追手
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焚火の前で膝を抱えている後ろ姿を俺は黙って見ていた。俺はレティに気付かれないようにテント入り口の幕を下ろして布団に寝転がる。
「天族、か」
レティのステータスにあった称号『天族の巫女姫』。
この世界には大きく分けて3つの種族がいる。俺達の様な者を『人族』、獣の耳や尻尾のある者を『獣人族』、黒い肌に紫の髪と瞳を持つ者を『魔人族』と呼んでいる。『天族』という種族は聞いた事がない。
詳しい事は本人に聞くしかないだろうが、今まで話さなかったことから察するに知られたくない事なんだろう。だが、ステータスに『天族』と表示されてしまっている事は教えないと拙いし、あのステータスもいろいろやばいから隠蔽もしくは偽装しなくてはいけない。万が一、俺以外の奴に見られたら厄介な事になる。
出来るだけ早くなんとかしよう。
目を閉じれば睡魔はすぐに訪れた。
その夜、俺は夢を見た。
そしてその夢の中で俺は重要な選択を迫られるのだった。
※※※※※※※※※※※※※※
気が付けば朝になっていた。
「見張りは……?」
予定ではレティ→俺→ギルド長の順に見張りをするはずだった。なのに俺は今まで寝ていた。
つまり見張りをしていない。
「レティが俺の分まで見張りをしたのか?」
隣を見ると、レティがぐっすり寝ている。どうして見張りを変わらなかったのか起して聞くのも可哀そうな気もしてマントと剣を持って静かに外に出る。
空はどんよりとした曇が覆っている。もしかしたら雨が降るかもしれない。
雨が降れば進みは遅くなるし、雨の量によっては進めなくなる可能性もある。
若干憂鬱になりながら朝食の支度をしていると、レティが慌てた様子でテントから出てきた。
「ごめんなさい。寝坊しちゃった」
恥ずかしそうにしながらパタパタとレティが駆け寄ってきた。
「大丈夫だ。それより、どうして俺を起さなかったんだ」
「見張りの事?」
「そう」
「実は昨日の見張り、途中からアンドリューさんとギャレット先生が代わってくれたの」
「師匠と先生が?」
「うん。『どうせ俺達は明日も荷車の上だから』って」
まあ体力の低下を抑える為に2人には今日も荷車には乗ってもらう。レティの魔力が完全に回復したらもう一度解呪にチャレンジしてはもらう予定ではあるが、それまでは移動は全て荷車の上だ。
「そうだったのか。何かあったのかと思った」
「驚かせてごめんね」
「いや、レティが無理してないならいい」
申し訳なさそうな表情を浮かべるレティを撫でて朝食の準備を再開する。
※※※※※※※※※※※※※※
完成した朝食を全員で食べているが、雰囲気は悪い。それというのも星也の治癒を俺が突っぱねたのが原因だ。レティは治そうとしたが俺が止めた。理由はアイツの怪我は自業自得だからだ。
そもそもアイツがレティを殴るのが悪い。年下のしかも女に手を上げるなんて最低野郎の治療なんてしてやるものか。
さっさと食べ終わると出立の準備をする。雨が降りださないうちに出来るだけ進んでおきたい。
全員の食事が終わって早々に荷車に師匠と先生、宮野、ばあちゃん、武器屋の奥さん、宿屋のおかみ達を乗せて出発した。
俺とレティは前、荷車の右に武器屋の親仁さん、左に宿屋の主人、後方にギルド長と星也だ。
前と右側の敵はレティが、後ろと左側の敵はギルド長が相手をする事になっている。幸い魔物に出くわすことなく順調に進んでいるだが、その進みは遅い。原因は星也である。
怪我が痛むのかその歩みは遅く、俺はたびたび足を止めて追い付くのを待たなくてはいけない。それが嫌なら治せばいいのだが、それも腹立たしい。今も後方からストップがかかったので追い付くのを待っているところだ。レティが『治してあげよう』と目で訴えているのに気付かない振りをして昨日寝る前に考えていた事について訊いてみた。
「真眼の腕輪ってレティの一族が作った腕輪だったよな?」
「そうだけど、どうしたの?突然」
「この腕輪の効果にある鑑定を防ぐ方法ってあるのか?」
「鑑定を防ぐ方法?」
「ああ。鑑定を使われてもステータスを隠蔽する方法」
俺の問いに目を伏せて考え込む。そして、しばしの沈黙の末口を開いた。
「あったような気はするけど詳しくは…少し時間貰える?調べてみる」
「頼む。悪いな」
「ううん。でも急にどうしたの?」
「……いや、もし敵側の誰かが鑑定とか使えたら困るだろ。魔法属性とか知られるのは拙い」
「分かった。頑張るね」
「無理はするなよ」
「うん」
レティと話している間に星也達が追い付いたので歩き出す。
鋭い視線が後頭部にグサグサ刺さるが無視して歩いているとレティが足を止めて後ろを振り返った。
星也を気にしているのかと思ったが、レティの視線は星也の更に後方を見ていた。
「どうした?」
「追手が来てるみたい」
「追って?」
「うん。鎧を着て馬に乗ってるって。このままじゃ追い付かれるって言ってる」
『言ってる』って誰が?と内心首を捻る。そして昨日の事を思い出してまさかと思いレティを見ると頷いた。レティだけに聞こえる声。昨日と同じならその正体は精霊。
だとしたら嘘という事は無いはず。こうしてはいられない。
「レティ、俺以外の全員を荷車に乗せた状態で長時間浮遊魔法を使えるか?あと俺の足跡を消す事」
「大丈夫だよ」
「じゃあ頼んだ」
レティに魔法をお願いして俺も魔力を両足に流して強化する。
「ペースを上げるので全員荷車に乗ってください」
ギルド長達に荷車に乗るよう伝えると不審そうな顔をしたが大人しく乗った。最後にレティが荷台の端に進行方向に対して背を向けてちょこんと座る。足をぷらぷらと外に出している状態だ。
「レティ、いいぞ!」
「【浮遊】」
タイヤが地面から僅かに離れると同時に俺は力強く地面を蹴った。
レティの魔法で荷車を浮かしているので荷車も重くないので全力で走れる。ついでに魔力で足を強化しているのでスピードはいつも以上に出せる。追ってはまだ視認出来る距離にはいない。あとは足跡を消しながら進めば多分大丈夫だろう。
読んでいただきありがとうございました。
次の更新は1月21日(木曜日)の予定です。
更新ペース上げられるよう頑張ります。
これからもよろしくお願いいたします。