第四章 救国の英雄 ――Delius―― 2.死を呑み下す光の剣
魔獣が、ロンドンの各地に召喚された。
セイス・ヴァン・グレイプニル。
楽園教会の枢機卿において、戦闘力という面で見てしまえば彼の右に出る者はいない。
ジークハイル=グルースやバルトルート・オーバーレイ、土御門率也、春日井・H・アリア。そしてライアン・イェソド・ジブリルフォード。
たった一人で国を亡ぼすことすら可能な彼ら枢機卿の中でも、この少年の戦闘力はずば抜けている。
彼は召喚術師。
この世で最高にして最強。
かつてエジプトを治め、悪魔を使役したとされるソロモンと比肩するほどの神童。
楽園教会が十の支柱たる『枢機卿』、その一人。
第三神父『銀狼の手綱』セイス・ヴァン・グレイプニル。
彼は、ロンドンの街に召喚した多くの魔獣の他に、さらに二体の魔獣を生み落とした。
「リル、ヨルムン。街に降りてる騎士を食べておいで」
一方は先の冥狼。
そしてもう一方は、全長が二十メートルにも及ぶ紫色の蛇である。
主の命に従い、災厄をもたらす神話の獣が行進する。
☆ ☆ ☆
「おいおい、ふざけんじゃねえぞ……」
眼下に映る地獄を眺める少年は、冷え切った声を発した。
神秘殺しの超常が消え去ると共に科学圏による鉄火の嵐は過ぎ去った。しかし、楽園教会の手によって新たなる災禍が生み落とされたのだ。
「なにが人間は平等だ、だ……ッッ!」
彼らの声は、デモニアの振動の魔術を通して友介達のいる『雪の間』にも届いていた。
相手の声までは聞こえなかったが、少なくともデモニアとセイスと呼ばれた少年の声は届いてきた。
「クソが……ッ!」
友介はカルラを救わなければならない。
今なお苦しんでいるであろう彼女の元へと走り、その手を握ってやらなければならない。
しかし――
「あんなもん、放っておけるわけねえだろうがッ!」
先ほどサリアに後を任せた時とは完全に状況が異なる。
既に状況は、『安堵友介が戦わなければならない状況』へと変化してしまった。
敵も味方も関係ない。
一刻も早くデモニアとセイスを討ち取り、この狂乱を止めねばならない。
「手を貸せ英雄! もう二人で争っている状況じゃなくなったッ!」
そう叫び、ディリアスへと視線を向けた、その瞬間。
「すまんな、少年。その頼みは聞けん」
黄金の刃が振り下ろされる未来が見えた。
「――――なっ!」
「閣下ッッ?」
友介は驚愕の声を上げながらも間一髪、背後へ大きく跳躍して光の一閃を躱す。制服の端が刃に斬り裂かれ、生地が吹雪に巻き込まれて飛び去った。
それを横目で見ながら、信じられないものを見るかのようにディリアスへ視線を向ける。シャーリンもまた、ディリアスの行動の意味が分からないというように呆けていた。
「テメエ、一体どういうつもりだ……ッ。まさかテメエも、あいつらの手先ってオチかよ」
「そんな訳なかろう。これは紛れもなく、サウスブリテン皇国最高軍事機関『円卓の残滓』が長、『救国の英雄』ディリアス・アークスメント=アーサーの、国を守るがための判断だ」
「……お前、自分で何言ってんのか分かってんのか」
「貴殿は私が狂していると?」
「ああ」
問いに、友介は一言で返した。
ディリアスが教会の手先として国を亡ぼすために国家の長として君臨しているのではなく、あくまでもサウスブリテン人として、国を守るために剣を振るっているならば、友介の申し出を断ることなど愚の骨頂だ。
かつて敵だったが故に、共に並び立てないという意地か?
あるいは、仲間の存在を忘れていた己の罪を許せないがために、たった一人で解決せなばならぬと勘違いしているのか?
あるいは。
もはや、錯乱してまともな判断が出来ないだけなのか?
