終章Ⅱ 出会い To the Prologue
あの災厄から、二年の月日が流れた。
この二年間、友介は一度も東日本国から出ることは無かった。
光鳥感那と名乗った怪しい女がその姿を現したことはついぞなかったが、代わりにあらゆる知識と技術を与えられた。そして、今日はとうとう『仲間』をくれるらしい。
カツカツと気だるそうに踵を鳴らしながら廊下を歩く。
ここは、東京の西部にある小さな公民館のような所らしい。
時刻は午後七時。
すでに日は沈んでいる。
集合時間は七時半だったはずなので、大分早く来てしまった。
別に、新しい仲間と会えるのが楽しみ! ということでハッスルしたわけではない。杏里が『遅刻したらダメだから早く行きなさい! 大切な日なんでしょ? 一緒に戦う人達からの印象が悪いと苦労するからね!』とうるさかったので、仕方なく早く来てしまったのだ。
「大丈夫って言ってんのによ」
唯可を失ってからの二年間、杏里はより一層友介の面倒を見るようになった。ただでさえ母親みたいな感じだったのがさらに増していた。
彼女なりに、友介を気遣ってのことなのだろう。
優しい妹の思いやりに感謝しながら歩いていると、とうとう目的の部屋まで辿り着いた。
扉の前で止まると、ゆっくりと息を吐く。
おそらく友介が一番乗りだろうが、もしかしたらハッスルした奴が先に来ている可能性もある。扉を開けて変な声が出ないようにするためにも、一度落ち着く必要があった。
(一体、どんな奴らだろうな……)
変人集団だけは勘弁願いたいと、念じながら、ゆっくりと扉を開けた。
そこに。
「————」
一人の少女が、いた。
広い部屋の中央に、腰に長さ一五〇センチはある刀を腰にぶら下げた少女が立っていた。
入ってきた友介に気付いたのか、少女がゆっくりと振り返った。
「…………っ」
思わず息を呑んでしまった。
その少女の存在感は、この部屋全ての空間を支配していた。
灼熱の炎のように赤い長髪。幻想的だが無機質ではない、生物的な美しさを秘めた、純金のように輝く金色の瞳。友介と同じく目つきが悪いせいだろうか、気の強そうな印象を与えてくる。透き通るように白い肌と、ほんのり赤みがかった頬。口は小さく、健康的な桃色の唇は年齢にそぐわない色気を醸し出している。抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な体。細い、それでいて妖艶さも兼ね備えた腕。
年齢は……友介よりも一つか二つ下だろうか。身長は低いが、幼いという感じではなかった。
黒いシャツの上にコートのようなものを羽織っている。まるで騎士のような印象を与えてくる服装だ。
「——ぁ」
その少女が口を開いた。高く、しかし不快感は与えてこない優しい声だった。
しばらくその少女に魅入っていた友介は、彼女が声を発したことでようやく正気に戻ることが出来た。
「なん……だ……」
友介は少女へ問い返す。彼女の言葉を待つ。
そして、少女が初めて言葉を放った。
「頭の悪そうな奴が来たわね。いきなりこれとか、さすがに幸先が悪すぎない?」
友介を半眼で睨みながら、ハンッ、と鼻で笑う少女。
友介はしばらく呆然とし——我に返って何か言い返そうとする。
だが、その前に少女がさらに畳み掛けてきた。
「なに間抜けな顔してんの? やっぱ本当に頭悪いの?」
初対面の美少女から理不尽な罵倒を受け、間抜けな顔の少年こと安堵友介は静かに思った。
(こいつとは絶対に仲良くなれねえッ!)
この出会いが、始まり。
一つの戦争を舞台に、もがき続ける子供達の物語が始まる。




