証言C ある鮮魚店主の話
おお、久しぶりだなヴィクト。
何だ何だ、最近会ってないかと思ったら、また顔つきが変わったんじゃねえか。……ん? 英雄王閣下に会ったかもしれないって?
英雄王閣下ってあれか? ディリアスの奴か。
ん、ああ、俺はあいつと顔見知りだぜ。今でもあの男が俺の事を覚えてるかは分からねえけどな。
教えて欲しい? あいつのことをか?
まあ、そうだな。あいつは面白い奴だし、話すのもやぶさかじゃねえしいいか。
あれは十年前……ちょうどブリテンの宵闇の只中だったな。
俺も若い頃はやんちゃしたもんで、槍を持って戦争に参加してたんだ。
アルスター騎士団って知ってるか? ケルトのアルスターサイクルを原型にした騎士団なんだが。
お、やっぱ知らねえよな。
俺はその頭目だったんだよ。そんで、俺たちはあの英雄の敵陣営に付き、奴らとドンパチを繰り返した。
俺たちはマジで強かったんだぜ?
頭目である俺を筆頭に、雑魚を薙ぎ倒し、強者を蹂躙してた。
俺たちのおかげで勝利も近かった。
だけど、そんな時、俺たちの目の前にあいつが現れた。
ちょうど敵方の補給地を狙った時だ。
何の変哲もない街だったから、民間人にも当然被害が出る。
ああ、そうだよ。あの時はもう泥沼だった。両陣営共倒れになってもおかしくなかった。そもそも、科学側が俺たちみてえな騎士を雇ってる時点でバグってたんだよ。
敵魔術師やら騎士やらをぶっ殺しながら、俺は虚しい勝利を確信していた。
だっていうのによお、突然俺たちの前に現れたあいつは、全部持って行きやがった。
今でも覚えてるぜ、あいつの名乗りを。
どこまでも垢抜けねえ青二才のくせに。
名乗った瞬間、死神になりやがった。
『貴殿らが、アルスター騎士団か。私はディリアス・アークスメント。全員で掛かって来ると良い。その全てを捻じ伏せよう』
結果はまあ、察した通り、俺たちの負け。
十人近い一騎当千の騎士が束になって掛かって、たった一人のガキに負けた。
ただよ、あいつ。
俺達に勝った後こう言ったんだ。
『貴殿らはここで死んだ。数多の非道を繰り返したアルスター騎士団は、今日、壊滅した。故に、もう貴殿らは戦争に囚われることはない。行け。
――この内乱は、私が止める』
そうしてあいつは、宣言通り内乱を止めちまった。北と南でブリテンが分裂してしまったとは言え、もう視認が出ないよう最善を尽くし――そして成しちまった。
ほんと、あいつには敵わねえ。
あいつのおかげで、俺は今はこうして魚売って、カミさんも出来て、子供にも恵まれて……幸せに暮らせてる。
だから、まあ。
俺もお前と同じだよ。
あいつの力になりたい。あのガキに助けてもらった恩を返してえ。
いつかそんな時が来たら、どんなに嬉しいだろうな。