――全部、違う。
友介は、頭に浮かんだ数々の可能性を一つ一つ消していった。
それに、彼が狂っているという可能性もないだろう。
おそらく、彼は正気だ。
己の妻の死すら呑み込んで突き進む英雄の中の英雄が、この程度のことで自己を失うはずがないのだから。
ならば、なぜだ?
「お前は状況が分かってるはずだよな。自分のプライドを優先している場合じゃねえことも、あいつらがお前ひとりで勝てるような手合いじゃねえことも」
「ああ」
「だったら何で――」
己を抑えられず、声を荒げて放たれた問いに対して。
「やるべきことが分かっているなら、何で俺を攻撃したッッ!」
救国の騎士は、一つの呪文で返した。
「――『染色』――」
それは、騎士の覚悟。
それは、男の選んだ道。
たった一つ、国を救うという使命。
英雄が英雄としてあるために選択した地獄への片道切符。
彼は英雄だ。
どこまでも英雄だ。
全てを救い、全てを護り、全てを導く。
千の戦の全てで勝ち、万の屍の全てを踏み越える。
絶対なる強者にして、清廉なる戦士。
壊れることなく、自ら定めた光へひた走る、無謬の光に他ならない。
そう、光。
ディリアス・アークスメント=アーサーという男は、どこまでも光でなければならない。
自らに課したその重責、到底余人に理解できるものではないだろう。
彼は、全てを呑み下して自ら定めた理想へ邁進せねばならない。
たとえ、誰もが不可能の判を押した未来であるとしても。
たとえ、数多の国民を死に追いやることになったとしても。
たとえ、愛する者を死に追いやろうとも。
『救国の英雄』ディリアス・アークスメント=アーサーは、国を救うために剣を振るう。
たった一人、道の途中で何度間違えた選択を取ることになろうとも、彼は終着に定めた結末を手にするために、戦う。
一人で。
独りで。
痛みを忘れず胸の内に溜めながら、それでも屍を踏んで前へと進む。
全ては英雄として在るために。
この一瞬だけではない。
未来永劫、全てのブリテン人を永久に守るために、男は全ての助けを拒絶する。
共闘など不要。
他者の手など必要なし。
我らブリテン、己が手にて平和を掴む。
そのために、私が犠牲となろう。
そのために、私が礎となろう。
そのために、私が偶像となろう。
そのために、私が光となろう。
そのために、私が英雄となろう。
さあ人々よ、我が背を追い、そして超えよ。
貴殿ら皆が英雄とならねば、栄光など掴めない。
平和も勝利も幸福も、全ては己が手で掴めなければならない。
故に、私が背中を見せてやろう。
「――――『友が死を呑め、我が光の剣よ』――――」
そして、純白の英雄が降誕した。
衣装も髪も、剣も全てが白く塗り潰される。
全身から発せられる覇気もまた、純白のオーラとなって視認されるほどにまで膨れ上がった。
「安堵友介と言ったな」
「――――、おま、え……」
「これが私の覚悟だ。教えてやろう。――英雄という在り方、その重みを」
彼の背後で、十字架に串刺しにされていた三人の騎士が急速に風化を始め、足の先からさらさらと粉末へと分解されていく。風に流される騎士の残骸は、如何な理屈か、救国の英雄の胸へと吸い込まれていった。
「私は英雄だ。それ故に、私の行為の全てが民を左右する」
英雄とは人々を戦場へ駆り立てる者。
その行いは後世にまで語り継がれ、そして国民性にまで発展する。
