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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第八編 狂騒の理想都市
219/220

DAY1――Ⅱ Wriggles Atlantis 4.Shade

[October 27, 21 : 35: 10 at 〝Information〟 in Atlantis]


「んにゃはぁーっ! 疲れたよもうー!」

「はい……さすがに少し、私も疲れたんです……」


 悪夢(ルーザー)、ローランス、リリス、そして土御門率也がアトランティスの闇で殺し合いを演じていたそのころ、同学領のホテルの一室では二人の少女がベッドに体をうずめて唸っていた。


『吸福の魔女』空夜唯可と、『破壊技師(アルケミスタ)』ナタリー=サーカス。


 どちらも物騒な二つ名を持つ、物騒な力を持った物騒な美少女である。

 まるで飛び込むようにベッドにダイブしたせいか唯可のミニスカートが軽くめくれており、ほどよく肉のついた煽情的なふとももがより大胆に晒される。

 ぐるりと体を回して仰向けになると、さらにスカートがめくれ、今にもショーツがあらわになりそうになる。

 とはいえ唯可にそれを気にしている様子はない。


「聖遺物とかよくわかんないし全然見つかんないよー。そんなのほんとにあるのー? あのデモにあって人、絶対嘘ついてるよーっ。ない、ないないない! ないったらない!」


 歩き疲れたせいか、普段よりも少し子供っぽくなっていた。

 とはいえ従者としての立場をわきまえているナタリーは余計な口出しはせず、


「まあ、あのデモニアの言うことなんです。嘘でも不思議ではないんです」

「うわー、性格悪そうー」

「あれはそんなもんじゃないんです」

「そ、そうなんだ……っ」


 何せあのデモニアだ。二人が嘘の情報に踊らされているのを見てけらけら笑っている可能性など十二分にある。

 結局、それ以上はデモニアの話をしたがらない様子のナタリーに気を遣い、唯可は別のことを考えることにした。

 というか、ある意味聖遺物よりも大事なことを。

 天井を仰ぎ見ながら大の字になって寝転ぶ唯可は、むむむとリスやフグのように頬を膨らませて、


「それに……街中探してたてら友介と会えるかなー? とか期待してたのに全然会えないし。っていうか友介から会いに来てよばかっ。私、一応彼女なんだけど……」


 むかつくー! などと言いながら布団を抱きかかえる姿は、とても強大な力を持つ描画師のものとは思えない。


「だいたい二年も会いに来ないって何……? 私結構派手な攫われ方したんだと思うんだけど……ううぅー、もう私のことなんて忘れちゃったのかなあ? うぅ……」


 今度は突然涙声になりだした。布団をむぎゅぅ、と布団を強く抱きしめながらごろりと横を向いてしまう。その拍子にまた唯可のミニスカートがひらりと動いては滑らかかつ程よい肉感のふとももが照明の光を受けた。


「ゆうすけ、ばか……」


 そんなことを言っても届かないことはわかっているが、そう言わずにはいられなかった。

 そもそもそれを言うならば自分が会いに行けばよかったのだ。それをしないのは、金銭的なもの以上に外交的問題と時間的問題が大きかった。


 外交的問題に関しては言うまでもない。唯可は魔術師であり描画師という西側の人間であるため、無断で入国すればそれだけで敵扱いだ。友介なら匿ってくれるかもしれないが、それまでに会えるかどうかわからない上、何より彼に迷惑が掛かってしまう。


 そして時間の問題だが……これも何のことはない。空夜唯可はジブリルフォードと戦う以前にも何度も魔術師と戦っていたし、あれ以降も二人で凶悪な結社や組織を潰して回っていた。インド連邦ではヴァイス・テンプレートの凶行を神聖視した邪教集団と戦ったこともあった。

常態戦場たる北欧禁制地区では世界最強の傭兵と名高い白髪の拳鬼と一戦交えたことも。

 ……あの白髪の少年は相当強かった。あちらが本気を出していなかったため何とか無事で済んだが、本気を出されていてはわからない。ベクトルは異なるが、あの強さはかつて死闘を演じ、偶然と奇跡の重なり合いで辛くも勝利できたジブリルフォードと同等の風格を有していたように思う。


