買い物に来たら呪われました①
俺は今踊るシルフ亭のおかみさんに教えてもらって武器屋の前に立っている。
何をしているのいるのかと聞かれると、特に何もしていない。ただここに立っているだけだ。
じゃあなぜ店の前に立っているのか?別に営業妨害をしているわけではない。不可抗力だ。
なぜこんなことになったのかというと、少し時間を遡る。
「ここが、踊るシルフ亭におかみさんが教えてくれた店だな。」
無事おかみさんに教えてもらった武器屋の前に着いた。が、なにやら揉めてみるようだ。一人は店の店主だろう。もう一人は背が低くてスカートを履いているスキンヘッド男?だった。
「だから、そんなもんは買い取れん。」
「じゃあ、タダでもいいの。引き取ってよ!」
「断る。タダでも引き取れるか。そんなもん!」
言葉づかいが女のようだしスカートも履いていて、さっきから体もくねくねさせているが、生物学上は間違いなく男だろう。どうして男って断定できるのかって?それはだな、上半身裸だからだ。あの立派な大胸筋、厚い胸板、間違いなく男だ。でも上半身裸で下はスカートってのはな。別に個人の趣味に口を出すつもりはないが、理解はできないな。
どうやら買い取りを依頼していたようだが、買い取れないような代物らしい。しかも、タダでも引き取れないようなもののようだ。タダより高い物は無いともいうしな。厄介事の匂いがぷんぷんするし、他の店でも覗いてみるか...。でも、気になる。何を買い取ってもらおうとしてたんだろう。
そんな好奇心から店に近付いて、商品を選ぶ振りをしながら見てみようと思ったのが間違いだった。
『好奇心は猫をも殺す。』『触らぬ神に祟りなし。』
俺が店の前に展示してある武器や防具を見ようとした時だった。
「丁度いいところに。君!これをあげる。遠慮なんてしなくてもいいのよ。とっても珍しい魔具だけど、ただであげちゃう!遠慮しないで、受け取って頂戴!」
勢いよく捲し立てながら、俺の腕に腕輪を嵌めると走り去ってしまった。走り方まで女より女らしい走り方だった。
「あっ!!おいこら待ちやがれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
武器屋の主人が呼び止めたが、振り返りもせず走っていった。実にいい逃げっぷりである。
腕には、細い金色の腕輪が嵌っていた。
腕から外してよく見てみる。表面に花のようものを中心に蔓や葉が描かれている。とてもきれいな腕輪だった。
どうして買い取って貰えないのだろう。それどころか、タダでも引き取ってもらえないなんて。
武器屋の店主はこれがなにか知っているようだし聞いてみるか。
「すみません。これって何…!」
話しかけながら、店主の方に体の向きを変えようとした。
だが、足が動かなくなっていた。まるで根でも生えたかのように、まったく動けなくなっていたのだ。
(なんだよこれ!全然足が動かない!?まさかこの腕輪のせいだったりするのか!?)
「もしかして動けないのか?」
店主が気の毒そうな顔で聞いてきた。
「足が動かない。もしかして、この腕輪のせいだったりするのか?」
「…最近この街にきたのか?」
「ああ。今日初めてきた。」
「そうだろうな。知ってたら、近づいて来るわけないよな。」
(どういうことだ?)
「あいつが呪われた腕輪を持ってるのはこの街じゃ有名だったからな。知らないのは、田舎からこの街に来たばかりの奴ぐらいさ。」
「そんなに有名だったのか?」
「ああ。なにせ呪われるのが分かっていて何度も腕輪を捨てたバカだしな。ついでに呪いの効果がな。あれは俺も同情はするがな。あんちゃんも、その腕輪は捨てるなよ。捨てても戻ってくる上に、呪いが増えるからな。」
「………引き取って…」
「断る!!」
ですよねー。俺だってお断りだ。誰が呪われると知ってて引き取るものか。
「呪いを解除する方法とかは?」
「神殿にいけば解除してもらえるぞ。ただ寄付がいる。」
「いくらあれば?」
「そうだな。まだ1つだから小金貨1枚で解除してくれるぞ。ただな、その腕輪を持っている限り解除してもすぐにまた呪われるぞ。それにしても、呪いが変わる腕輪なんて珍しいよな。普通は決まった呪いが掛かるってのに。」
ただの無駄づかいだな。でも呪いが変わるってどういうことだ?
「呪いが変わるってどういうことだ?」
「さあな。ただ解呪した場合は、呪いが変わるらしいぞ?そして捨てた場合は、元々の呪いに追加される。なんとも変わった腕輪だ。」
このままここに突っ立ってるわけにもいかないしな。
解呪して呪いが変わるならせめて動けるような呪いになるのを期待して一度解呪してみるか。
「神殿に行けない場合、来てくれたりするのか?」
「追加の寄付を払えばな。」
くそ、仕方ない。
「分かった。寄付をするから呼んでもらえないか?動けないんじゃどうしようもない。」
「ちょっと待ってな。おーい、ヘレンー。ちょっと来てくれ!」
奥の方から恰幅のいいおばさんが顔を出した。
「はいはい。どうしたんだい?」
「このあんちゃんが、例の呪いの腕輪を無理やり押し付けられちまってな。移動できなくなっちまったんだ。ちょっと神殿にいって解呪できる神官様か巫女を呼んできてくれ。」
「そいつは災難だったね。でも寄付を払えるのかい?」
心配そうにおばさんが聞いてくる。
「大丈夫です。」
小金貨は3枚はある。残金は心もとないが仕方ない。
「分かった。じゃあ呼んでくるから待ってな。」
「すみません。ありがとうございます。」
「うちに買い物に来てくれたんだろう?巻き込んじまってすまなかったね。」
おばさんが誰か連れてきてくれるまで、俺はこのままか………。
そして話は冒頭に戻る。
読んでいただきありがとうございました。