衝突
全員の出発準備が整い部屋の外に出る。ギャレット先生とアンドリューさんはジゼルさん達に任せてある。
今では他の人にもはっきりと聞こえる程に、足音は近づいていた。
外に出る通路は別にあるというので、私が先頭、非戦闘員の人達を中央、後方にマクレーンで外に出る通路を進んだけど、すぐに追い付かれた。
敵と思われた者たちは私達を見つけると問答無用で斬りかかってきた。
「全員頭を低くして」
真ん中にいる非戦闘員メンバーに声を掛けるとすぐさま全員が屈み視界が開けた。
視界が開けた先では既に先頭の男とマクレーンが切り結び、他の人間は後方で魔法の詠唱をしていたので、すぐさま弓を引き絞り狙いを定めると矢を放つ。
飛来する矢を詠唱を止めた1人が剣で叩き落とした直後、硬直してそのまま倒れた。
「なんだ!?」
混乱している敵に向かって次々と雷を纏わせた矢を放っていく。
刺さる必要は無い。掠るだけでも動きを止める事は可能だ。動きさえ止めてしまえば、あとはマクレーンが片付けていく。ものの5分足らずで襲ってきた敵は全員動かなくなった。
「終わりだね。早くここを離れよう」
何か聞かれる前に、さっさと歩きだす。こんなところでいちいち質問に答えていたらきりがない。なにか言いたそうな視線を感じてはいたけど無視して歩いていく。
途中でマクレーンと位置を入れ替えて歩いていると、前を歩いていた勇者?(女)と目が合った。
隣の勇者?(男)と少し話した後こちらにきた。
「えっと、レティンシアちゃんだったよね?あたしナナ、よろしくね」
「・・・」
「さっきの凄かったね。あれどうやるの?」
「・・・」
「魔法属性を何を持ってるの?」
「・・・」
「弓以外にも何か使えるの?」
「・・・」
「そのカバン、アイテムボックスなんだよね!凄く貴重な物だって聞いたけどどこで手に入れたの?」
「・・・」
次々と質問されるけど教える必要があるとも思えないので黙っている。
「ねえ、教えてよ」
「・・・」
「ねえってば!」
「・・・」
「ちょっと、無視しないでよ!」
「・・・」
「さっきからなんなの!!なんで無視するのよ!!」
くだらない質問を全て無視して歩いていたけど、とうとう怒ったらしい。
腰に手を当てて仁王立ちして立ち塞がる。
「さっきから、人が親切で話しかけてあげてるのに無視するって何様のつもりなわけ!戦える事が、人を殺せる事がそんなに偉いの?ただの人殺しじゃない!それにどうみても私より年下でしょ?年上には敬意を払うってことも知らない世間知らずな訳!?」
顔を真っ赤にして大声で怒鳴ってくる。
分かっているのだろうか?私が人殺しならマクレーンやギャレット先生、アンドリューさんも人殺しだ。生きる為、殺されない為、大切な人を守るためにその手を血で汚している。
私を人殺しと罵る事はマクレーン達を罵るのと同じ事なのに。
「私はあなた達を信用していない。信用していない相手に自分の情報を与えるつもりはない」
「襲いかかった相手に助けられておいて、信用してないから教えないってホント何様なの!」
「?あなたに助けられた事は無い。私を助けてくれたのはギルド長とジゼルさんだもの」
「上げ足取らないでよ!あたしはギルド長達の仲間なんだから同じ事でしょ!!」
「私が今ここで信頼しているのはギャレット先生とアンドリューさんだけ。2人がギルド長やジゼルさん達を信用しているから協力はするけど信用はできない。でもそれはギルド長達も同じでしょう?私がギャレット先生の弟子だから自由にさせているけど信用はしていない」
目の前のナナから視線を外してギルド長に向ける。
「そうだな、魔法属性や得意武器、自分で編み出した技の技術は余程信頼している相手か、やむを得ない場合を除いて秘匿するのも普通だな。そのことを君に教えたのはギャレット達で、2人は君の魔法属性や使える魔法、得意武器、使える武器は知っている。逆も然りだ。そうだろう?」
「師であるギャレット先生に教えるのは当たり前で、信頼しているアンドリューさんに教えるのも普通の事ですよね。」
「あぁ、でも命の恩人である俺にはもう少し教えてくれてもいいと思うが?」
「…助けていただいた事には感謝してますが、それとこれとは別です。それに魔法属性も得意武器も知ってますよね」
「そうだな。だが他にも知りたい事がある」
「ここでは絶対に答えません」
「だろうな」
溜息をついたギルド長の視線が私の背後に向けられた。背後から複数の足音が聞こえてくる。そしてそれとは別に前方からも足音が聞こえてきた。
「気付いてるとは思いますが、足音が近づいてますよ」
「そうだな」
「挟まれたみたいですけど?」
「そうだな。そっちを頼めるか?」
「分かりました」
睨んでくるナナは無視して弓に矢を番えて敵が射程に入るのを待つ。
待っている間に勇者?(男)がナナを回収しにきた。
「ナナ、危ないからこっちに戻ってこい」
「セイは腹立たないの!?こんな態度取る奴に対してさ!」
「初めて会った奴を信用できないのは当たり前だろ。お前は初めて会った奴に『あたしはBLオタクだ!』と宣言できるのか?」
「出来るわけないでしょ!」
「だろ?」
なにかよく分からない事を話しながら、勇者?達は後方に下がっていった。
でも『びーえるおたく』ってどういう意味なのかな?ルカに会ったら聞いてみよう。
敵の姿が見えると弓を引き絞り狙いを定め、射程に入ったところで矢に雷を纏わせて放つ。狙ったのは一番先頭にいた敵の頭部。
放たれた矢は敵の頭上を通り過ぎて後ろの壁に突き刺さった。
「ちょっとなにやってんのよ!」
後方でナナが喚いているが自分でも信じられなかった。あんなに大きく外すことなんて無かったのに。
「レティ!」
名前を呼ばれて後ろを見るとギャレット先生とアンドリューさんがこちらに来ようとしていた。
「来ちゃ駄目です」
駄目、2人とも戦えるような体ではない。私が戦わないと、敵を、人を殺さなくてはいけない。
急いで次の矢を準備して、狙いを定めて放つと矢の軌跡を追うことはせず、次の矢を放っていく。
でも、どれだけ矢を射っても1本も当たらない。見当はずれの場所に飛んでいくばかりだ。
早く早くと焦れば焦るほどに狙いは定まらない。
とうとう間近に迫った敵が嘲笑を浮かべながら剣を振り上げる。魔法も何も思い出せなくて、私はそれを見ている事しかできなくて、自分に向かって剣が振り下ろされるのを呆然と見つめていた。
背後で上がる悲鳴と名を呼ぶ声は聞こえていたけど、どうすることもできなかった。
キィーン
金属がぶつかる音がすぐ傍で聞こえた。そして、背中に感じる温もりに驚いて目を開けると目の前で剣が交差していた。
「間に合ったから良かったものの、無茶するなって言ったろ」
聞こえた声に体から力が抜けそうになった。背後を振り返ると、被っているフードの隙間から呆れと安堵、そして怒りの入り混じった目が見下ろしていた。
ありがとうございました。