 つまるところ、彼女もまた友介と同じように世界各地を飛び回り死闘を繰り広げていたわけだ。

 そして、それゆえに唯可の友介への気持ちは会えなくなってからも変わっていない。それどころか、より強く深い想いを抱くようになっている。

 何度も命を削るような戦いを続けて、時に傷つき時に成長し……けれど、そこに友介はいなかった。戦いが終わった後も、最愛の人に頭をなでてもらうこともできない。

 会いたい――少女の渇きは、もはや限界に達しつつあった。


「おこった。あったらぜったいおこる」


 心に決めた。絶対に怒ろう。

 会いに来てくれなかったのもそうだし、あとあいつ絶対浮気してるし。


 友介はカッコイイ。それはもう世界一いい男だ。彼の祖母を殺したも同然の自分を、それでも許して愛してくれた。あんなにも優しい少年が、モテないわけがない。

 どうせ唯可に会いに来れないのだって、世界の命運をかけた戦いに参加しているからだろうし――実際、ブリテンで起こった『宵闇の再来』では彼が枢機卿の一人を打倒したと聞いている――、その過程で美少女の二人や三人は確実に落としているに決まっている。これは確実、断言できる。


 そして、友介だって男だ。まあ、唯可を放って他の少女と恋人関係になり付き合っているとかはないとは思う。付き合いは短いが、あの少年はそういう不義理をするような人間ではないと唯可は知っている。たとえ遠距離恋愛どころか二年以上全く会っていないのだとしても、友介はそういうところは堅そうだ。


 だが、恋人ではない親密な関係の女性はいてもおかしくないだろう。

 なんというかこう……半同棲みたいになっている妹的存在はいてもおかしくないと思うのだ。

 というかぶっちゃけ、あの赤髪の女の子は相当危ないと思っている。

 ジブリルフォードとの戦いの後に何があったのか気になる。気になりすぎて、友介よりも先にあの少女に会いに行きたいくらいだった。


 それに……




『まさか……まさかここに『変性』の資質者と『救済者』が揃うとは』




『君たち二人は殺し合う。それは男を巡ってか、あるいは譲れぬ信念の果てのものか。ともかく、君たち二人は互いを認め合うことが出来ない。絶対に、絶対に殺し合うだろう。ゆえになるほど……これは面白い。興味深い。是非ともここで確かめたい』




 殺し合う――そう言われたのだ。

 空夜唯可と風代カルラを指して、お前たち二人は殺し合うと。

 断言しよう。

 たとえあの少女が友介とどんな関係になっていたところで、唯可は彼女を殺そうとは思わない。

 友介にとってかけがえのない存在ならば、だからこそ守らねばならないと思うから。たとえ彼女が恋人になっていたとしても、殺人沙汰になるなどありえない。……まあ、友介の前で大泣きするだろうし、その後何をするかは自分でもわからないが。


「――っ」


 ただ……


「ねえ、ナタリー」

「……はい?」


 それまでずっと唯可の奇行を黙って見てくれていたナタリーが、水を向けられようやく口を開いた。


「あのさ……私ってさ、必要なのかな……?」

「え……?」

「だから、今の友介にとって、空夜唯可っていう女の子は必要なのかな……」


 質問の意味が分からなかったのではない。ただ、唯可らしくない発言に虚を突かれたのだ。

 毎日毎日友介のことが好きだとか、早く会いたいだとか言っていた。彼はここがとても可愛いだのかっこいいんだのと、彼のことを話すときはいつも笑顔で話していた。

 気分が沈むのは友介と会えなくて寂しくてたまらない時くらいで、それも『だから早く会えるように頑張らなくちゃ』と言ってすぐに元気を取り戻すのだ。


 だけど、今は違った。

 発言の根底にあるものが、違うのだ。


『私は必要なのかな?』


 そんな言葉、一度だって聞いたことがなかったのだ。

 だってこれまで、空夜唯可の言葉からそんな後ろ向きな感情を見たことはなかったのだから。

 いつだって彼女は前を向いてきた。会いたくても会えない、慰めてほしい時に慰めてもらえない。そんなときに涙を流すくらいで、そこにあったのは『会いたい』という彼女の願いだけだったのだ。