「処刑人よ、貴殿の黙示録は何を裁く? 英雄の名は、その処刑名簿に綴られているか」
彼は救う。
国を救う。
たとえ、救えぬ命があるとしても。
より多くの命を救うために、彼は救えぬ者を犠牲にするという答えを出した。
「貴殿を下し、教会を斬る。屍山血河を超えた剣を見せてやろう」
英雄譚が、稼働した。
☆ ☆ ☆
英雄の持つ聖剣、エクスカリバーの効力は極めて単純かつ強力なものだ。
亜光速による斬撃。極めて光に近い速度で斬撃を放つというもの。その速度、秒速二億メートルーー時速にして二万キロ――である。
斬撃という一点に関して、彼の聖剣の持ち主が後れを取ることはあり得ない。それこそ、ディアのように光速そのものに至った者でなければ。
ただ、この聖剣の効果は斬撃にのみ適用される。つまり、移動速度そのものはそこらの騎士と変わらない。脳の判断力もまた人類の範疇に収まる程度のものでしかない。
だが。
「行くぞ」
「――『染色』――」
剣を振りかぶる未来が見えた時には、既に友介は己がギロチンを構えていた。
「――――『崩呪の黙示録』――――」
英雄の純白剣と処刑人の黙示録が正面衝突した。
世界に亀裂が走る。
文字通りの、世界の破壊。
黙示録が、たった一本の剣へと叩き付けられた。
両者はほんの刹那拮抗し――そしてディリアスが押し負けた。
男の身体が後方へ飛び、純白の剣が手から離れ空を泳いだ。
一見すれば友介が押し勝ったように見える。だが、彼の心中は穏やかではなかった。
(どういうことだよ……ッ)
驚愕に、声を出すことも出来ない。
(あの剣……俺の黙示録を正面から受けて壊れねえのか……ッ)
安堵友介の染色は、染色を破壊することに特化している。世界の存在すら割るほどの凄まじい威力を誇るその概念は、しかしちっぽけな剣一本折ることも叶わなかった。
「貴殿、染色の基本も知らないようだ」
「あん?」
衝撃に二十メートル近く飛ばされたディリアスが、腕を天に掲げ、落下する聖剣を掴んだ。
「染色にも相性がある。貴殿のそれは少し特殊だ。それを踏まえた上で推測するに、侵食率の高い染色に使用すれば異界を破壊することも出来るだろうが、固有率の高い染色には打撃程度の効果しか発揮せんのだろう。もっとも、打撃とは言っても染色で身体を強化していなければ即死する程度の威力ではあるようだが」
告げながら、ディリアスは脇腹の傷を左手で抑えた。先ほどディアに付けられた傷だ。
「とはいえ、この程度ならば――私にも十二分に勝算がある」
「――――ッ」
二十メートルの距離を、コンマ一秒も掛からず詰められた。
「は?」
「終わりだ。これが私の染色の効果だ。――初見では回避不能であろう」
先ほどまでとは比べ物にならぬほどの速度であった。懐に入られてなお、実感がわかない。
男の背後でソニックブームが発生していることから、英雄が音速で走ったことは理解できるが、しかし――
(こんなん、あり、かよ……ッ!)
異常な量の汗を掻きながらも、その剣筋に澱みもブレも迷いもない。
上段に構えられた聖剣が友介の左肩へと迫り、袈裟を懸けんと唸った。
――無理だ、死ぬ。
もはや回避は不能。死の気配が背中を優しく撫で、思考を停止させる。これまでディリアスの斬撃を回避し続けてこられたのは、彼の動きから未来を予知し続けてきたからこそ。故に、もはや間合いを詰められ剣を振り下ろさんとするその光の斬撃を避けられる道理はない。
(く、そ……ッ!)
