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Rule of Scramble  作者: こーたろー
第一編 法則戦争
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序章 始まりの地獄

 日本に存在するとある都市。そこで少年は、地獄を見た。


 初めまして! 僕が支部で活動していたことを知っていた人はお久しぶりです! こーたろー(本木辛)です!

 拙い部分も多々ありますが、楽しんでもらえれば嬉しいです! ではどうぞ!

 紅蓮の炎が噴き上がる。

 建造物は軒並み獄炎に包まれ、街のあちこちから倒壊音が響いていた。そこには人々の悲鳴や怒号が混じっているが、戦車のキャタピラ音や砲撃音がそれら全てをかき消していく。


 (だいだい)色に染め上げられた空では、武装ヘリが機関砲を放ち続けていた。一分間撃ち続ければ戦車すら紙粘土のように引き裂きくほどの威力を持つこの機関砲は、科学圏の中でも最先端と言っていいほどの技術が詰め込まれている。しかし、機関砲から射出される弾丸は虚しく大空を斬り裂き、無関係の物ばかりを破壊するだけで、実質的な戦果を上げることが出来ないでいた。

 ヘリが相対しているのは人間。

 黒いローブを纏い、手に儀式用の剣か何かを握った人間が、AIを搭載された高性能無人兵器と互角に渡り合っているのだ。

 魔術師。

 魔術という異能を使い、個の戦闘力が先端兵器に届くような化物。今この瞬間も、如何なる方法を使ったのか、魔術師は機械や科学技術による補助なしで空を飛び回っていた。

 AIを搭載された無人ヘリが果敢に攻めるが、魔術師はその全てをひらりと躱す。返す刀で剣を握った手を振ると、突如、虚空に巨大な炎球が現出し、無人ヘリを呑み込んだ。

 爆音が大気を揺さぶり、腹の底に響いてくるような轟音が地上に届く。運良く火災に巻き込まれていなかった建物も、空からの衝撃によって全ての窓ガラスが割れ、中で隠れていた人達に牙を剥く。


 赤く燃え盛る地獄の中で、無力な人々は、二つの大きな力に挟み撃ちにされてただ震えることしか出来ない。

 泣き叫んでも助けは来ない。

 立ち向かっても勝利は無い。

 逃げ回っても生き残れない。

 生きてこの地獄から抜け出せる可能性は限りなくゼロであり、一つでも選択を間違えばそれは死に直結する。


 空が戦場なのだから、当然、地上も戦場。

 銃弾と魔術が飛び交い、流れ弾が何の関係も無い一般人を襲う。

 地面は焼け石のように熱く、空気は砂漠のように乾いている。

 死が蔓延する世界。

 救いの存在しない世界。

 そこに、一つのありふれた悲鳴が上がった。


「あ、ああああああああああっ! い、やだああ! 助けてぇ! 誰か……誰かじいちゃんを助けてよぉッ!」


 そこには、横たわる祖父の死体に必死に(すが)る一人の少年の姿があった。

 彼は、喉を穿たれた祖父の死体を抱き起こそうと躍起になっていて、その有様たるや、見ている側の心が引き裂かれそうなほど悲痛なものだった。


「こらっ! ゆうちゃん……ッ! 逃げるのよ……ゆうちゃんッ!!」

「嫌だっ!! じいちゃんは……じいちゃんはどうすんのさあ!?」

「見て分からないの!? 死んでるのよっ!!」


 金切り声を上げてヒステリックに叫ぶ初老の女性が、少年の体を祖父から引き剥がそうとする。だが、少年はそれを乱暴に振りほどいて祖父の体にしがみついた。祖父の喉に開いた孔からは今なお血がドクドクと溢れ出し、地面に血溜まりを作っている。

 少し離れた所でも似たようなことが起きているのか、様々な言葉が飛び交っていた。


「誰か助けてえ!!」

「早く立て! 殺されるぞッ!」

「ママを助けて!! 代わりに私が殺されるから!!」

「あそこに人がいるぞ!」

「あの人を……殺して」

「お前が俺の代わりに死ねよ!」

「殺してやるッ!」

「ではそうしましょうか!!」


 生き残るために他人を蹴落とす人間の(さが)が透けて見えるような世界。

 勝手な言葉が次々と放たれる。——が、少年の耳にはそのどれも入ってきてはいない。

 数えるのも面倒なくらい祖父の体を揺さぶる。

 しかし、その奇行も長くは続かなかった。

 乾いた音と共に、少年の頬に鋭い痛みが広がったのだ。


「お願いゆうちゃんッ! お願いだから一緒に来て!! 魔術師に見つかったら終わりよ!?」

「く、……そぉ……ッ!!」


 血が滲み出るほど強く唇を噛み、ようやく祖母の言葉に従う少年。彼は立ち上がると、顔を涙でグシャグシャにして祖母に向き直った。


「ゆうちゃん……!」


 祖母がホッとしたような表情で少年の手を握ろうとする。彼はその手を握り、そして一言謝った。


「ご、ごめんなさ——」


 だが。

 言葉は最後まで続かなかった。

 遠方から何かが飛来し、祖母のこめかみを右から左へ貫いた。パッ、と血肉と頭蓋骨の欠片が宙を舞う。彼女は何を喋ることもことなく、白目を剥いて瓦礫だらけの地面に倒れ込んだ。


「……………………」


 一瞬何が起きたのか分からず、少年は数秒間その場で固まってしまった。


「ばあ、ちゃん……?」


 魂のこもっていない、擦れた声が喉から漏れ出たことに、少年は気付いていない。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 倒れた祖母の遺体に手を伸ばし、その肌にそっと触れる。



