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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第五編 楽園侵食
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第三章 宴 3.襲来

 その狂宴の絶叫は、のんびりと部屋でのんびりとくつろいでいた友介達の耳にも届いていた。

 聞くだけで人の心を否応なく恐怖で縛り付けるかのような悲鳴合唱。それはまるで呪いだ。恐怖の叫喚はそれだけで心身を雁字搦めにし、選択肢の幅を狭めていく。

 それと比べれば破壊の轟音など億倍優しい。死を前にした同種族の絶叫は、生物の本能を揺さぶるほどの威力を持つ。

 肉の潰れる音や骨の割れる音など付属品に過ぎない。あくまで主役は人間なり。宴で踊るは人であり、歌があってようやく興が乗り始めるというもの。

 血と肉と骨が散華しようと、所詮装飾。踊る者がいないのならば意味など皆無だ。


「クソがッ、いきなりなんだよふざけんなッ!」

「落ち着きなさい。友介、あまり大きな声を上げればここがばれるわよ」

「いや、ばれるばれないの問題じゃないでしょッ! あんなもん、巻き込まれただけで終わりだよ!」

「と、ととと、とに、とにかく、私は先に、ら、ラボに戻るね!」

「待て、迂闊に動くな。ラボとやらがどこにあるか知らんがな。無傷で辿り着けるほど、もはや状況は甘くない。少しこの場で待機しろ」


 五人が驚愕と焦燥を隠しもせずに声を上げる。埒外の現象に、この場で最も冷静な判断力を持つ千矢ですら、現状維持という停滞の選択肢しか選べない。

 それぞれ己が得物を手に取り、油断なく音や気配に気を遣うも、意味などないだろう。

 何者か知らないが、暴れている手合いはそもそも標的など定めていない。彼らが行っているのは闘争でも戦争でもなく――虐殺。あるいはいたずらに暴力を振るっているだけなのだ。


 閉じていたカーテンから外を覗けば、そこは地獄絵図であった。

 彼方で紅蓮の染め上げられた施設は軍事基地だろうか。さらに別の方角では夜の暗闇よりもなお濃い暗黒の霧が発生していた。目測でも相当な距離があるといのに、その闇はなお深く友介達の網膜に刻み付けられる。

 どこかで鬨の声が上がり、暴動を起こしているような気配があるが――何故だろうか、どこか規律のある雄叫びであった。


「何だよこれ……いったい、何が起きて……、――ッ! おい、伏せろッ!」


 眼前に広がる悲劇を眺めながら呆けていた友介だったが、飛来する何かを『眼』で認識するや、我に立ち返り喉が潰れんばかりの大声で四人に警告を上げた。

 カルラと千矢、そして草次は瞬時に危機を察知し行動に移ったが、この中でたった一人――戦闘に慣れていない蜜希だけは一歩反応が遅れた。


「ま、ず……ッ!」

「へ……?」


 友介とカルラ、そして千矢が何とか手を伸ばそうとするも届かない。草次が捨て身を覚悟で蜜希へ抱き着くように床へ押し倒し、最悪の事態だけは避けたと皆が安堵しかけた、その刹那――

 轟、と風を切りながら空から飛来した何者かが窓ガラスを割って、凄まじい速度で室内へ転がり込んだ。

 窓ガラスが木っ端微塵に砕け散り、その鋭利な破片が五人の上に降りかかる。

 しかし、今はそれすらもどうでも良い。

 何故ならば――



「ハッハアッ……、見つけたぜ。殴り甲斐のある奴らがゴロゴロいやがる」



 刺青の入った白貌に喜悦を滲み、緑色の瞳が友介達五人を射貫く。激しい戦闘を終えた後なのか、整えれば綺麗になるはずの髪は乱れに乱れ、シックに決めていたであろう黒と紺の組み合わせのスーツも、袖はほつれ裾は千切られている。脇腹やひじの辺りの生地が焼かれて下の肌があらわになっているが、その美しい白色の肌に傷が付いた様子は微塵も感じられない。


