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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第二編  陰陽の死角
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第一章 五人 2.任務

 一通り自己紹介も終わり、本格的に何をする? という場面になったちょうどその時、部屋に取り付けられたスピーカーからどこかで聞いた少女の声が聞こえた。


『やあやあ、諸君。調子はどうだい? 残念ながら僕は絶不調だ。使えない部下が悪いっていうのに。何で僕が苦労しなくちゃいけないのか』


 二年ぶりに聞いた声だったが、何故か鮮明に覚えていた。

 光鳥感那。

 科学圏東日本国の『総帥』に当たる人物で、この国を影から操っていると自称する怪しい少女だった。

 実際に会ったことも無ければ、噂すら聞いたことが無い。そもそも『総帥』なんて役職が有るのかも不明だ。

 とはいえ、彼女の言う通りこの場に『仲間』とやらが集まったことが真実だったことから、ある程度は信用できる人物であるらしいことは分かった。


(それでも怪しいことに代わりはねえけどな)


 友介は心の中で適当に吐き捨てながら、感那の話を静かに聞いた。


『まあ、ずっと立ってるのもアレだろうし、手短に終わらせるよ』


 バリバリボリボリとスナック菓子を頬張る音や、ゲームの爆発音が聞こえてくるのが堪らなく気に入らないが、そこに突っ込むと話が長くなりそうなので口を閉じておいた。

『ポテッチうめえ〜』とか『芋プ乙』とか聞こえてくるのも我慢した。


『んじゃあ、僕も忙しい身だし、さくっと説明を終わらせちゃうね』


 彼女はポテッチを一つ頬張ると、


『君たちは僕の直接の部下です。僕の方が偉いです』

「断るわ」

「右に同じ」

『はいそこ問題児二人茶々を入れなーい』


 ギロッ! とカルラがこちらを睨んできた。


「(真似しないでよ)」

「(はあ? 何勘違いしてんだ? 俺が言おうとしてたのをお前が先に言っただけだろうが。お前なんかを手本にすると思ってんのか? この自意識過剰アホ女)」


 ドゴン! と腹に一発重い一撃を喰らい、友介は静かになった。


『仲良いねえ』

「よく……ない……ッ!!」


 切実な声だった。


『ま、馬鹿二人は放っておいて……。とにかく、君たちは僕が与えた任務を執行するだけの人形になっていれば良い。それだけで、君たちの目的は勝手に叶うよ』


 ピクリ、と。

 友介のこめかみが不気味に蠢いた。


(……自重しろ)


 己を落ち着かせるように深呼吸する。

 落ち着いたことで、隣に立つカルラの様子がおかしいことに気付いた。

 何というか……、


(怒ってる?)