 冷たかった。



「あ、ぁあ……」


 瞬きも忘れて、呆然と目を大きく見開いた。口を半開きにしたまま顔を絶望の表情に染める。


「僕の……せいだ……」


 小さな呟き。それは街の悲鳴にかき消され、誰にも届くことはない。

 ただ己に向けてのみ放った言葉だった。


「僕の……僕のせいだ……! うぅ! 僕が! 僕が僕が僕が!! あああああああああああああああああああああっ!!」


 意味を為さない言葉を羅列する。喉の血管が切れるかというほどの絶叫。

 しかし、それもまたすぐに終わる。

 土を踏む音が背後から聞こえたからだ。街のあちこちから聞こえる爆音や悲鳴にかき消されそうな、とても小さな音。なのに、その足音は少年の耳に嫌に強く響いた。

 一歩一歩確かめるように歩いてくる。


「ぁ……、いや、だ……」


 この地獄が始まって初めて、他人の存在を意識した。その瞬間、少年はようやく自分が今置かれている状況を自覚した。



 ここが戦場であり、力を持たない自分はいつ誰に殺されてもおかしくないということに。



「い、嫌だぁ……嫌だあっ! 死にたくない……死にたくない死にたくない!! 嫌だ殺さないで……殺さないでえええええッ!」


 叫ぶと同時、少年は持てる力の全てを振り絞って駆け出した。背後から少女の悲鳴のようなものが聞こえてきたが、少年はそれを振り切って足を動かす。

 あの足音が誰の物なのかは分からない。もしかしたら、ただの被害者がほうほうの(てい)で逃げてきただけかもしれない。ただ助けを求めてやって来ただけだったのかもしれない。

 けれど、救いの手を差し伸べようとは思えなかった。

 だって、もしもさっきの足音の主が魔術師だったらどうするのだ。捕まればただでは済まないだろう。彼らは科学圏の人間もこの街に住むただの一般人も関係なく皆殺しにしようとしているのだ。

 さっきの人物が誰だったのか確認する必要は無い。他人の全てを疑い、生き残るために走り続ける。それだけをしていればいい。


「はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ!」


 街の至る所で火の手が上がっている。吸い込む空気が熱い。呼吸を繰り返す度に喉がヒリつき、気管が焼き爛れているかのような錯覚に陥ってしまう。

 灰が目に入り、いやに染みる。

 五分ほど全力で走り続けると、やがて体力の限界が訪れた。

 少年は何かに蹴つまずいて派手に地面に転がってしまう。顔面からこけたので、口の中に砂利が入り込んでしまった。彼はつばと一緒にそれらを吐き出しながら、自分が躓いたものを見ようと振り返った。

 その瞬間。


「ひっ……!!」


 一気に喉が干上がった。

 情けない音が喉から漏れるが、それも仕方が無いだろう。

 少年が足を引っかけたもの——それは、死体だった。

 顔面の半分を黒く炭化させた男の子の死体だったのだ。


(……いや、違う……)


 しかし少年は、すぐにその間違いに気付く。それは死体などではない。紛れも無い、生きた人間だった。

 だって。

 だって……。



 そいつは少年を逃がすまいと、その足首をがっちりと握ってきていたのだから。



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」


 恐怖のあまり、意志とは無関係に悲鳴を上げていた。

 焼けてしまった顔面のうち、無事な方の目玉が少年をジッと見つめてくる。

 いくばかの間見つめられ続け、少年はようやく気付いた。足首を握ってきているそいつは、少年と同じ小学校に通っているクラスメイトだということに。

 だが、そんなことはどうでも良い。彼はとにかく、足首を強く握っているその手を離して欲しかった。


「はな、してよぉ……」


 のどを震わせながら、少年は懇願した。


「離してよぉ!! き、君の……君のせいで逃げられないじゃんか!」


 しかし、そいつは握った手を離すどころか、より一層力を込めてきた。


「な……!」

「…………テ」

「……は……?」


 恐怖に雁字搦めにされ動けなくなっていた少年の耳に、擦れた息のような声が聞こえてきた。注意深く耳を傾けなければ聞こえないような小さな声。なのに、絶えず砲撃音や爆発音がなり続けるこの戦場でも鮮明に少年の耳に響き渡った。


「……け……テ」


 ギョロギョロと目玉をあちこちに動かしながら、彼はこう言ったのだ。



「タス……ケテ……」



 足首にかかる力がさらに強くなった。

 少年はギリリと歯を噛み締め、そして——


「離せっつてんだよぉ!! 邪魔なんだよお前! お前なんかどうでも良いんだ! だから離せよぉっっっ!!」


 足をめちゃくちゃに振り乱し、その手を無理矢理振り払った。勢い余って靴底がその子の顔面を蹴飛ばしたが、彼は気付かないフリをして駆け出した。後ろから聞こえてくる懇願の声を振り切るように、彼は永遠に走り続ける。

 けれど、頭の中であの声が途切れることはなかった。

 何度も、何度も。あの言葉が少年の頭の中で再生される。

 どれだけ走っても、あの声が消えることはなかった。



 タスケテ——という、呪詛にも似た小さな声は、今もなお少年を背中から追いかけて来る。


 いきなりこんな話ですみません......。

 次話からが本編です。よろしくお願いします!

 次の投稿は火曜日を予定しております! もしかしたら月曜日になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

 一応、『火・木・土』か『月・水・土』で投稿するつもりなので、決まったら連絡させてもらいます!

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