採取
運よく見つけた回復薬の材料となる薬草を採取しているとギルド長がやってきた。
「よう、ルーカス」
薬草採取の手と止めて仰ぎ見ると、笑みを浮かべたギルド長が俺を見下ろしていた。
目は全く笑っていない。
「お久しぶりです。マクレーンギルド長」
「レティンシアからはルーカスは死んだと聞いていたがな」
レティが名前を呼ばないからそんなことだろうと思ってた。そう答えるように教えたのも俺だけど。
薬草採取を再開しながら会話を続ける。
「俺がそうするように言ったんです。レティがいなければ死んでましたね」
「あの娘は大丈夫なのか?」
「信用できるのかということですか?」
「そうだ」
「レティが刺客だったらとっくの昔に殺されてます。だから大丈夫です」
「あのなぁ、今生きてるからこれからも大丈夫だとは限らんだろう。仮にレティンシアが無害だったとしたら、お前らと一緒にいるのは危険だとは考えなかったのか?」
それは言われると思ったんだよな。師匠達にも言われたし。でもこれを知ったらギルド長も置いていけとは言えないだろう。
「属性を考えると誘拐される危険性が高かったので一緒に旅する事にしたんです」
「…………まさか持ってるのか?」
ギルド長の口元が引き攣る。レティの他属性も知ってるから信じたくないのだろう。
「持ってます。その他の属性はギルド長も知ってるでしょう?」
「それでギャレットが師になったのか」
魔法もだけどメインは、棒術、体術、弓だと知ったらどんな反応するのだろうか?
少し興味もあるが怒られそうな気もするし黙っとこう。
「ギルド長はこれを知ってもレティをどこかの街に置いとけますか?」
「置いとけないな」
「納得してもらえて良かったです」
これで納得してもらえなかったら俺が困るな。俺ですら危険だといわれたのた。女の子であるレティは何倍も危険だろう。あの容姿も含めてな。
群生していた薬草の採取が終わり立ち上がる。
「それより、厄介なのを拾ったのはギルド長の方じゃないですか?」
「ナナとセイのことか」
「同じ世界の友人とその彼女です」
「…お前なぁ」
「城にいる勇者も知ってます。多分巫女も知ってる奴だと思います」
恨みがましい目で見られても俺の所為じゃない。
薬草を探して歩きだすと、ギルド長もついてくる。
「セイは友人なんだろう?ならなんで別パーティーに別れた」
「レティを苛めるからです」
「お前な、あの娘にも問題あると思うぞ」
「だからといって苛めていいわけない。それに、魔法属性を聞かれても答えるな、よく知らない奴に自分の情報を与えるなっていうのは俺達が言い聞かせた事です。ついでにそんな事を聞いてくる奴は無視しろともいいました。レティはそれを実践しただけですから責めないでください」
「お前ら変な事ばっか教えるなよ。城の勇者どもから逃げるときにはとんでもないとこ蹴ったらしいぞ」
「へぇ、そうなんですか。あとで褒めないといけないですね」
ふ~ん。とんでもないところを蹴らないといけないような事態になってたのか。でもあの恰好で、しかもあのヒールで蹴りを繰り出せるなんて凄いな、レティ。
おっ!薬草発見。ここの分まで採ったら帰るか。
「そんなことより、ギルド長こそあの二人はどこで拾ってきたんですか?」
「……はぁ、1ヶ月ぐらい前、街の外に出た時に魔物に襲われて死にかけてるのを拾った。戦う練習の為に護衛と一緒に馬で街の外に出て、休憩だと馬から降ろされたところで置き去りにされたらしい。去り際に偽勇者と偽巫女は必要ないとまで言われ、おまけに魔物を引き寄せる香だけ持たされてな」
「なんでアイツらが偽物なんですか?黒髪、黒目、伝承の勇者と同じ容姿ですよ?」
「二人とも光属性も治癒属性も持ってない」
俺は検査すらされなかったな。見た目が違うから絶対に勇者じゃないし、貴重な適性なんて持ってないと思われたのだろうか?
でもなんで俺はすぐに殺されず、アイツらはすぐに殺されかけた?
アイツらが伝承の勇者達と同じ黒髪、黒目だからか?
それとも放っておいたら死ぬと思ってた俺がなかなか死ななかったからか?
分からないな。
「王家はアイツらの事は魔物に食われたとでも思ってるってことですか」
「だろうな」
最後の薬草を摘み取って立ち上がる。あたりはすっかり暗くなっている。
明かりは俺の持ってるランタンだけだ。
「薬草も集まったし俺はそろそろ戻ります」
「俺も戻るか……しまった!獲物を捕ってない…」
「えっ?食料調達が目的だったんですか?」
食料調達が目的なのに俺と話しこんでたら駄目だろう。
「お前は食料調達しなくてもよかったのか?」
「レティのカバンに入ってます。アイテムボックスの中は時間が進まないので腐らないですし便利ですよ。肉でよければあげますけど、いりますか?」
「いいのか?」
「今日だけです。明日からは自分達で調達してください」
「………厳しいな」
「置いてきますよ」
肩を落としているギルド長を置いてさっさと野営地に向かって歩きはじめる。
あんまり遅くなるとレティが心配するからな。
野営地に戻るとレティが笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい」
後ろにいるギルド長に気付くと不思議そうに首を傾げている。
「ただいま。レティ、悪いんだけど肉をギルド長に分けてあげてくれる?」
「ギルド長に?どのぐらい?」
「そうだな、小さいのでいいよ」
鍋をかき混ぜる手を止めてカバンから肉の塊を取り出す。
「これでいいかな?」
レティが取りだした肉はレティの顔の2倍はある大きさだ。
「ギルド長、これぐらいでいいですか?」
「ああ、十分だ。ありがとう」
暗かったので明日返してもらう約束でランタンも貸して、ギルド長は肉を持って自分達の野営地に戻っていった。
読んでいただきありがとうございました。
次はもう少し早く投稿できると思います。
頑張りますのでこれからもよろしくお願いいたします。