誰も知らない負け惜しみ
ウィリアム・オーフェウス=ガラハッドは浅い眠りの中で、とある少年との競争の日々を思い出していた。
テストの点数で勝ち負けを競ったこと。
足の速さでどちらが上か勝負したこと。
喧嘩の強さで白黒はっきりさせようとしたこと。
どちらが先に、年上のお姉さんの心を射止められるか勝負したこと。
(……負けて、しまったなあ)
朦朧とする意識の中で、白髪の少年はそんな風に思っていた。
現在、『彼』は眠っている。今のウィリアムは、自身の意志で行動することができる。
(だったら……少しくらいは、いいよな……)
既に体は満身創痍。腹に穴をあけられて、宝剣もまともに使えそうにない。
はっきり言って役立たず。こんな自分が何をしようとしたところで何もできないだろう。
だが――
(このまま寝ていたら、一生ディアに勝てないだろうなあ)
それは嫌だった。
シャーリンを射止められたことはまあ百歩譲っていいけれど。
ライバルだと思っていた幼馴染に差を付けられるのは、少々癪だ。
今は自分なんだ。誰かに魂を乗っ取られた哀れな生贄ではない、最も穢れ無き騎士ではない。
ウィリアム・オーフェウスという、ディア・アークスメントのライバルでしかない。
ならば、
「行く、んだ……!」
たとえ自分が戦力にならずとも構わない。
最後のとどめとなるとは思っていない。
木偶にできることなど、敵の攻撃を受けるだけだろう。
それでもいい。
「たとえ、君がもう僕をライバルとは、思っていなくても……!」
少年はゆっくりと起き上がる。近くに置いてあった白き楯を手に取って、体を引きずるように歩き出す。
「――意地が、あるから……」




