。

 雲一つない初夏の晴天とは裏腹に、友介の気分は終始曇っていた。

 この学校は本当に居心地が悪い。生徒達から攻撃されるだけならまだ『くだらない』の一言で済むだろう。


 けれど、教師までそれに加担してくるとなると話は別だ。生徒を守るべき——もっとも、友介は守ってもらう気などさらさらないが——立場であるはずの教師までが同じように生徒を攻撃するというのは(いささ)か異常ではないだろうか。


(まあ、しゃあねえのかもしれねえけどよ)


 どれもこれも二年前の渋谷事変が発端だ。

 録命中学で起きた集団殺人。大量の人間の首が切り落とされ、近くの棚に綺麗に陳列されていたという、あの狂乱の中でもとびっきりに狂った事件。友介はその事件の犯人だと疑われているのだ。

 根も葉もない噂。証拠なんて無くて、動機すら存在しない。ただ、『その時学校に残っていたから』という理由だけで友介は野放しにされた殺人鬼のような扱いを受けているのだ。

 友介は一つ舌打ちを打つと、弁当を持って席を立った。向かう先は屋上。なのだが……、


「はーいストップー! ここを通るには通行料が必要でーす。通りたければ千円置いていってくださいねー! がはははは!」


 廊下へ出ようという所で、野太い声をした大男が割り込んで来た。彼の周りでは三人の子分共がニヤニヤと頭の悪そうな笑みを浮かべている。


「ほら、外出たいんだろ? だったら払えよ。なあ、お前らもそう思うよなあ! 生きてるだけで罪なお前をこの教室においてやってるんだ。だったら出入りの時に金くらい払って感謝の気持ちを見せてくれよ」


 こいつと出会ってから何回『崩呪の眼』を使ってやろうと思ったかは分からないが、とにかく我慢するしかない。

 友介は剛野の言葉を無視して、彼を横へ押し退けると黙って廊下へ出ようとした。だが、


「おい!! お前誰に手ぇ出してんだ! 犯罪者のくせに生意気なんだよ!!」


 ゴドン!! と鈍い衝撃がこめかみを中心に広がった。パワーに任せた鈍重な一撃ゆえ、『眼』を使わずとも避けるのは容易かった。だが、ここで避けてしまえばまた妙な言いがかりをつけられてクラス総出で袋叩きにされるかもしれないので、仕方なく受けたのだ。

 床へ転がる。


「おい、そこに生ゴミが落ちてるぜー! 女子誰か拾ってやれよ! がはははは!」

「ちょっマジ無理ー!」

「きっも。きゃはは」

「リン、こいつをピンチから救って惚れさせてみてよ」

「本当に無理。お願いだからそれやめて」


(こっちが願い下げだ、ブス)


 リンと呼ばれる茶髪の頭の悪そうな少女を一瞬で切り捨てた友介は、もう外に出る事は諦めて教室の中で昼食を取る事にした。馬鹿共を放って自分の机に向かう。


「おい、金は?」

「払わねえよ。別にもう外に出ねえから良いだろ」

「はあ? 俺は今から中等部に転校して来た女子と飯食いに行くんだよ。昼飯代も奢らなねえといけねえし。早く出せよ」


 友介は剛野を冷めた瞳で一瞥すると、今度こそ完全に無視を決め込んだ。


「ああ? お前今のなんだこら。なに軽蔑したみたいに見てんだゴミ!!」


 何か喚いている馬鹿を放って、友介は弁当を広げた。

 中は……お世辞にも上手とは言えない盛りつけだが、可愛らしい文字で『ふんばれ!』という文字があった。(つたな)くも愛情のこもったこの盛りつけは杏里のものだ。


(前よりちょっと上手くなってんな)


 朝怒られて時間なんてあまり無かったくせに、友介のために作ってくれたのだろう。

 友介はついさっきまでのイザコザも忘れて弁当に箸を伸ばそうとした。

 だが、その直前。


「無視してんじゃねえよ、安堵おおおおおおおお!!」


 剛野が弁当を床に(はた)き落とした。

 瞬間。

 ぶつん、と。

 頭の中で何かが切れた。

 友介はゆらりと立ち上がると、座っていた椅子に手を伸ばす。これでこいつの頭を叩いて、軽く灸を据えてやろう。


(ちょっと調子乗り過ぎだ)


