巫女姫の目覚め
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
「ぎゃあああああああああああっ」
すさまじい悲鳴を上げて宮野が地面をのた打ち回っている。
その体には光る矢が突き刺さっており、どれだけ暴れても抜ける事も折れる事もない。俺も恐る恐る自分の体を見たがそこには何もなかった。そう文字通り何も無いのだ。確かに刺さったはずの矢傷もなく、宮野との戦闘で出来た傷すらも無くなっている。もちろん服にも穴は開いていない。
ついでに先程まで重たかった体が嘘のように軽い。感じていた体の不調すら無くなっているとはどういうことだ。
信じられなくてレティを見ると泣きそうな顔をしていたが、矢が刺さったはずの俺が何事もなくピンピンしているのを見て安堵したのかへにゃりと情けない顔で笑うともう一度弓を引くと今度はネイダさんに向かって矢を放つ。
ジリジリと俺に近づいてきていたネイダさんの体がビクンと跳ねたがそれだけで、叫びだすことも暴れる事もなかった。そしていつの間にか宮野も静かになっていた。ピクリとも動かなくなってしまった宮野の体からは矢は消えていた。やはり実体はなく魔法で作られた矢だったらしい。生死の確認の為に首筋に手を当てて脈を確認し、ついで呼吸も確認した。
間違いない。………生きてる。
身体からは俺が付けた傷も矢傷もない。苦しんでいたのは宮野ではなく中にいた奴だったということか。生きてた事にホッとしつつ俺が顔を上げたのとほぼ同時にレティの体が吹っ飛び地面を転がった。
「レティ!!」
レティに駆け寄り抱き起す。
頬は赤くなっており、唇の端は切れて血が滲んでいる。意識もない。
腫れ始めている頬に手を当てて治癒をかけると、一瞬で元の白い肌に戻り腫れもなくなった。
ただ、なぜかいつも以上に魔力を消費した気がするのは俺の気のせいだろうか?まあ、レティ怪我さえ癒せれば魔力を多めに消費しようがどうでもいい。レティを両腕で抱え上げて立ち上がり、元凶の元に行く。師匠に羽交い絞めにされてもなお、暴れている星也の正面に立つと憎悪に満ちた眼で俺とレティを見る。
「なんで!おまえ…」
「先生、レティをお願いします」
なぜか顔を引き攣らせて固まっている先生にレティを預けて、改めて星也のに向き直る。
師匠も先生と同じような顔をしているが、そんなことは関係ない。
「師匠、そのバカを放してください」
「……程々にな」
俺が何をするつもりなのか分かっている師匠からの忠告は一応受け取ってはおく。
星也は自由になるとすぐに俺に掴みかかってきた。
「どうして!どうしてナナを殺したんだ!」
「殺してない」
「あの女が殺した!」
「宮野は生きてる。脈もあるし息もしてる。いい加減放せ」
生きている事に驚いたのかパカリと目と口を開いて固まってしまった|星也の腕を振り払う。
「それより、お前レティを殴ったな」
「それはあの女が…」
「宮野は生きてるし俺が付けた傷も治ってた。傷を癒したのはレティだ。そのレティにお前、何した?」
「だって、あの女、ナナを…」
「歯、食いしばれ」
しどろもどろに言い訳をする星也を思い切り、でも死なない程度の力で殴る。
勢いよく吹っ飛び地面を転がっていくのを見送り、先生の元に行く。
「ありがとうございました」
先生に預けていたレティを受け取る。瞳は閉ざされたまま目覚めそうにない。
「ルカはなんともないのかい?」
「むしろ好調です。でも宮野の中にいた奴には効いたみたいですね」
宮野の傍に行くと、全員(星也以外)ぞろぞろと着いてくる。
先生、師匠、ギルド長が順に宮野の首筋と口元に手を当てて脈と呼吸を確認する。
「生きてるな」
ギルド長が信じられないという表情を浮かべている。
次にネイダさんの方に移動して同じく先生、師匠、ギルド長が順に脈と呼吸を確認する。
「……死んでるな」
ギルド長が悲しそうに顔を伏せた。
レティの放った矢は消えていた。体は俺が切り裂いたままの状態だった。なぜ?と思ったけどよく考えれば当たり前のことだ。死体に治癒魔法は効かないのだから。
ピクリと腕の中のレティが身じろいだのに気付いて、見下ろすと瞼が震えゆっくりと持ち上がる。白銀の瞳が現れる。
「ルカ?」
「大丈夫か?」
「うん」
どうして俺に抱えられているのか分からないのか不思議そうに首を傾げていたが、周囲を見て状況を思い出したらしい。一気に顔から血の気が引いていく。震えている体をギュッと抱きしめると涙目で見上げてくる。
「俺も宮野も生きてる。大丈夫だ」
「怪我は?」
「治った。レティが治してくれたんだろ?」
自分が使った魔法の効果を分かってないのか?
「たぶん……」
自信なさげに俯いているレティを見ながら考えるが、分かるのはレティは魔法効果をよく知らずに使ったという事だけだ。
「レティの魔法だろ?効果も知らずに使ったのか?」
「願ったのは治癒と浄化。人間に当たっても大丈夫だって皆が…」
「みんな?みんなって誰だ?」
あの時レティの傍には誰もいなかったぞ。
しばし言い淀み俺の首に腕を回して耳に唇を寄せると小さな声で囁いた。
「光の精霊」
「はあっ!?」
精霊と話が出来るなんて話、伝承とかでも聞いたことないぞ!?
「信じてくれないの?」
「勿論信じるけど……ちょっと視ていいか?」
「うん」
レティの了承を貰ってステータスを見せてもらう。
名前:レティンシア
年齢:14歳
性別:女
状態:健康
HP: 18,000/18,000
MP: 100/3,000
物理攻撃力: 180
物理防御力: 280
魔法攻撃力: 600
魔法防御力: 500
素早さ: 380
幸運: 333
魔法適性:火・水・地・風・雷・光・闇・無・治癒・時空
スキル:火魔法・水魔法・地魔法・風魔法・雷魔法・光魔法・闇魔法・無属性魔法・治癒魔法・時空魔法
料理・裁縫・調合・融合・錬成
耐性:火・水・地・風・雷・光・闇・無
称号:天族の巫女姫・精霊の愛し子・歌姫
説明:称号『禍の忌み子』によるステータス隠蔽、封印が解除されました。
備考:精霊の加護により全属性の適性を持っています。
守護騎士はまだいません。
「・・・・・・・・・」
言葉が出ないな。高スペックだとは思ってたけど想像以上過ぎてどこから突っ込めばいいのか分からない。
とりあえず精霊と話せるってのは称号に精霊の愛し子ってあるから本当だろう。
予想通り巫女姫の称号は出てるけど天族ってなんだ?人間じゃないってことだろうか?
考えてもわからないし、今度2人きりになった時にでも聞いてみるか。
「ルカ?どうしたの?」
レティが首を傾げて見上げてくる。
君のステータスが凄すぎて言葉が出なかったんだよ。
「いや、なんでもない」
「そう…。ところでルカ、もう大丈夫だからそろそろ降ろして」
ずっと抱えられたままで恥ずかしかったらしく少し顔が赤くなっている。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
本人が大丈夫だと言い張るのでそっと降ろしてやるとネイダさんへと歩み寄ろうとした。
新しい年が始まりました。
頑張って更新していきます。
今年もよろしくお願いいたします。