対話 ~レティンシア視点~
今年最後の更新です。
ルカの同郷の人の体だと思うと思い切り攻撃するのは躊躇われる。でも手加減すれば負ける。軽い電撃で麻痺させようともしてみたけど耐性があるのか効かなかった。やはり力技しかないかなと考えていたら、ルカが割り込んできた。
ルカの来た方角を見ると地面に倒れている女性が見えた。でも、まだ嫌な魔力が纏わりついているから一時的に動けなくなっているだけかな。でも、どうすれば2人を解放できるのか、全く見当もつかない。
ナナさん(の中の人)とルカが話しているのを聞きながら、何か使える魔法がないか脳内魔法書を捲っているとナナさん(の中の人)が突然笑い出した。
「漸く、漸く気付いたのか。だが遅かったなぁ。残念だったなぁ。封印は解けた。巫女姫が眠っている間になぁ」
「レティの伯父って人を操ってたのもお前らか」
「そうさ。巫女姫を殺す事もできたが、あの御方が欲しいと言われてな。あと1歩のところで邪魔をされ、隠されてしまった。まさか目覚めていたとは、あの御方もお喜びになられる」
伯父様は操られていただけだったの?私も殺すつもりが無かったという事?でも間違いなく生贄にはされた。それに邪魔されて隠されたって、私の事だよね?誰が邪魔して隠したのかな?
疑問ばかりが頭の中をぐるぐる回っている。誰が邪魔して隠したのか訊いたら教えてもらえるだろうか?そんな事を考えていると、ルカが嫌悪を滲ませた声で初めて聞く単語を口にした。
「『あの御方』ってのはロリコンなのか?」
「「???」」
ろりこん?ろりこんってなんだろう?
ルカの口調から察するにものすごく厭わしいモノのようだけど…。
「ろりこんってなに?」
分からないなら聞けばいい。ろりこんとは何なのか訊いたら衝撃的な言葉が返ってきた。
「小さな女の子が好きな人の事。しかも『あの御方』ってのはレティが赤ん坊の頃から狙ってたんだ。確実に幼女趣味の変態だからレティは近づくな」
「……『大いなる災いの者』は変質者さんだったの?」
変質者。変態。危険。近づかない。ルカ達にきつく言い聞かされた事が脳裏を過った。
『大いなる災いの者』が変質者で変態だったなんて、流石に伝承に残すのは憚られたのだろう。でも心の準備をする為にもきちんと伝えておいて欲しかった。
ナナさん(の中の人)がなにやら喚いていたけど、『大いなる災いの者』が変態さんだった事の衝撃が強すぎて全く耳に入らなかった。
『―――――――あ!」
すぐ近くで誰かに呼ばれた気がした。
ルカはナナさんと戦闘中なので違う。それにルカの声ではなかったと思う。
援護しようにも、動きが速くてルカに当たるかもしれないと思うと魔法も弓も使えない。
ナナさんの体を乗っ取っている者からどうやったら取り戻せるのかも全く分からない。
「私、役立たずだ……」
どんなに記憶を手繰っても、これだと思える魔法はなかった。
役に立てないのが悲しくて唇を噛み締める。
『だいじょうぶだよ』
耳元で聞こえた声に驚いて声のした方を見ても何もいない。今の声はなに?
『れてぃんしあ、ねがう。ねがい、かなえる』
「だれ?」
願えば叶えると言ってくれるこの声の正体が何なのか、知っているような気がするのに分からない。
『せいれい』
せいれいって、この世界に満ちて恵みを与えているといわれている精霊の事だろうか?
「精霊さん?」
『ひかり、せいれい』
「光の精霊さん。私が願えばナナさんやネイダさんを助けてくれるの?」
『れてぃんしあ、うた、うたう。みんな、あつまる』
「歌?私が歌うと他の精霊さん達も集まるの?」
『うたう。あつまる。ねがい、かなえる』
私が歌うと精霊達が集まってきて願いを叶えてくれるということ?
「どんな歌を歌えばいいの?」
『れてぃんしあ、うたう、すき。みんな、あつまる』
歌であればなんでもよさそうだ。何を歌うか少し迷ったけど今話している精霊が光の精霊とのことなので、光を讃える歌に決める。
願うのはナナさんとネイダさんの解放と癒し。目を閉じて一度大きく深呼吸をする。そして、願いを込めて歌い始めた。
歌い始めてすぐに変化は訪れた。囁かれる声が増えていく。くすくすと嬉しそうに、楽しそうに笑っている。沢山の声が囁かれる中でその中で最後の一音を歌いあげた。
『れてぃんしあ、て、だす』
両手を手のひらを上にして出すと光が集まり、収束した光は弓へと姿を変えた。
『ゆみ、ひく』
『にんげん、いる』
いる。射る?まさかこれでナナさんに矢を射かけるということなの!?
「そんな事したら死んでしまうわ。それにルカに当たったら…」
『だいじょうぶ』
『にんげん、いやす』
『けが、しない』
怪我はしなくても心臓に悪いと思う……。
『れてぃんしあ』
『しんじて』
大丈夫だと、信じてと訴えてくる声に覚悟を決めて弓を引くと光る矢が現れた。狙いを定めて矢から指を放した時、ルカと目が合った。信じられないという眼差しで私を見ていた。そして、私の放った矢は吸い込まれるようにナナさんと、そしてルカを貫いた。
アンドリューさんやギャレット先生の驚いたような声が聞こえた気もしたけど、私はルカから目を逸らす事が出来なかった。
拙い物語を読んでいただき誠にありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。