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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第二編  陰陽の死角
30/220

行間一

 十年。

 十年だ。

 十年間、少女は己自身を信じ続けた。己の中に秘められた才能を信じ続けた。

 名門家に生まれた自負からか、あるいはその家に生まれたという責任感からか、少女は己の在り方を疑うこと無く、その身を高みへと昇らせるための努力を怠らなかった。そしてその努力は僅かに、だが確実に少女を成長させていた。


 努力が報われるという結果は、少女にこれ以上無いほどの達成感と幸福感を与えた。

 飽きもせず同じことを繰り返す毎日。それはとても辛くて苦しい行為だった。それでも、あの達成感を得るためならば、少女はどんなに苦しいことだって乗り越えてみせた。


『好きこそ物の上手なれ』


 少女が小学三年生の時に習ったことわざだ。

 彼女はこの言葉がとても好きだった。だって、この言葉は少女の在り方そのものをありのままに示していたのだから。


 少女が好きなものは魔術。

 いや、もっと正確に言うならば、その中でも特異とされる技術である、日本固有の魔術体系——『陰陽術』。

 少女は陰陽術を扱う術者達・『陰陽師』の一族の次女だ。

 少女は陰陽術が好きだった。理由は分からない。ただ、素敵だと思ったのだ。世界で無差別に振るわれているただの魔術とは違う。世界から秘匿され、密かに研究を進められている陰陽術が、なぜか神秘的な気がして、とても素敵だと思った。


 けれど。

 そんな彼女の努力と情熱を否定する人間がいた。それは、本来なら彼女の味方であるべきはずの兄弟達だった。

 いつか、兄が言っていた。


『お前には圧倒的に才能が足りない。だから、これ以上努力しても無駄だ。それ以上すれば、お前が傷付くだけだ』


 いつか、姉が言っていた。


『あなたみたいに、何の才能も無いくせに人一倍努力した結果、何一つ報われることなくその生涯を終えた人を知っている。あなたは現実を見なきゃいけない。じゃないと、折角の人生を無駄にしてしまう』


 別に、彼らは少女のことが嫌いだからそんな事を言ったわけではないだろう。むしろ愛されていたとすら言える。

 嫌われているとすれば、頭のおかしい弟や、一族始まって以来の天才と称される程にズバ抜けた才能を持った『巫女』である妹の方だったろう。


 だから。

 少女は自分を愛してくれた兄や姉を驚かせてあげたいという思いもあり、より一層努力し続けた。陰陽術に関するあらゆる書物を読み漁り、書いている内容に対して自分なりの解釈を加えてみる。


 そうして前へ進み続けた少女は、とうとう『星読み』と呼ばれる、かの安倍晴明が得意としていた陰陽術に己の手を届けた。

 やっと掴んだ大成。

 それは、少女の心をこれ以上無い程の達成感で包んだ。

 血の滲むような努力の末、手に入れたモノ。

 手に入れて——ようやく気付いた。

 己の道が険しく、長い道のりを歩いて来たことを自覚しているからこそ、気付くことが出来た。

 あらゆる文献に目を通してきていたが故に、残酷な事実が少女の心を抉った。



 ——すなわち、少女には何の才能も無かったということに。



 たった一つの真実。

『星読み』という陰陽術には、本来努力など必要の無いモノだったのだ。

 星読みとは、未来を見通す力ではなく、未来を決定させる力だった。そして当然、そんな強大な魔術を行使するためには誇大な妄想力と多大な魔力が必要だ。人の、あるいは世界の未来を決定させるほどの妄想など、凡人には出来るはずもない。ただの女の子である字音には不可能だった。


 悔しかった。

 辛かった。

 苦しかった。

 胸の奥を握りつぶされるような感覚が少女を襲った。

 流したいわけじゃないのに、両目から勝手に涙が溢れ出してきた。


 涙を流しながら気付いた。

 深夜、家族に隠れてこっそり星を見に行ったことも。

 徹夜で勉強したことも。

 図書館で朝から晩まで本と睨めっこしたことも。



 その全てが無駄な努力だった——。


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