深まる溝
ありがとうございます!
微かな足音が聞こえた。先程レティが入っていった穴へと視線を向けると小さな明かりがゆらゆらと揺れているのが見える。精霊が教えたのなら危険はないとは思っていたが無事で良かった。
「道は細いけど奥に広い場所があったよ」
戻ってきたレティに中の状態を聞くと全員が余裕で入れるぐらいの空間があったらしい。
「ありがとう、レティ」
頭を撫でてながらお礼をいうと、嬉しそうに笑った。今日初めて見せた笑みに思わず頬が緩む。ずっと固い表情だったから気になっていたのだ。
「今日はこの中で休みましょう」
休める場所があるのなら暗い夜道を危険を冒して進む必要はない。師匠達に声を掛けるとレティの肩を押して奥へと進んだ。
中は想像以上に広かった。だが本当に元々この広さだったのだろうか?じっとレティを見詰めるとそわそわと目を泳がせる。うん。なにかしたな。これも今度じっくりと話を聞こう。
だがまずは食事の準備だ。雨で体は冷えてるし腹も減っている。レティに食材や調理に必要な物を出してもらい夕飯を作る。ちなみに作っているのは俺、レティ、師匠、先生の4人だ。他の人たちはそれを見ているだけで手伝おうともしない。移動も食事も俺達におんぶにだっこってどんだけ甘えてるんだ。でも言い争いになっても面倒なので一応全員分作った。スープと肉の串焼きという定番メニューだ。
スープを自分達の分だけ皿に注ぎ焼けた肉串をとって4人で座る。
「あとは自分たちで勝手に食べてください」
何もせず見ていただけの人達にそう告げて俺は出来たての温かい夕飯を食べた。食べ終わった食器は先生が洗浄の魔法できれいにしてからレティがアイテムボックスに収納した。
ギルド長達も不満ですと顔に大きく書いていたが食べていた。セイが「あんな女の作った物なんて何が入ってるか分からない!」とかほざいて食べなかったが、ギルド長の「ルカ達がも同じものを食べているのだから大丈夫だ」という言葉にしぶしぶ食べていた。そこまでして食べてほしい訳でもないので次からは準備しない事を決めた。心が狭いと言われようがどうでもいい。もう勝手にしてくれ。
師匠と先生が呆れたようにギルド長達を見ていたが、しょんぼりしているレティの頭をワシワシと手荒く撫でる。
「ルカ、レティ、もう寝ろ。見張りは俺とギャレットがやる」
「わかりました。レティ、寝る場所作るから毛皮出して。あとあっちの荷物も全部出して」
毛皮を出そうとしていたレティの動きが止まった。
「レティが出した荷物は師匠のアイテムボックスに入れてください。まだ余裕ありますよね?」
「……はあ、レティ荷物を出せ(かなり怒ってるな。レティをあっちと関わらせないつもりか)」
荷物を出せという言葉にギルド長達がこっちを凝視していたが、師匠のアイテムボックスに入れ替えると聞いて目を大きく見開いた。まさか師匠も持ってるなんて思わないよな。……俺も持ってるけど。
レティは首を傾げつつもアイテムボックスからギルド長達の荷物を取り出して地面に置いた。
「預かってた荷物はこれで全部だよ」
「ありがとう、レティ。師匠、これお願いします」
「おう」
「レティ、あと毛皮出して」
「うん」
ギルド長達の荷物は師匠に任せて、俺は寝る場所を作る。レティが取り出す毛皮を俺が地面に敷いていく。
「レティ、もういいぞ。………よし。寝る場所はこれでいいな」
毛皮を2重に敷いてるからゴツゴツしないし、ゆっくり眠れそうだ。
マントと上着を脱いで毛皮の上に寝転がるとレティが毛布を掛けてくれた。
「レティもずっと魔法を使って疲れただろ。寝よう」
「うん」
レティがマントと上着を脱いで畳みおわるのを待って毛布の中に引っ張り込む。
「ルカ?」
困惑した声が胸元から聞こえるが無視して抱き寄せる。しばし固まっていたが、俺が放さない事を理解すると諦めてゴソゴソとおさまりのいい場所を探し始めた。いい場所はすぐに見つかったらしい。
「おやすみなさい」
「おやすみ、レティ」
「ゆっくり休め」
「しっかりルカも見張っておくから安心して休みなさい」
「えっ?」
レティの就寝の挨拶に俺、師匠、先生の順に返した。先生の言葉がおかしかった気がするのは俺の気のせいだろうか?レティは……眠っていた。寝つき良すぎだろ!?