「姫……っ」

「あは、あははっ! ごめんねいきなりっ。こんなこと聞かれても困るよねっ」


 ナタリーが答えられないでいると、唯可は朗らかに笑ってごまかした。

 その笑顔があまりにも完璧で。

 いつもの主と変わらなかったから、ナタリーは今ようやく気付けたのだ。


 自分は、敬愛する主の救いにはなれていなかった。


「…………っ」


 ずっと、ずっと隠してきたのだろう。

 これまで、何度だって彼女は不安に駆られていたのだろう。


 私は彼に必要なのかな?


 もういらないんじゃないだろうか。


 空夜唯可が安堵友介の隣にいる意味はあるのだろうか?


 もう、彼の横には違う少女がいるのではないか。


 本当は、わたしのことなんて忘れて、違う誰かと幸せになっているんじゃないだろうか。


 もしもそうだったら。


 ――私は、耐えられるのかな。


 安堵友介にとって、空夜唯可は必要なのか。


 これまでは見たくないものから目をそらすように、上から蓋をして考えないようにしていた。

 だが、もう逃げられない。

 確信があるのだ。


 きっと、この理想都市で、安堵友介と空夜唯可は再会する。


 その時に、全てわかる。


 空夜唯可は安堵友介にとって必要な存在なのか、いてもいなくても変わらない存在なのか。


 まだ彼にとっては唯一無二の少女なのか、替えの利くハーレム要因の一人でしかないのか。


 再会してから先も永遠に寄り添え会えるのか、途中で切り捨てられてしまうのか。


 言いたいことが山ほどある。聞きたいことが無数にある。




「私のことどう思ってるの? とか……聞いたら、めんどくさい女って思われるよね……っ」


[October 27, 21 : 40: 01 at 〝Information〟 in Atlantis]


 その隣で。

 少女が己の恋の行方に恐怖しているその隣で、褐色の少女もまた胸の奥の疼きに困惑していた。


(何なんです……っ)


 締め付けられるような痛みがあった。

 捩じ切られるような痛みがあった。

 目を背けたくなる痛みがあった。


 知らない、知らない――こんな痛みは、主に教えてもらっていないのに。


 主の少女には本当にたくさんのことを教えてもらった。

 嬉しいという気持ち、楽しいという気持ち、悲しいという気持ちに、誰かを慮る気持ち。

 心というものがどういうものなのか、色んなことを一緒に体験して教えてもらった。


 生まれつき感情が希薄だったことに加え、楽園教会などという最悪の魔人の巣窟で育てられたせいで機械のような子供だったナタリー。

 もしもあの時唯可が自分を育てると決心してくれなかったら、こうして主を想える今のナタリーはいなかったはずだ。


 だからこそ、不思議でならなかった。いいや、違う――不安というべきだ。

 こんな痛みは、唯可には教えてもらわなかったのだ。胸が締め付けられる痛みがどういうことなのかわからない。


 これはきっと悲しいという気持ちなのだろうと推測するのだが、どうもそれだけではないようにも思える。

 唯可を友介から引き離したことに対する罪悪感からくる痛みとも違う。

 もっと醜くて、けれど誰にも咎められたくない宝石のような、そんな矛盾の塊のような。

 空夜唯可のことを思うだけで胸が温かくなるのに、彼女のことを思うだけで同じように胸の奥が引き裂かれるかのような……まるで、幸せと苦しみが同居しているような、そんな感情。


 これは生まれて初めての感情で。


 混沌としたこれに答えがあるのかもわからなくて。


 どうやったらこの気持ちに決着がつくのかもわからなくて。


(この気持ちも、姫に伝えたら……またいつもみたいに笑ってくれるんですか?)