 彼女が常に不機嫌なのはこの三十分ほどで既に分かっていたことなのだが、今までのそれとは全く違うように思える。

 表情に変化は無い。

 ただ、その双眸が。

 瞳の奥に隠された光が爛々と光っているようだった。

 狂気すら抱くほどに、鋭く強い光が秘められていた。


「なに?」


 友介がずっと見ていたことにようやく気付いたのか、キッ、と気の強そうな瞳を向けてきた。

 もうすでにそこには、さっき見た強い色は感じられなかった。代わりに、蔑みの色があった。


「変態」

「だぁれが変態だ!」

『もう良いからさー。話しの腰折らないでくれる? 僕も忙しいんだよ』

「お前はいい加減にお菓子食うのやめろよ!」

『あとそれから、君たちは裏の人間だって事を忘れないでね。大切な人にそのことをバレるのはあまり良くないと思うから、そこんとこよろしくねー』

「…………」

『それじゃあまあ、これ以上ダラダラすんのもアレだし、早速本題に入ろうか』

「本題?」


 友介が怪訝な声を上げた。


『おいおい、君さあ……もしかして顔合わせだけで今日と言う記念すべき日が終わると思っていたのかい? もしそうだとしたら、僕は失望のあまり君を殺してしまいそうだ』

「殺すな」

『あのね、僕はめんどくさがりなんだよ? 一日中ゲームしときたい人間なんだよ? なのに、大した用も無いのにこんな下らないことに興じていると思う?』

「今だって遊んでるだろうが」

『FPSは遊びじゃねえんだよ殺すぞ! この腐れ童貞がッ!』

「そこまで言われる理由はねえ!!」

「チッ。うっさいから黙ってて童貞」

「ああ!? 貧乳ロリ体型こそ黙ってろよッ!」

「お前今すぐ殺してやるッ!」


 今にも殺し合いになりそうな友介とカルラの二人を、草次と蜜希がそれぞれ羽交い締めにする。


『どうやら落ち着いたみたいだね。じゃあもう一度言う。本題に入るよ』


 ゴクリ……と生唾を呑み込む音が草次の喉から聞こえてきた。


『やることは簡単。群馬の山奥にある屋敷にいるという陰陽師・土御門字音を殺してきて欲しい』


 スゥー……と。

 うなじの辺りから熱が引いていく感触があった。

 群馬に、陰陽師?

 つまり、この科学圏に魔術師が紛れ込んでいるのか?

 得体の知れない寒気のようなモノが、指先からジワジワと這い上がってくるような気がした。

 脳裏に浮かぶのは、六年前のあの地獄。

 そして。

 二年前の狂乱だった。


(なんだ、それ……?)


 瞬間、恐怖が腹の底からせり上がり、大声を上げて走り出したくなる衝動が友介の中で暴れ回った。

 それをなんとかして堪え、友介は感那に先を促した。


「……それで? 敵の居場所はどこだ? 俺たちは何をすれば良い」


 自分でも声が震えているのが分かった。


『別に力む必要は無いよ。土御門字音は大した魔術師じゃないから。どこにでもいる規格級魔術師だよ。ただやっぱり、不安の種は潰しておきたいからね。場所はまた後で端末にマーキングした地図を送っておくよ。最初の任務だからね。そんなにキツいことはさせないから身構えないでも大丈夫、大丈夫』