「誰だ、テメエ……」


 真っ先に反応したのは友介とカルラ、そして千矢であった。近接のカルラが先頭に立ち、その傍らに並び立って鋭く視線と問いを投げる友介。千矢は中衛に構えており、その背後で草次が蜜希を抱きかかえて立ち上がっていた。

 彼我の距離は三メートルほど。友介の間合いだ。


「ハハッ、良いねえ。力が足りなきゃ数と頭を使うか。良いじゃねえか、楽しめそうだ。頭の良い奴は翻弄してくれる」

「――――ッ」

「こいつ……ッ」

「ああ、似てるな」


 野生の獣のような笑みを浮かべて笑う少年に、友介とカルラの脳裏に一人の狂人の姿が浮かび上がった。

 強者への渇望。粗暴な口調と凶暴な笑み。それら全てが、つい先日殺し合いを演じたとある少年と重なった。

 姿、顔立ちは全く似ていない。それどころか国籍すら異なるが――この少年は、どこか土御門狩真と似ていた。

 ただし、彼とは決定的に異なる点があることも、また事実であった。


「っとォ、まだ名乗ってなかったな。俺ァ楽園教会第七神父(セッテカルデナーレ)、『雷闘神(トール)』のジークハイル・グルースだ。ほら、名乗れよ。お前らそれでも殺しに身を置く英雄か?」


 この男は、闘争そのものを望んでいる。

 あるいは、その先にある勝利や栄光を。


「楽園、教会……ですって……ッ?」

「貴様ら、また……ッ!」


 だが、白貌の少年の口にした言葉は、そのような些事など全て吹き飛ばして少年たちに衝撃を与えた。

 楽園教会。そう、楽園教会だ。

 あのジブリルフォードが所属していた正体不明の秘密結社。万夫不当の使徒が集結する謎の組織。その構成員がまたも彼らの前に姿を現した。その事実が持つ重み、あるいは絶望は到底言葉に表せるものでない。

 何よりも、雷闘神(トール)という単語が示す一つの事実――すなわち目の前の少年が神話級であることが、何よりも少年たちの心に鉛の如く重く沈んだ。


「なあ、おい、待てよ……」


 それだけでない。たった今東京で起きている一連のテロ紛いの騒動と目の前の少年を関連付けられるのならば、さらなる不安を想像することは難しくない。


「まさか、いま暴れてるの、全部、教会の奴らかよ……」


 そう。

 ジブリルフォードのような一騎当千の化け物たちが、最低でもあと二人、この国の首都で野放しにされたまま暴れ回るという最悪の事態。

 対してジークハイルの応えは。


「そうだぜ」


 軽い。


「そんなことはどうでも良いだろうが。それよりも名乗れよ。殺し合えねえだろうが。戦の礼儀だろう」


 あまりに軽い返答に、絶句するほかなかった。

 もはや絶望という言葉すら生ぬるい。戦うまでもないだろう。既に勝敗は決している。この街は――否、この国は終わりだ。鏖殺劇を前にして、供物たる被害者たちは嘆き慟哭する以外許されない。


「そん、な……う、そ……っ」


 絶対的な敗北に対して絶望を浮かべる友介達だったが――しかし。

 たった一人、彼らとは全く異なる理由で悲観にくれる少女がいた。


「ま、さか……アンタたちの、目的、は……」


 カルラが何かを言いかけたが、しかし――


「そらそらァッ! 行くぞお前らッッ! 途中でへばんなよ、ぶっ潰してやらァ!」


 大声一喝。ジークハイルが獣の如く吠えた直後、友介、カルラ、草次、蜜希、千矢の五人は、ジークハイルが叩き割った窓から空へ放り出された。地上十階。自由落下に身を任せ、地面に叩き付けられてしまえば即死どころか体が原形を留めている保証すらない。