 それでも。

 白いつぼみは、花咲くときを待っている。


[October 27, 21 : 42: 32 at 〝Biology〟 in Atlantis]






「あらあら。お可愛い神様ですわね」






[October 27, 21 : 42: 33 at 〝Engineering〟 in Atlantis]


 安堵友介は過去最大の危機にあった。

 実母を名乗る女との語らいを終えて宿に戻ってきた彼は、当たり前だが自分の部屋に戻った。

 部屋は三人部屋。時間も時間だったので他の二人は部屋で適当にくつろいでいた。


 そこまではいい、当たり前のことだから。


 問題はそのメンツだった。

 なぜか四宮凛と土御門字音がいた――というラッキースケベ的展開ならば、友介は辟易しながらもなんとか受け入れられただろう。


 だが、違う。

 そんな生易しいものではない。

 それは、真実地獄と言えるもの。


「やあ友介くん、おかえり。ご飯にする? お風呂にする? それともぼ――」

「黙れ死ねそれ以上喋るな死ね死ね死ね」


 これだけ死ねを連呼したのは初めてだった。

 罵倒の矛先は、柔和な笑みを浮かべる中性的な風貌の少年、新谷蹴人。

 そしてもう一人は――


「――――」

「……………………」

「あぁ? 何だよ人殺し」

「……てめえ、何でここに」


 先ほど別れたばかりの少年、剛野良樹だった。

 いやいや、これはいったいどういうことか。


 確かに、友介は修学旅行の班決めの時、寝ていた。

 どうせ行かないと高を括り、日ごろの疲れを癒すために睡眠をとっていた。

 だが、まさかこんなことになるとは思わないだろう?

 どうしてこんなカオスなことになる? だいたい、どうしてあの少年もこれを承諾したのだろうか。自分を人殺しだと罵っている彼だが、その中には恐怖もまた混じっているはずだ。なら、自分と同じ部屋になると分かれば絶対に嫌だと言いそうなものだが……

 訝しみながら、しかし決して剛野とは目を合わせぬようにする友介。そんな彼の様子に気が付いたのか、蹴人がなぜか嬉しそうに笑って、


「ああ、なるほど。友介くんと剛野を一緒の部屋にしようと提案したのは僕だよ」


「「マジでいらんことしてるんじゃねえよテメエ!」」


 最悪なことに、最悪な組み合わせの二人の声が最悪のタイミングで被ってしまった。


「あァ……? おいこら人殺しぃ。何おまえ俺の真似してんだぁ?」

「…………っ」

「何とか言ったらどうだよゴラぁ!」


 いや、唾が。唾が飛んでるから――友介はそれとなく剛野の口から放出される涎ビームの射線から逃れるように移動しつつ、


「いや……何でもねえ」

「ああ? なんか文句あるなら聞くぞおら!」

「何もねえって……」

「あるだろうが、嘘つくんじゃねえよおらあ!」

「――うっせぇーーーーーーーーなテメエっ! 何もねえっつってんだろうが!」

「何逆ギレしたんだよテメエ!」

「お前が突然キレたんだろうがっ! つぅーか何もねえんだから何もねえんだよ!」

「――――ッ。この、ああ……てめえ……っ死ねやおいこら……!」

「――――」


 友介は思った。

 何なんだこの精神異常者は???

 今どうしてキレられたのか全くわからない。

 というか、これ以上関わらないでほしかった。

 今の友介は苛立っている。今もしもこの少年に何か余計なことを言われたら、突然染色を発動して殺してしまいかねない。

 というのは冗談にしても、友介はこの少年をそれくらいには嫌っているのだ。

 よって、この部屋割りを提案した蹴人を咎めるように睨むが……


「どうしたんだい友介くん? 一緒に寝たいのかな」

「……お前、酒でも飲んでんのか?」

「ははっ、冗談だよ」


 ……本当か?

 友介は訝しんだ。

 一応ベッドは三つあるので誰かと一緒に寝なければならないという地獄のような展開にはならなさそうだが……


「……疲れた」


 どうしてだろうか。くつろぐはずのホテルで、すでに多大なる疲労を感じてしまっている。こんなことなら本当に修学旅行に来るんじゃなかった……といつものネガティブな調子に戻ってしまう。