「へえ。それなら安心だな」


 軽い調子で返したのは千矢だった。


「つまり、この先立ち向かうであろう難題への予行演習みたいなもんか。あるいはレクリエーション?」

『おお。察しが良いね! そうそう、その通り。ようは、君たちに実戦に慣れてもらおうっていうことさ。分かった?』

「了解」


 カルラが軽い調子で返事を返し、後の四人もそれに応じるように頷いた。

 感那にはその様子が見えているのか、『おっけー』とスピーカーの向こうで適当に声を上げる。


『それじゃあよろしくねー』


 通信が途絶え、静寂が戻った。


☆ ☆ ☆


 あの後、場はそのまま流れ解散となった。

 既に用はないと判断した友介が部屋を出ると、カルラ、千矢と順々に帰路についたのだ。

 ただ、草次と蜜希はその後もしばらく話していたのか、部屋から出てくる気配がなかった。


「————で」


 杏里と共に暮らしているマンションの玄関。己の真隣にいる少女へ、友介はウンザリした目を向けた。


「何でお前までここにいるんだ。合法ロリ女」


 友介の悪態に、合法ロリ女こと風代カルラが生ゴミでも見るような目を友介に向けた。


「アンタが付いて来たんじゃないの? それとも何? 私がアンタみたいな奴に付いて行くと思う? 裏路地に引込まれて強姦されるのがオチじゃない」

「しねえわ! てかそんなペチャパイに興味ねえわッ!」

「はあ!? 誰がペチャパイだよ! 殺すぞ!!」


 友介がカードキーをセンサーにかざすと、ピーという軽い電子音と共に自動ドアがスライドした。

 マンションの中へ踏み込み、カルラもまたそれに続いた。


「お前本当にここの住人なんだろうな。鍵は持ってんのか」

「馬鹿にしないで。ほら、これ」


 そう言って、カルラは財布からカードキーを取り出し友介に見せた。確かに友介の持っているそれと全く同じものだった。


「チッ……命の危険が増えた」

「戸締まりはしっかりしておくことね。朝起きたら頭と体が分離してたら嫌でしょ?」


 友介とカルラは互いに中指を立て合いながら自室を目指す。

 ————と、そこへ。


「あ、友介じゃん! もう帰ってきたの?」


 聞き慣れた妹の声が聞こえた。

 振り返ると、そこには茶色い髪をツインテールに纏めた制服姿の少女がいた。身長は一五五センチ程度でカルラよりもほんの少し背が高い。ただ、身長とは不釣り合いとも言える豊満な胸がカルラとの格の差を見せつけていた。……否、カルラが勝手に敗北を認めていた。


「……な、何アレ……。あんなの、卑怯よ……!」


 なんか勝手に打ちひしがれている馬鹿は放っておいて、友介は声をかけてきた妹へ応じる。


「どうした杏里、こんな時間に。友達と遊んでたのか?」


 時刻は十時過ぎ。女子中学生が遊ぶには危険な時間だ。

 友介は僅かに目を細めて杏里を責めるように見たが、対する杏里はそれに臆する様子もなくあっさりと答えた。


「違う違う。友介の帰りが遅いから心配になって見に来たんじゃない。ったく……心配して損した」

「……ロリコン」

「あのな、俺もう高校生だぞ。中学生に心配されるいわれはねえ。あとそこのロリ体型。お前後で殺す」

「心配するに決まってるでしょ」


 めんどくせえ……と小さく漏らしたが、その実、友介は感謝している。

 自分を心配してくれる家族がいることは、友介にとってとても居心地が良いものだった。


「ねえロリコン」

「誰がロリコンだ。ロリ子」

「その子ってアンタの彼女?」

「ちげえよ。妹だ」

「妹?」


 無力感から帰還したカルラが、訝しげな表情を浮かべながら友介と杏里の二人を交互に見比べた。

 顔の造形、雰囲気、立ち振る舞い……そういった全てを総合した結果。


「アンタ、まさか無理矢理この子に妹役をさせてるんじゃないでしょうね」

「夜道には気をつけろよ。いつどこから銃弾が飛んでくるか分からねえぞ」


 そんな二人の様子を、河合杏里はとても楽しそうに眺めていた。


「あん? どうしたんだよ。何か良いことでもあったのか?」

「いやー、なんでも」


 ニコニコ、ニコニコ。

 邪気の無い笑顔でこちらを見てくる杏里に薄気味悪いものを感じたが、あまり気にしないことにする。こういう時の杏里は、大抵下らないことを考えているからだ。


「友介に友達が出来て良かったよ」

「違うから」

「ありえないわね。身の毛もよだつわ」


 どうやら過去最大の勘違いをしていたらしい。というか、今の二人の様子を見てどうしてそんな感想が出てくるのだろうか。


「はあ……ほら、帰るぞ。夕子さんが心配してる」

「げっ」


 ため息を一つ吐いた友介がそう促すと、杏里が顔を青くして制服の袖を掴んできた。顔をふるふると横へ振りながら胸を押し当ててくる。

 残念ながら、友介は妹のおっぱいでドキドキするような性癖を持ち合わせていなかった。


「妹の色仕掛けほど萎えるものはないからやめろ。ちなみに貧乳は見てるだけで萎える」

「それは私への挑戦か?」


 友介の視線の先でカルラが拳をギリギリと握っていたが、友介は無視して杏里に問いかける。


「なんか悪いことしたのか?」

「ううん……今日テスト帰ってきたの」

「帰るぞ」

「いーやーだー!」


 ずるずると妹を引きずる少年の背中を見送って、少女は一つため息を吐いた。


「家族、か……」


 今日もまた誰もいない家に帰らなければならないことを思い出し、カルラは陰鬱な気分になった。


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