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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第二編  陰陽の死角
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第一章 五人  1.顔合わせ

「……………………」

「ねえ、いつまで突っ立てるつもり? もしかして言語野が破壊されてるの? だったらここより先に、病院に行った方が良いわよ」


 本気で心配しているわけではない。明らかに、呆けた友介の様子を馬鹿にしている口調だった。


「つうか、あんた本当に私の仲間なの? こんなのと一緒とか嫌なんだけど。なんかむっつりスケベっぽいし」

「だれがむっつりスケベだっ!」

「声が大きい。うるさいわ」

「ぐ……っ」


 あんまりな態度だった。

 友介はガルルルル……ッ! と獣のように威嚇して、少女から出来るだけ離れた。とにかく、この少女とはあまり関わらないようにしよう。


(ま、まあ、俺には! 俺のことを大切に思ってくれる人は何人もいるしな……)


 半ば強がりのように心の中で唱える。

 しばらくすると、またドアが開いた。


「うぃっすー!」


 底抜けに明るい挨拶と共に入ってきたのは、茶色い髪を持つ快活そうな少年だった。胸の当たりに、スポーツブランド『ヒューマン』の小さなロゴマークが入っている、黒字に緑色のラインが入ったジャージの上下を着ていた。背中にはギターケースのような物を背負っており、成功しない路上アーティストのような風貌だった。少なくとも、今この場にいる友介と赤髪の少女はそう思った。

 友介と同じく、あまり服に頓着しないタイプなのかもしれない。

 茶髪の少年の挨拶に、しかし友介も赤髪の少女も返事を返さなかった。

 友介は相変わらず赤髪の少女に負の念を送ることに専念しているし、カルラは茶髪の少年を見て、友介にしたみたいに鼻で笑った。


「……あっれー。感那さんからはここが集合場所って聞いてたんだけど……何か間違えたっぽい?」


 すると赤髪の少女が、友介とジャージの少年を交互に眺めながら、


「ええ。ここはあんたやコイツが来るような、無個性モブ陰キャが来るような所じゃないわ」

「無個性モブ……っ!?」

「服装で必死に個性を作ろうとしてる奴に言われたかねえな。騎士みたいなコスプレしやがって。ここは夏コミ会場じゃねえぞ」

「はあ? こんな所に制服で来る奴に言われたくないんだけど。つうかボタン一個ずれてるわよ。だっさ」

「は!? マジで!?」

「ぶはっ! ホントだ……っ」

「ボタンかけ違う奴に痛いとか言われても何にも響かないわよ」

「クソが……っ!」


 友介は二人とは反対の方向を向いて、ボタンを元に戻す。杏里が付いていながらこんな恥ずかしいミスを犯すとは。

 それを下らなさそうな目で見る少女。


「さて」


 友介がボタンを直したのを見て、茶髪の少年がわざとらしく手を叩いて注目を集めた。


「俺も二人もちょっと早く来過ぎちゃったし、とりあえずこの三人だけでも自己紹介でもしね? な?」

「風代カルラ、十四歳」

「安堵友介、十六歳」

「短くね!?」


 二人のあまりに単調過ぎる自己紹介に、茶髪の少年が目を剥いた。


「いや、もうちょっとあるじゃん! もっとこうさ……何て言うんだろ。ええっと……趣味とか特技とかさあ!」

「嫌よ、めんどくさい。何であんた達みたいなモブキャラ相手に私の趣味を公開しなきゃなんないのよ」

「違えだろ。お前の場合、公開できないんだろ?」

「はあ? そんなことないわよ」

「どうだか。中二病の趣味はどぎついからな」

「中二病じゃねえって言ってんだろうが!」

「ま、まあまあ……二人とも喧嘩は良くないってー。仲良く仲良く」

「うるっさいわねー。黒染めしてから出直してくれない?」

「確かにな。似合ってねえぞ」

「成功しない路上アーティストみたい」

「そうそう。俺もそれは思ってわ」

「ひでえ!」


 喧嘩をしていた二人の悪意の矛先が、なぜか仲裁に入った少年に向けられる。

 彼は目に涙が浮かびそうになるのをぐっと堪える。

 わざとらしく咳払いして二人の注意を引くと、元気よく自己紹介を始めた。


「お、俺の名前は……草加草次だ! 二人ともよろしく! 十五歳だけど……誕生日はまだだ! なあ、よろしくね! ねえってば! 無視しないで! あ、趣味! 趣味は女子の水着を眺めること! 特技はチラ見! どう!? どう、俺の趣味!」