「先生、さっき…」
「ルカも早く寝なさい」
「…おやすみなさい」
「しっかり休め」
「見張ってますからゆっくり休みなさい」
「………(見張ってますって周囲を?それとも俺?)」
腕の中ではレティが安心しきって顔で健やかな寝息を立てている。これはこれでやっぱりショックだ。どうすれば男としてみてもらえるんだろう…。
溜息を呑み込んで目を閉じると俺は意識を闇に委ねた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レティンシアを腕の中に抱いて眠ようとして弟子を止めるべきかとも思ったが、抱きこまれた本人が抵抗もなくそのまま眠ってしまったので本人が気にしないならいいかとほっとくことにした。男として見られていないらしい弟子が哀れではあるが、こればかりは本人が頑張るしかないので生温かく見守ってやろうと思っている。
「アンドリュー」
俺達の様子を窺っていたギルド長が険しい顔で呼びかけてきた。
「アイテムボックスの事か?」
「そうだ」
「レティンシアが持ってたのを貰った」
「…まだ持ってるのか?」
「ルカにも渡してないしもう持ってないんじゃないか?」
「そうか…」
「一応言っとくが、アイテムボックスは所有者しか使えない。奪っても無駄だぞ」
レティンシアのアイテムボックスに視線を走らせたギルド長に釘を刺しておく。
「譲る事は可能なのか?」
「ああ。…俺は譲らんぞ」
「そうだろうな」
「それより自分達の態度を改める気はないのか?ルカはかなり怒ってるぞ」
「……お前達は疑ってないんだな」
「はあ、お前ら全員レティンシアを疑ってるのか」
「当たり前だろ」
レティンシアが王都に来たのは俺達と連絡が取れなくなったからだ。それを決めたのもルカで、レティンシアではない。レティンシアには謎が多いがそれも当然なのだ。レティンシアは俺とギャレットを信頼はしてない。ならばなぜ警戒しないのかというとルカが信頼している相手だから、というのが一番大きな理由だろう。レティンシアの判断基準はルカが信頼しているかどうか、そして自分の直感。その一番信用し、信頼しているルカにすら隠している事を俺達に話す訳がない。当然俺達にすら話さない事をギルド長達に話す事はもっとありえない。
「そうか。なら明日の朝からは自分達のことぐらい自分達でしてくれ。レティンシアにも関わるな」
「分かった」
「ならいい。見張りは俺とギャレットがやる」
「俺もやる。交代の時には起してくれ」
「分かった。俺、ギャレット、ギルド長の順でいいか?」
「ああ」
レティンシアが出したギルド長達の荷物をアイテムボックスに入れていると強い視線を感じたが、あえて振り返る事はしなかった。実はレティンシアが複数個持ってるなんて知ったら脅してでも譲らせそうだな。レティンシアには絶対に知られるなと念を押しておこう。
「アンドリュー」
「どうした、ギャレット」
「あの二人はあれでいいと思うか?」
「本人が嫌がらずに一緒に寝てるんだからいいんじゃないか?」
「いや、しかしな…」
「もう寝ちまってるし起こすのも可哀そうだろ。それに一緒に寝てる相手はルカなんだから間違いなんて起きるわけねえよ。念のため俺も(ルカの事を)見張っとくから安心して寝てくれ」
そもそもこれだけ人がいる前で間違いなんて起こせないだろうが、念には念を入れておくに越したことはない。
「わかった。ではくれぐれも頼む」
「まかせとけ」
ギャレットは何度も念を押してから寝た。あの2人がくっ付くのは時間の問題だと思うから諦めた方がいいと俺は思うんだかな…。
次回の更新は1月28日(木曜日)の予定です。
更新ペース上げれるよう頑張ります。
でもなんだか話が迷走中。進まない………。
寛大な御心で読んでいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。