「――――ッ」


 喉が干上がる。心臓が裏返るような恐怖がせり上がってくる。


「く、そ――っ」


 何か手を打たなければ――焦燥に駆られとにかく無我夢中で手を伸ばそうとした時のことだった。

 視界が凄まじい速度で真横へずれた。困惑を浮かべる間もない。全身が縄のような物に絡め取られたかのような感触があった。それと入れ替わるようにして、腹の底が裏返るような不快な浮遊感が消えていく。


「な、にが……ッ?」


 景色が横へ流れていく。徐々に冷静さを取り戻した友介はようやく周囲の状況を掴み始めていた。

 ヘリコプターだ。AIにより飛行制御が為される無人ティルトローター機の底部から降ろされたロープで造られた巨大な網に絡め取られたことによって落下から救われたのだ。


「ぐ……っ」


 しっかりとロープに掴まり、少年はロープの網を登っていく。やがて機体底部まで辿り着くと、少し離れた所にさらに一本ロープが垂らされた。少し遠いが手を伸ばせば届く距離だ。

 友介は緊張しながらも焦らずしっかりとロープを握る。すると何もせずとも引き上げられ、彼は機内に転がり込むことが出来た。


「が、は……ぁっ!」


 過度の緊張により呼吸が乱れていたのだろう、ひとまずの危機を脱したことによってようやく体を落ち着けることが叶う。


「友介くん、いけてる?」


 問うてきたのは草次だ。その手にロープを持っていることから、彼が友介を引き上げてくれたのだと理解した。


「悪いな、手間かけさせた」

「いいって」


 友介の謝辞に軽く手を振る草次。その後ろから、赤髪の少女が顔を出す。


「今はとにかく逃げるわよ。あんな化け物にかないっこないわ」

「……ああ、そうだな」


 友介の返答には僅かな間があった。

 先ほど、カルラがジークハイルに何かを問いただそうとしていたことを思い出したからだ。何かを知っているのか、彼らの目的やその素性について、聞きたいことがある。

 しかし――


「あいつは、あいつはどう考えてもおかしい」


 まずは目の前の危機を脱することが優先だ。

 ジークハイル・グルース。友介達を吹き飛ばした彼の行為を思い出し、友介は戦慄する。

先ほどは落下死という命の危機にあったからこそ気にする暇もなかったが、今思い出せば身震いする光景であった。

 凄まじい暴風を真正面から叩き付けられ、地上十階の空へ投げ出されたあの時、ジークハイルは何か特別な魔術を使っているようには見えなかった。風や爆発の魔術を受けたわけでもないのに、彼ら五人は風に飛ばされ窓の外へと投げ出されたのだ。

 ならばどうやって? ――問いに対する答えはシンプルであり、それ故に荒唐無稽。分かりやすく理解が容易い。どこまでも単純な話だ。


 拳圧。


 拳を握り、思い切り眼前の大気を殴りつけ、その衝撃で風を引き起こしたのだ。

 小賢しい魔術など使っていない。己が身一つで人を吹き飛ばす暴風を生み出した。

 戦慄する他ない。人間の膂力も極めればここまで超越的なものなのか。


「今は、痣波蜜希に科学圏のシステムにハッキングして手に入れた無人機を操縦してもらってるわ。とにかく今はこれで時間を稼ぎましょう」

「すげーなあいつ……んなこと出来んのか」

「すげーっしょ、蜜希ちゃん」

「何でお前が誇らしげなんだよ」


 蜜希への称賛になぜか反応した草次を放って、彼はゆっくりと深呼吸した。草次に促されて体をベルトに装着すると、ようやく一難逃れたと息を吐く。

 ……否、何一つ安堵できる要素はない。

 というのも、彼はいま重大な問題を抱えていた。


 ――染色が、使えない。


 先ほど空に投げ出された際、上方よりあの拳闘士が飛来する可能性を考慮し、不意打ちを目的とした少年は染色の発動を試みたのだが、一向に発動する気配がなかったのだ。

 理由は様々考えられるが、おそらくは――


(まだ俺が、心の底からこの状況を理不尽だと感じてねえからか)


