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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第二編  陰陽の死角
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第三章 少女・字音 2.戦闘開始

「それで」


 廊下の角に隠れながら、友介は短く疑問を口にした。


「どうやってあいつを表舞台に引きずり上げるんだ」



「引きずり出す必要なんかねぇよ」



 突如背後から響いた声に、友介と字音が反射的に振り向いた。

 だが、それよりも早く友介のどてっ腹に重く速い衝撃が走った。体内の空気が全てまとめて吐き出され、そのまま後方へ十メートル近くノーバウンドで吹っ飛ばされる。地面を転がり、さらに十メートルほど進んでからようやく勢いが消えた。


「がほっ! が……げ、ぶっ!!」


 その場で激しくえずき、必死に空気を取り込もうとする友介。


「いやいや。まさかお客様と字音が接触するとはこっちも予想外だった。プライベートルームだと言っておけば近付いてくることは無いかと思っていたんだが、テメエは少し常識ってのが欠如してるみてえだなぁ」

「あ、が……ッ!!」


 まるで声変わりしていない小学生のような声が届いてきた。吹っ飛ばされた友介と、それを間近で見ていた字音がそちらへ視線を向けた。


「涼太……」

「よう字音ぇ、久しぶりだなあ。やっと見つけたぜえ」

「…………っ」


 第一の事件と共に忽然と姿を消し、しばらく行方が分かっていなかったこの館の主・安倍涼太がそこに佇んでいた。周囲には五体の屍人を従えており、昨夜の一件が眼前に立っている男によって引きこされたものだと、友介はようやく気付いた。

 涼太は遠くで喘ぐ友介にはつゆほどの興味も持たず、字音へ視線を向ける。


「それにしても、まさかこんな形でかくれんぼの決着が付くとはなあ。予想外だったよ」

「…………涼太が仕組んだことでしょ」

「まあな。字音が科学圏にいるって情報を政府へ事前にリークしておけば、あっちは否が応でも動かざるを得ねえ。なんたって西日本帝国最小にして最強最悪の魔術結社『土御門一族』の直系が首都近くにいるんだ。二年前の渋谷事変での対応の遅さによってあれほどの被害を被った東日本国は、絶対に強大な戦力を投入してくる」


 安倍涼太は馬鹿にしたような、見下したような視線を友介へ向けながら、


「まあ蓋を開けてみればとんだチキン野郎だった訳だが。まあそれはともかくとして、俺の作戦は成功した。今までは取るに足らない馬鹿共を混乱させて楽しみながら、その光景を遠くから見ているお前の精神が壊れて勝手に飛び出してくるのを待っていただけだったんだが……今回は少し趣向を変えてみた。『土御門字音』という人物を捜しにきたこいつらに、分かりやすいメッセージを残し、分かりやすい謎を提示した。するとこいつらは、死にものぐるいでお前を見つけようとするはず……だったんだが、意外なことに俺を疑うような主張が出てきた。テメエ、心構えは三流でも、頭は少しだけ切れるらしい」

 犯人の口から語られる今回の事件の真実。それは、とても下らないものだった。犯人は身を隠していただけで、その動機も友介達とは全く関係のないこと。


「このままでは俺が疑われる。字音を見つけようとはせず、あの部屋まで見られる可能性があった。だから誰か一人に濡れ衣を着せるしかなかった訳だ。その下拵えが、殺害事件が起きたあの夜だ。一部屋に複数人が泊まっているのなら、絶対に交代で見張りを付ける」


 つまり。


「夜中に変な音が聞こえてきたら、見張りをしてる奴は必ず様子を見に来るだろ。俺は安堵友介が見張りを始める時間に屍人を差し向け、あとは同時刻にみかこを殺せば容疑者はそいつに絞られる」


 夜中のあの一件は、友介を部屋の外に出し、一定時間部屋へ戻らせないことによって安堵友介が殺害時刻に部屋にいなかったという事実を作り出すためのものだった。


「しかもそいつは、死体の一つを蹴り付けてくれやがった。おかげで靴跡が体に残り、状況証拠だけじゃなくて物的証拠まで自分自身の手で……いや、足で作りやがった。本当、ラッキーだった」

「でも……それがどうして……」

「あぁ?」


 割り込むように声を上げた友介に、涼太が露骨に苛立った調子で返した。


「……っ、たとえ俺が濡れ衣を着せられたとしても、それで俺が土御門字音と接触できるとは限らないだろうが」

「そうだな」

「だったら……っ」

「けど、お前は特別だ」

「はあ?」

「とぼけんなよ。お前の左目に宿ってる力のことだろうがよぉ」

「…………っ! なんでそれを?」

「なんで知られていないと思うんだ。お前はあのヴァイス=テンプレートを、『異端』を撃破した男だぞ? そんな奴が俺たち魔術師の間でマークされないはずがないだろおが。お前のその魔眼の力なら、字音が一階に張り巡らせた『神隠し』の術式を破壊できると踏んだ。実際、二階の床を——つまり一階の天井を破壊してくれたおかげで、字音の『一階という閉鎖空間に神隠しされた』という妄想を破壊できた。妄想を破壊すれば、魔術によって作り出した均衡は崩れる。俺は簡単に字音に辿り着けるってわけだ」


 魔術とは、妄想を現実にする異能だ。己の中で明確なイメージを思い浮かべることが出来ているのならば、どれだけ荒唐無稽な事象も、『三つの不可能』に抵触しなければ引き起こすことができる。しかし一方で、その妄想が僅かでも揺らいでしまえば、魔術は発動できない。発動していた魔術も簡単に瓦解してしまう。


「さぁてと、答え合わせはこの辺で十分か?」


 涼太が、薄い笑みを顔面に貼り付けながらゆるりと片手を上げた。


「じゃあ、死ね」


 言葉と同時、彼はその手を字音に向ける。

 直後、彼の周囲に控えていたゾンビ達が一斉に字音へ襲いかかった。


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