 だが、その一歩手前。



「やめときなさい。善良な一般人を怖がらせても良い事なんて一つも無いわよ」



 突然現れた美少女に、クラスの喧騒が止んだ。

 長い赤髪。金色の瞳。小さな体にもかかわらず圧倒的な存在感を放つ少女がそこに立っていた。

 友介はその少女を知っている。

 風代カルラ。

 クラスメイト達のひそひそ話を聞く限り、どうやら彼女が中等部に転校してきた美少女らしい。

 友介はカルラの登場に困惑しながらも、ぶっきらぼうに用件を尋ねた。


「何しに来やがった」

「別に。ただ……」


 カルラは教室の中を見渡す。友介や、彼を取り囲む生徒達の様子から、今ここで何があったのかを悟った。

 そして彼女は。



「ぶふっ! あ、安堵が虐められてる……っ!! お、面白い……っ!!」



「お前何笑ってんだよ!! ぶっ飛ばすぞ!!」


 カルラのあんまりな反応に友介が目を剥いた。


「い、いやだって……ふふは! だって、……っ! ひ、あはは!!」

「笑い過ぎだ!!」

「だって、ねえ? 自分の仕事仲間がこんな……こんな悲惨な目に……!」


 悲惨な目に遭う同僚を笑う少女。ひいひいと苦しそうに笑うカルラを、友介は額に青筋を浮かべながら見つめる。


「だ、だい……大丈夫……? ぷ、あははは!」

「なるほど覚悟はできてんだな。風代、お前には二、三発の鉛玉をプレゼントしてやる」

「ご、ごめん……! でも、でも……ホントごめん……っ!!」

「お前謝る気ねえだろ」


 突如目の前で繰り広げられる二人のやり取りに、先ほどまで友介を攻撃していたクラスメイト達の面々が置いていかれてしまう。


「んで、だから何の用なんだよ」


 イライラした様子で乱暴に尋ねる友介に、カルラが笑いを押し殺したような表情で向き直った。ひとしきり笑うと、ゆっくりと呼吸を落ち着けて、真剣そのものの表情で友介の目を見た。


「ぶははっ!」


 耐えられなかった。


「えっと、その招集がかかって……それで……」

「ああもう良い。大丈夫だ。もう帰って楽になれ」


 ひらひらと手を振ってカルラを追い出す。

 カルラもそれに大人しく従ってお腹を抱えながら教室を出て行く。

 だが、教室を出る直前に、彼女を留める声があった。


「なあなあ、君って噂の転校生だよねえ」


 底抜けに明るい顔で、剛野がカルラに声を掛けた。それをきっかけに、友介とカルラの茶番に呆気に取られていたクラスの面々がざわざわと色めき始めた。


「おい、よっちーがいったぞ」

「無理じゃない? あの子日本人どころか人間の枠越えてそうなくらい可愛いし」

「おいうっせーぞ前ら!」


 剛野がご機嫌な様子で叫ぶ。

 何が面白かったのか、クラスからどっと笑いが上がった。

 剛野は顔にとびっきりの笑顔を張り付けてカルラへ近付いた。それを、カルラは特に何も感じていないような表情で見ていた。


「もう飯喰った?」

「まだよ」

「おっと自己紹介がまだだったな。俺の名前は剛野良樹だ」

「風代カルラ。今日転校してきたわ」

「知ってるぜー。こっち高等部まで噂が流れてきてる。とびっきりに可愛い女の子が転校してきたってな」

「そうなの? それは光栄ね」


 カルラが足で床をとんとんと叩きながら適当な調子で答えた。


「それで、ご飯に誘ってくれるのかしら?」

「おう! 話が早くて助かるぜ! どうやら安堵の醜態をえらく気に入ってくれたらしいしな。もっともっと面白い話をしてやるぜ!」


 そう言って剛野がカルラの肩に手を回そうとする。その様子に、友介以外のクラスの男子全員が抗議の視線を放ったが、彼は気にしない。身を寄せ、彼女を——



「触んないでくれるデブ。っていうかなんか臭いんだけど」



「……は?」

「アンタちゃんとお風呂入ってるの? 本当の本当に……鼻が曲がるほどの異臭がするんだけど。あと、よくその顔面でナンパなんてする気になったわね。はい、これ手鏡よ。それで自分の顔をよく見なさい。それと周りに同調を求めるのもキモいわ。何よりも異臭が酷くて仕方がないわ。あと————」


 矢継ぎ早に放たれる罵詈雑言に剛野の思考が真っ白になる。

 そんな彼の様子に興味も持たずに、彼女はさらに続ける。



「そいつ意外に良い奴だし。アンタみたいなクズとは大違いよ」



「え、えと……」

「話は以上。分かったらこれ以上近づかないで……あ、ダメ。本当に臭い」


 彼女は鼻を押さえて教室から出て行った。廊下から「おぇ……っ」という、えずくような声が響いてきた。

 教室に沈黙が降り、


「ぷはっ!」


 堪えきれなかった友介が笑い声を漏らした。しまったとばかりに顔をしかめると、すぐに真顔になってそっぽを向いた。

 そしてその日、剛野良樹は学校を昼休みで早退した。


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