 ふぅと憂いを多分に帯びた息を吐く。

 下は地獄だというのに、これを地獄だと認め切れていない。

 重要な時に仕えないのであれば、塵も同然だろう。


 落ち込む友介を横目に、カルラがヘリのドアを閉める。派手な音と共に、風を切る音が消えた。機内には一定間隔で鳴る電子音と、友介と草次、カルラの息遣いがあるだけ。

 しばらくそうしていると、機体前部の別室から千矢が現れた。


「あ、千矢君、蜜希ちゃんはどうだった?」

「完全に〝モード〟に入った。今から派手な逃走劇をするから覚悟しろとのことだ」

「そっか……」


 楽園教会へ並々ならぬ怒りを抱く千矢が、心を落ち着けてゆっくりと息を吐くようにそう告げた。冷静に見えるが、彼の心底はマグマのように煮え沸いていることだろう。

 その千矢の報告に、草次がどこか寂しげに息を吐く。その理由は友介にも何となく察することが出来たが、かといって何を言おうとも思わない。これはおそらく、草次と蜜気の問題で、いつか彼らが共に解決していくことだからだ。


「それよりも」


 鋭い声を発したのはカルラだ。


「私たちはいったいつまで逃げるつもりなの。こうして永遠に空を飛び回ってるわけにはいかないのよ」

「それもそうだな。目的地を決めるかどうかでもして、こいつを降ろす必要がある。援軍を待つでもいいし、奴をぶっ殺すでもいい。とにかく何かめどを立てる必要が――」


 言いかけたその時であった。

 異変があった。

 異常があった。

 答えは窓の外。他の枢機卿に見つからぬよう、高層ビルの間を縫うようにして移動するティルトローター機に並走する小さな影があった。

 白い肌と髪。纏うボロボロのダークスーツ。凄惨だがどこか光るものがある爽やかな笑み。右頬に刻まれた凶悪な刺青。


 第七神父(セッテ・カルディナーレ)――ジークハイル・グルース。


 拳圧により暴風を生み出す万夫不当の拳闘士が、時速三百キロで飛ぶ有翼機を追走していたのだ。


「なんつぅーデタラメな……っざけんなよ……ッ」

「――カルラちゃん、開けてッ!」

「いえ、待ちなさい!」


 草次が背負った近くにあった機関銃を二丁手に取り、ジークハイルを迎撃しようとするが、さらなる異変を感じ取ったカルラはドアを閉めたままそれを静止した。


「まだ何か来る!」


 答えはすぐにやって来た。

 遠方。

 五人を乗せる機体を追走するジークハイルの左右から、十にも及ぶ無人ヘリが殺到したのだ。

 左右それぞれ五機ずつ。隊列を組んで迫るそれらには、有機的――つまり生物的な知性を感じる。

 AIでは決して弾き出すことのない回答。

 それを目の当たりにしたジークハイルの瞳が爛々と輝いた。それはまるで、新たなおもちゃを見つけた子供のように。


「クハハハッ。やっぱそうだよなあ、人間だよなあ。機械じゃダメだ。知性を持ち、心を持ち、罪を持った人間だからこそ戦う価値がある。ただ計算できるだけのAIはカスってことかッ!」


 それに、余裕のない笑みが機内の前方から伝わってきた。

 知識王メーティス。

 天才の中の天才。人類頂点の頭脳。未踏領域へ踏み入れた脳髄を持つ知識の王すら、満足に嘲笑を浮かべることも出来ぬ状況。

 しかしそれでも、一騎当千の傑物へ、その暴力的な頭脳を振りかざす。どれほど知能が圧倒的に優れていようとも、人には恐怖と罪がある。それら全てを振り絞れば、勝てぬものなど存在しない。