 草次は大声を張り上げ、両腕を一杯に広げて振り回しながら、喧嘩を再開した二人に必死にアピールする。

 しかし全く相手にされなかった。

 草次がシクシクわざとらしく悲しんでいると、またもゆっくりとドアが開かれた。

 だが、なかなか入ってくる様子がない。

 一秒経ち、二秒経ち……ようやく、扉を開けた人物がひょっこりと頭を出した。


「あの……。えっと、……わ、私、その……」

「とろい。早く入ってきて」

「ひっ! は、はい!」


 高い、というよりも上うわずったような声だった。

 カルラにせかされ、おっかなびっくり中に入ってきたのは、とても無個性な少女。

 黒髪をボブカットにした、少し明るい感じの髪型だ。カルラよりも少し背が高く、杏里ほどではないが、胸もそれなりにある。

 服装もまた至って普通で、白いプリーツスカートにチェックのシャツという、いわば『イマドキ』の格好だった。


「えと……私……その、痣波蜜希という者、です。よ、ろしく……」

「よっろしくー!」

「ええ、よろしく」

「よろしく」


 明るい調子で返事を返す草次とは反対に、友介とカルラはやはり淡白な態度で応じた。


「なー。二人とも、もちょっと柔らかい態度で接しね? これから一緒に頑張っていく仲間だぜ?」

「嫌よ、めんどくさい」

「だな」


 その様子にぶーたれる草次は、とりあえず気難しい二人をおいて蜜希との会話に興じることにした。

 その二人を、友介は横目で眺める。


「…………ちっ」

「なに舌打ちなんかしてんのよ」

「あん?」


 いつの間にか隣に立っていたカルラが、ジロリとこちらを下らなそうに横目で流し見ていた。


「さあな。覚えがねえけど」


 友介は軽く肩を竦めてとぼけてみせる。


「あっそ」


 実のない会話を続ける草次と蜜希。険悪な雰囲気の友介とカルラ。

 そこへ、最後のメンバーがやって来た。

 いいや。

 いつの間にか部屋の中にいた。


「よう」


 友介の、真隣にいた。


「なっ!」

「……ッ!」


 突然耳元で声をかけられた友介はもちろん、近くにいたカルラまでも驚いて飛び退いた。

 カルラはコートの下に手を突っ込むと、カチャリ、と何かを掴む。

 友介もまた、ベルトに挟んでおいた両手の拳銃に手を伸ばす。


「そう驚くなよ。傷付くじゃないか」


 ゾクゾク……ッと、得体の知れない感覚が友介の背中を駆け抜けた。

 恐怖とは違う。もっと曖昧で、気味の悪い感覚。

 強いて言うならば……怪しい、だろうか? 目の前の少年がどこか腑に落ちないのだ。

 風貌そのものはおかしくはない。

 整った目鼻立ちに、黒縁の眼鏡。身長は友介よりも少し高いくらい。スーツ姿なのが気になると言えば気になるが、ここには騎士のコスプレをしている痛い女の子もいることもあって、そこまで違和感があるわけではない。


「…………ッ」

「だから恐い顔するなって。俺は敵じゃない。あんたら四人の仲間だ。な? 信じてくれよ」


 爽やかな笑顔でそう言ってのける。

 少年はその笑顔を崩すことのないまま、自己紹介を始めた。


「俺の名前は川上千矢。どこにでもいるごく普通の高校生だ」

「……今、どうやって俺の隣までやって来た」


 少し離れた所で雑談をしていた草次と蜜希が不思議そうにこちらを眺めていたが、友介は無視して続ける。


「この部屋には四人の人間がいた。こっそり入ってきたとしても、誰かが絶対に気付くはずだ。たとえ気付かないとしても、俺の隣までよってくるのは不可能なはずだろ。答えろ。どうやって近付いたんだ」

「企業秘密だ」

「…………」


 友介は油断を解かない。この手のニコニコした輩は大概まともな奴ではないと、友介の中では決まっているのだ。


「それで?」


 ————と。

 ピリピリとした雰囲気を壊したのは、この場で最も協調性がないと思われる少女、風代カルラだった。


「アンタが今そこの陰キャに軽いいたずらをした意味は? 何か意味があったの? 無かったの? 当然必要なことだったのよね? そうじゃないんなら、今すぐ私に謝ってくれる? 突然隣に現れられたこっちの身にもなって欲しいんだけど」


 友介の迷いや焦りを全て無視して、あくまでマイペースに自分の不機嫌を訴えるカルラ。

 彼女の様子に、千矢は軽く笑った。


「ああ、ごめんごめん。ちょっとした演出だとでも思っといて」

「ちっ」


 露骨に舌打ちを打つカルラ。それにおどけた様子で笑みを返す千矢に、友介はかつての敵の姿を重ねそうになり、すぐにかぶりを振って意識から追い出した。

 ゆっくりと息を吐くと、拳銃から手を離して姿勢を真っ直ぐ正す。

 カルラは既に懐から手を抜き去っており、ゴミでも見るような目で千矢と友介を眺めていた。


「おいふざけんな。何で俺までそんな目で見られてんだ」

「男のくせにビビりね。こんなチキンと一緒に戦うとか我慢できないわ」

「お前こそビビりまくりで足震えてんじゃねえのか」

「そんなわけ無いでしょ。ていうか、何? アンタずっと私の足なんか見てたの。キモ過ぎ」

「ぐ……! このクソガキ……ッ!!」


 友介の恨めしそうな目を適当に流し、カルラははあ、と一つ息を吐いた。


「じゃ、全員揃った所で、改めて自己紹介でもするわよ。あんたら、私達の名前知らないでしょ?」

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