刃が振り下ろされる。
負けるわけにはいかない。
ここで止まるわけには、いかないのだ。
友介は歯を食いしばり何とか打開策を模索しようとするが、既に八方塞がり。
「クソがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
叫びながら、苦し紛れに二丁拳銃の引き金をデタラメに絞った。
狙いも何もない。一発でもどこかに当たればそれでいいというヤケクソの銃撃。
その一発が、ディリアスの肩を貫通し、
「――――ッ」
その剣筋が大きく鈍り、友介に回避の目が生まれた。
「――っ、ァアアアッ!」
その一瞬の隙を見た友介は反射のように後方へ力の限り跳躍し、致死の斬撃から逃れた。
「ぁ、あああ……がッ、はッ、うぁあああ! ぐ、づ……ッッ!」
急所を貫かれたわけでもないたかが弾丸一発に、救国の英雄は尋常でない反応を見せた。
全身に大量の汗を掻き、口から吐瀉物まで吐き出した。
死人のように顔を青褪めさせ、たたらを踏んで後ろへ倒れかける。聖剣を地面に突き立てることで転倒を堪えはしたものの、足を始め全身が震えていた。
「はあッ、はあッ、はあッ、はあッ……おの、れ……」
たった一発の弾丸で満身創痍となったディリアスに驚愕を示したのは、本人ではなく相対する友介。そしてその様子を眺めていたシャーリンと。
「とう、さん……?」
ディリアスの染色の波動によって、再度目を覚ませたディアであった。
「どう、した……処刑人。続けるぞ……私は、国を、守らねばならないのだ……」
「お前――」
「同情も気遣いも不要だ。これは、私の覚悟であり、私が弱い証だ。――私もまた、一人の人間でしかないということだよ」
染色とは深層心理の具現化に他ならない。
願い、夢、信念、矜持。
そうした、心の奥で狂的なまでに強く根付いた一つの感情を源泉に生み出される理に他ならない。
そして、ディリアス・アークスメント=アーサーの染色とは、深層心理とは。
とても単純なものだった。
――友が死のうとも、その死を糧に進み続けよう。
――愛した妻を過労で殺してしまったとしても、その痛みを乗り越えて理想へ向かって走り続けよう。
そんな、ただの強がりから生まれたものだった。
故に、彼は強くなる。
仲間が死ねば、愛する者が死ねば、その痛みを胸の内に封印して。
死を無駄にしないために、邁進する。
仲間を失った悲しみを糧に。
絶対に負けないと。
必ず勝利すると。
走り続ける。
それが、彼の染色の真実だった。
けれど――
人の心とは、ある一つのことだけをただ強く純粋に、絶対的なまでに信じることなどできない。
諦観やトラウマ、恐怖が必ず巣食っている。
夢を叶えたいと願う一方で、その夢を叶えることは出来ないのではないだろうかと不安に陥ることがあるように。
染色は、そうした負の側面もまた具現化してしまい、往々にしてそれは弱点となってしまう。
そして、英雄の――否。
ディリアス・アークスメント=アーサーという一人の人間の諦観とは。
「お前……まさか」
「ふ、気付いた、か……」
ディリアスは、まるで諦めような痛々しい笑みを浮かべた。
これまで笑見せたことのなかった表情に、ディアは驚愕し見入っていた。
「ふふっ……誓ったのだがな。皆の死を、乗り越えると」
たった一人で戦い続けた男のトラウマとは。
「友が先立とうとも、その死を力に変えて進もうと」
英雄であろうとした、ただの男の恐怖とは。
「しかし――やはり難しい。愛した者の、死は、こんなにも痛い」
英雄は心臓を――否、心を強く掴むようにして、絞り出すように言葉を吐いた。
「結局、大切な人の死を乗り越えることなど、出来ないらしい」
大切な人の死を乗り越えることなど出来なかった。
その痛みは、蓄積されて、彼の心を苛んだ。
そして、その心の痛みが、染色として発現した。
痛覚の異常上昇。
それこそが、彼がたった一発の弾丸で苦しんでいた理由。
彼の、人間としての本音だった。
それは、きっと――
彼が始めて吐いた本音だったのかもしれない。
近くで呆けた表情のまま父を見つめるディアへの、懺悔だったのかもしれない。