 ましてここには凄まじい火力を持つ男が二人いる。安堵友介と草加草次。彼らを利用すれば、あるいはジャイアントキリングも夢ではなかろう。

 ここに、天災と天才が激突する。


「へばんなよ天才。ビビんなよ化け物。俺を高みへ押し上げろ。これよりお前は供物だ。今からお前は踏み台だ。頂へ続く階段の一段となれ」


 直後。

 東京の空に、災禍の花火が咲き乱れた。


☆ ☆ ☆


「ヒヒ、ヒハハッ、ヒハハハハハハハ! キヒヒヒッ、カーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――ッッ!」


 密室の中で、鬼の哄笑が響き渡った。


「ぐ、ぁ……なに、を……」

「おいおい、お前まさか聞こえてねえのか? クソ兄貴のアホとその仲間が東日本の首都で派手に暴れてやがるぜ」

「な……ッ」

「どうやら始まったみてえだなァ。まァ? まだ小さな火種らしいけどよ。でも、始まった。どうしようもなく、逃げようもなく、避けようもなく」


 ニィ……ッ、と金髪の鬼の口が三日月に割れた。凄惨で無惨で残酷な笑み。この世の全ての邪悪を煮詰めたが如き黒々とした笑顔であった。

 見る者を不快にさせる、本能が拒絶する表情だ。


「始まったんだよ」


 そして、その笑顔から発される声もまた、人間が忌避する類のものだ。



「――法則戦争がなァ」



 その言葉は、涼太だけでなく、彼らを監視する役目を負っていた看守たちの心すらざわめかせた。

 その胸中を占めるは恐怖と疑念。

 そんな馬鹿な、ありえない。これまでずっと冷戦状態であったというのに、今さら大きな戦いが起きるわけがないという疑念が半分。

 しかし、もしも起きていればこの世界は再び地獄と悲劇で溢れかえる。そうすれば終わりだ。誰もが銃弾と魔術に怯えながら、小さくなって過ごすしかなくなってしまうという恐怖が半分。


 そして、確定していない現在を、確定させる一報が入る。

 勢いよくドアが開かれ、スーツを着た小太りの男が焦燥と疑惑の混在した複雑な表情で狩真と涼太へ告げる。


「ほ、報告です! 出所、だそうです……。今すぐ渋谷へ赴き、剛逆の限りを尽くす魔術師を殲滅しろとのことこと、です……」

「ハハッ、いくらビビってるからってえ囚人に敬語はねえだろうよ」


 狩真はどうでも良いとでも言いたげに笑って、


「しかしまァ、あの女狐も対応が早えなァ。今回は相当キレてんのかもね。クククッ、ザマァねえ。――あァそれと」


 立ち上がった狩真は報告を告げた小太りの男へ接近すると、


「奴らは魔術師じゃねえ。描画師……いや、奴らに限っちゃァ使徒っつぅーんだよ。報告は正確にな?」

「あぁ、あ。あっぁっあ……あが、がふぉぉッ、ご、ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああッ、あああッあ、あああああああああああああッッッ!」


 右手をその腹へ突き刺し、生まれた隙間に左手もねじ込むと、力任せに()(さば)いた。

 血と臓物が零れ落ち、男は絶命する。顔に付着した血を舐め取り、床に落ちた臓物を踏み潰すと、鬼は涼太へ向き直る。


「ヒヒッ、食事も済んだしさっさと行くぞ。仕事だ。俺も久しぶりに『アノニマス』として働いてやるよ」

「――ッ、これ以上、無関係の人を殺すのはやめて」

「キハハッ、良い目だ。それにしても、お前ちょっと変わったなァ。ビビりのくせに背伸びする涼太はもういねえのか」

「うるさい。僕だって、彼の雄姿を正面から見たんだ。変われなければ男じゃない」



 戦場は複雑化する。

 あらゆる要素が組み込まれ、戦争は混沌へと舵を切る。

 誰かの差し金のように。

 あるいは、運命のように。


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