 そんな時だ。友介のポケットの中で端末が震えた。

 これ以上なにがあるというのか……辟易しながらも画面を見ると、そこにはカルラの番号がある。


「悪い、ちょっとまた出る」

「何回も出かけすぎじゃないかな」

「おい、もうすぐ消灯時間だぞ」

「ならベランダでいい。別にただの電話だしな」


 何で変なところで真面目なんだよ……と、剛野に聞こえないようにつぶやきながら、友介は窓を開けて外へ出た。

 通話ボタンを押すと――


「もしもし」

『もしもしじゃないわよ、このバカ』

「……いきなり罵倒かよ」

『罵倒したくもなるわよ。……ったく、アンタが悔奈さんから何も聞かずに出て行ったから、代わりに私が色々聞いてきたのよ』

「……聞いてたのかよ」

『うっ……それは、ごめん』


 スピーカーの向こうでカルラが申し訳なさそうな声を出す。

 だが、別に友介は怒っているわけではない。


「悪いな、変なもん見せちまって」

『え? いや……別にそんなの気にしてないわよ。それよりも、アンタのお父さんのことよ』

「――っ」


 あくまでも友介の修学旅行を邪魔する気はないのだろう。彼女は努めて事務的に振る舞い、本題に入った。

 友介は体が硬くなるのを自覚しながら、しかし言葉の続きを待つ。


『彼が今いるのは化学領(ケミストリー)……そこにある研究所のひとつに泊まり込んでるらしいわ』

「……そいつが、教会の秘密を持ってるかもしれねえってことか?」

『ええ。アンタが見たっていうジブリルフォードのメッセージ履歴が正しいならね。ただ、アンタの父親の研究についてはおか……じゃなくて、悔奈さんもよくわかってないでしょうね。何も言及してなかったから』

「――……」

『それと、これは悔奈さんからの警告よ』

「あん?」


 友介はあからさまに不機嫌な声を上げるも、カルラは無視して続けた。


『彼の愛をまともに受け取るな』

「……は?」

『あの人は大切な人や好きな人を信じてるから……とか何とか言っていたわ』

「……? 意味わかんねえ」

『私もよ。ただ、用心するに越したことはないでしょ。なんて言ったってアンタの父親(・・・・・・)。蛇が出ようが悪魔が出ようが驚かないわ』

「お前、俺のことなんだと思ってんだ?」

『それくらい警戒しろってことよ。楽園教会の枢機卿と正面切って戦える人間の父親って考えたら、普通警戒しない?』

「…………、まあ、そうだな。確かに警戒するに越したことはなさそうだ。そもそもジブリルフォードと関係を持ってた時点で、それなりの大物だろうし」

『同感。……それで、いつ行くの?』

「明日だ」

『……明日のスケジュールは?』

「知らねえよ、確認してねえ。たぶん自由行動だろ」

『……むぅ』


 どうやらカルラはあまり納得がいっていないようだった。

 友介に修学旅行を楽しんでほしい――それがカルラの願いだ。

 彼女の気持ちは友介だってわかっている。

 だが、


「カルラ」

『なによ』

「お前の気持ちはありがたい。俺だってそれに応えたいし、友達も出来そうだからちゃんと楽しみてえという気持ちは1ナノメートルくらいだがある」

『ほぼないじゃない……』

「ただ、それとこれとは別だ。やらなきゃならねえことはしっかりやらねえと。自分の楽しみ優先して世界ぶっ壊れちまったら、俺は俺を許せねえ。それくらいわかるよな」

『……わかってるわよ、それくらい』


 不満を隠す気もない声だったが、一応納得はしてくれたらしい。


「んじゃ、明日な。時間はどうする?」

『まあ、早いほうがいいでしょうね。もし本当に自由時間があるならそのタイミングね』

「了解。んじゃ、切るぞ」

『ええ……って、あ』

「あん? 今度は何だよ」

『言い忘れてたけど弟くん……焔良くん連れて行くから』

「はあ? ちょっと待て聞いてね――」

『それじゃ、そういうことで。……ちゃんとお兄ちゃんやりなさいよ?』

「あ、おい待て――って、切りやがったよあのばか女」


 それからは特に事件はなかった。

 強いてあげるなら、蹴人の友人たちが来て友介と剛野が肩身の狭い思いをしたくらいだが、これはいつものことなので特筆する必要もないだろう。

 こうして、安堵友介の修学旅行一日目は幕を閉じた。


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