それでも。
「後悔は、していない」
それだけは、しない。
「私は、これからも歩み続ける」
告げて、英雄は目を閉じた。
「夢があるからな」
そして、その鉄面皮が、崩れた。
「若い頃に、掲げた夢が」
ふっと、その頬がほころんだ。
「私は――僕、は――」
英雄が、剣を構えた。
「僕は――――」
そして、男は己の理想を静かに告げた。
「この国を、救いたいんだ」
それは、命を、という意味ではない。
「この国は、昔は一つだった」
かつて、南も北も無い時代。
連合王国と呼ばれていたその昔。
イギリスという国は、四つの地域が一つの国として在った。
「国境なんてなかったのだ」
誰もが自由に国を歩き回っていた。
「イングランドも、スコットランドも、ウェールズも、北アイルランドも、皆が笑顔で語らうことの出来る時代があった」
同じ国の民なのだから、悪意を持って殺しあうことなどあるわけがない。
「サッカーのワールドカップというものを知っているか?」
「なんだよ……藪から棒に」
「答えてくれ。知らないか?」
「聞いたことは、ある」
「そうか。ワールドカップでだけはな、四つの地域はそれぞれ国として出場していたのだよ」
「争ってたのか?」
「違う」
「じゃあ何だよ」
「――競っていたのだ」
戦争とは、戦い争うものだ。
けれど。
競技とは、技を競うものだ。
日頃の鍛錬の、練習の成果を発揮し、相手に感謝をして、最後には清々しい気持ちで握手を交わす。
世界が平和であった頃、四つの地域の代表は、そのようにして互いに互いの存在を認めていた。
「少年」
そうして、語られる。
男が、何故英雄として在ろうとしたのかを。
なぜ、国を守るために、国の力だけで解決しようとしたのかを。
「私の夢は、南も北もない、ブリテンという国をもう一度作ることだ」
途方もない夢だ。たった一人の人間が持つには大きすぎる理想。
「科学も魔術も関係ない。同じブリテン人として、共に手を取り合い、当たり前のように笑い合う未来が見たいのだ」
そして、彼は分かっている。
この夢は、たった一人で叶えられるものではないと。
英雄が一人奮闘したところで、変えられるものなど何もないのだと。
「いや、たとえ見ることが出来なくとも構わない。この『国』にもう一度笑顔が溢れてくれるのならば、私がその光景を見ることが出来なくともよい」
だから、彼は考えた。
この国がもう一度元ある形に戻り、当たり前の笑顔を溢れさせるためにはどうすれば良いのかと。
「『国民』たちがもう一度手を取り合うためには、彼ら自身が、己の手で立ち、その未来を掴まなければならんのだ」
けれど、人間というものは弱い。
心の拠り所がなければ戦えない。
一度戦おうと立ち上がっても、途中で折れてしまうことだって多々ある。
だから――
「私が! このディリアス・アークスメント=アーサーがッ! 英雄としてその背中を見せなければならんのだ! 不可能などないっ! 誰であろうと、立ち上がれば尊い未来に手を伸ばせるのだとッッッ! たとえ誰が無理だと言おうともッッ!」
そうして彼は叫び上げた。
「我々には立ち上がり、夢を掴み取る力があると証明するのだッッッ!
たとえ仲間を犠牲にしようともッ!
たとえ心を押し潰されようともッ!
絶対に、諦めないッ!
ブリテンの民が、皆、英雄として立ち上がってもいいのだと証明するためにッッ!」
「――――」
「閣下……」
「父、さん……」
血反吐を吐きながら己が夢を叫んだ男は、口元に淡い笑みを浮かべて。
「さあ、来い少年」
切っ先を、向けてきた。
「私は語ったぞ。貴殿も、その心象を告げてくれまいか」
言葉に、友介は一度目を閉じて。
「そう、だな……」
少年は己が心象を短く告げた。
「俺は理不尽と不条理、そして不幸が許せない。たったそれだけだ」
「そうか。――ならば」
「ああ。英雄の背中を見せ、理想のため、弱い人間に悪辣な試練を与えるようなお前とは相容れない」
少年は敵意に滲んだ眼差しをディリアスへと向けた。
そうして。
「では、尋常に――」
「ああ。騎士道に則って、正々堂々、狡からく。真正面から――」
「「勝負だ」」




