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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者と巫女の出現
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ありがとうございます。

ごそごそと何かが動く気配に意識が浮上する。傍らにあった温もりが離れていくのを感じたので、手を伸ばして捕まえ引き寄せて抱きしめると俺の意識は闇の中に沈んでいった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はあ…」


溜息が零れる。身体を拘束している腕は自分の腕よりも太くて逞しい。全力を出せは振り払う事は出来る。でもそれをすれば、この腕の持ち主を起こすことにもなる。疲れているのかぐっすりと眠っている彼を起こすのも忍びない。だがこっそり抜け出そうとしても気が付けば腕の中に囚われている。起きたのかと様子を窺えば寝ている。それなのに抜け出そうとすれば捕まる。不思議だ。

でも、抜け出せないなら仕方ない。ルカが放してくれないんだもの。だからルカが起きるまではこの腕の中で眠ろう。こうして一緒にいられるのはあと少しだけなのだから………。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「きゃあん!?」


パンにかぶりついたらパンが悲鳴を上げた事に驚いて目が覚めた。

目の前にあるのはパンではなくレティだった。一緒に寝ていたのだからレティがいるのは問題ないのだが、レティは涙目で睨んでいる。


「どこ、触ってるの?」


怒らせるような事をしただろうかと考えていたら、涙声でレティが問いかけてくる。

どこを触っているのかと聞かれ自分の手の位置を確認する。さっきまでパンを掴んでいたはずの手は、レティの(意外と大きい)胸を掴んでいた。触っているのではなく鷲掴み。

そろそろとレティを見れば羞恥に頬を染め、涙目で睨んでいる。うん。これは怒るはずだ。

手を放すと素早く身を起こして距離を取ってしまった。


「ごめん」


寝ぼけていたとはいえ、胸を触ってしまったのは事実なので潔く謝る。殴られても仕方ない。


「お前ら、朝っぱらからなにやってるんだ」


呆れたようすで師匠がやってきた。手にはパンを持っている。表面にほんのり焼き目がついてるから軽く炙っていたのだろう。香ばしい匂いが漂ってくる。


「ルカが、ルカが私の胸を触って、噛みついてきた……」


レティから事情を聴いた途端に師匠が般若の形相で俺を睨み、先生からは殺気が飛んでくる。


「…ルカ、おまえっ!」

「レティには殴られても仕方ないです。でも誓って故意ではありません」

「じゃあなんでレティの胸を触って噛みついたんだ!」

「それは、その、夢を見てて…」

「夢?」

「いい匂いがすると思って気が付いたら手の中に焼き立てらしい温かくて柔らかい大きなパンがあったんです。おいしそうだなと思って齧り付いたら、パンが悲鳴を上げてそれに驚いて目が覚めました」

「「「・・・・・・・・・」」」


レティは顔を真っ赤にして俯き、師匠は呆れたとように俺を見て次にレティを憐憫の目で見ている。先生には凍りつくような冷たい目で見られた。

レティにしてみれば突然俺に胸を掴まれた挙句に噛みつかれたのだから悲鳴を上げるのは当然だろう。申し訳ない。


「レティ、俺が噛んだとこ大丈夫か?」


真っ赤になって俯いていたレティがのろのろと襟元を緩ませて首のあたりを撫でる。


「噛み痕がある…」


顔は赤いまま恨みがましい目で見られ、居た堪れなくなり目を逸らした。


「痛みは?」

「痛みはないけど……ルカのバカ!」


このあと必死に謝って、平手一発で許してもらえた。たとえそれがレティ渾身の平手で顔の半分がおもしろい事になっていたとしても、グーパンでなかっただけマシだろう。回復薬(ポーション)や魔法による回復は勿論禁止、ここが山の中で良かったと思ってしまったのは内緒だ。

血の味のする朝食を食べて出発の準備を整えて外に出ると、どんよりとした曇り空だった。また雨が降るかもしれないが、できれば今日中に国境を越えておきたい。


師匠からギルド長達には自分達の事は自分たちでするようにという事とレティに関わらないという事を約束させたと聞いたのであっちはほっとく事にした。

そのお陰か天気には恵まれなかったが旅は順調に進み、とうとう隣国ドミニオンにあるクトロに辿り着いた。

ナナは変わらず眠ったままだが、師匠と先生に掛かっていた呪いの解呪には成功した。今までは『禍の忌み子』の称号の所為で力を抑制されていたけど、『巫女姫』の称号を得て本来の力を取り戻したのだと俺は考えている。


問題は残ったままではあるが、なんとかドミニオン国に(不法入国だけど)入る事は出来たし、町にも着いた。何日かはこの町に滞在するだろうが、その後どうするのかは自分達で決めるだろう。

なにはともあれ町には着いたのだ。長かった野宿から解放され、宿のベッドで寝る事が出来るのだ。町に着いた俺達は足取り軽く宿に向かい部屋を取ると夕飯もそこそこにベッドに潜り込んだのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ギィ


古い床板が軋んで音を立てる。動きを止め、息を殺して室内の様子を窺う。どうやら誰も起きなかったらしい。胸を撫で下ろし先程までより更に慎重に静かに息を殺し部屋を出る。周囲を確認して誰もいないのを確かめると急いでそして静かに足を進める。


外はまだ暗く静かだった。誰もいない道を足早に町の外に向って歩く。

そう時間も掛からず町の入り口に辿り着くと一度宿のある方角を振り返る。

辛いけどこれは自分で決めた事。一緒にいるのは危険だし、心も抑えられなくなってしまう。これは正しい選択だと自分に言い聞かせ、町の外に向かって足を踏み出した。

読んでいただきありがとうございました。

次回の更新は1月31日(日)の予定です。

これからもよろしくお願いいたします。

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