再会
「どこにいるんですか?」
叫び出してしまいそうだった。
マクレーンにギャレット先生とアンドリューさんがどこにいるのか問い詰める。
「こっちだ」
観念したマクレーンの案内で布で仕切られただけの隣の部屋に入る。
入ってすぐに部屋の中に視線を走らせると床に寝かされている2人の姿が目に入った。
「先生!!」
ギャレット先生の傍に駆け寄って、息を呑んだ。
こんな、酷い…。
顔は右側に包帯が巻かれていて、喉にも包帯が巻かれている。身体も確認すると、全身包帯だらけで血が滲んでいた。
「どうして……どうしてこんな酷い怪我のまま放置しているんですか!!」
私の事をこの部屋にいた人たちに説明していたマクレーンが忌々しげに顔を歪めた。
「放置しているんじゃない。いくら回復薬を使っても通常の10分の1ぐらいの効果しかないんだ。恐らく回復を阻害する呪いかなにかでも掛けられているんだろう」
隣のベッドを見るとアンドリューさんも包帯だらけだ。呪いならば自分に解けるだろうか?でもあれも光魔法だ。敵か味方か分からない状態では使えないし人に対して使った事はない。万が一失敗したらと思うと怖い。まずは手持ちの回復薬を使おう。
そこでカバンが無い事に気付いた。気を失うまで確かに下げていた。
「私のカバンはどこですか?」
マクレーンにカバンの在処を聞くと首を傾げた。かわりにジゼルが思い出したように部屋を出て行ってすぐにカバンを持って戻ってきた。
駆け寄って礼を言ってカバンを受け取るとギャレット先生の側に戻る。
(ごめんなさい)
アイテムボックスの事も知られたらいけないと言われていたけど、その約束を破る。
心の中で謝ってから、カバンから回復薬を取り出してかけていく。カバンには全部で60本の回復薬が入っているから30本ずつ使える。本数を確認しながらギャレット先生にかけていく。10本ぐらいかけたところで、マクレーンがアンドリューさんの分をくれと言ってきた。
もしかして全部ギャレット先生に使うとか思われたんだろうか?心外だ。
でも手分けしてやった方が効率はいいので、カバンからアンドリューさん分の回復薬を取り出して床に並べる。
「これで半分づつだから、出した分はアンドリューさんに使って」
床に並べ終わって声を掛けると、回復薬とカバンを見比べている。
(バレちゃったよね、やっぱり)
今はギャレット先生の治療が先ね。問うような視線を感じたが無視して回復薬をギャレット先生にかける。
「うぅっ」
27本目の回復薬をかけた時、声が聞こえた。
ハッとして顔を覗き込むと、最初はぼんやりとしていたようだが目の間にいるのが誰なのか分かったらしい。瞳に驚きの色が浮かぶ。
「ギャレット先生、私が分かりますか?」
「っレ、ティ、どう、して」
「連絡が途絶えたから、なにかあったんだと思って……。心配したんですよ」
零れそうになる涙を堪える。
「詳しい話は後です。まずは回復薬飲んでください
さりげなく涙を拭いてカバンから回復薬を取り出して、口元に持っていくと困惑した目で見上げられた。
「先生、口を開けてください」
なにか訴えるような目を無視して、催促すると諦めたように口を開けた。
咽ないようにゆっくりと少しずつ飲ませていく。空になると次のを取り出して次々と飲ませて、最後の回復薬を飲ませ終わったところで、後ろからアンドリューさんの声が聞こえた。
「アンドリューさん?」
後ろにいるアンドリューさんを振り返って顔を覗き込むと私に気付いて目を見開いた。
「レティ、っどうして…」
その言葉に堪えていた涙が零れる。
「連絡が途絶えたから、心配で追いかけて来ました」
「王都には来るなって…」
「連絡が取れない状態になったアンドリューさんとギャレット先生の所為です。連絡が途絶えてからもしばらくは待っていたんですよ。きっと大丈夫だって、無事でいてくれてると思っていたのに、こんな怪我して、呪われるなんて、死にかけるなんて、私達が来なかったら本当に死んでます。今だって私の持ってた回復薬を全部使ったんですから、2人に私達の行動を叱る権利なんてありません」
涙を拭いながら睨むとアンドリューさんが困ったように笑う。
「悪かった。謝るからそんなに怒るな」
宥めるようにアンドリューさんがいう。ギャレット先生を見ると先生も同じような表情を浮かべている。
「…元気になったらお買い物付き合ってください」
ピシリと音を立てて固まった2人を交互に見て首を傾げる。どうしたんだろう?
「決定ですからね。1日お買い物に付き合ってもらいます」
きっぱりと言い切ると、諦観の顔で2人が頷いた。その顔がおかしくて思わず笑ってしまった。
その時、微かに聞こえてくる音に気付いた。
「足音が聞こえる」
呟いた言葉に真っ先に反応したアンドリューさんがマクレーンに問いかける。
「ここにいる以外にも仲間がいるのか?」
「いや、ここにいるメンバーだけだ」
ではこの近づいてくる足音は?
アンドリューさんが険しい表情で聞いてくる。
「レティ、1人か?」
耳を澄ませて足音の数を数える。1、、、5、、7、、、10?
「―――ううん。最低でも10人はいると思う」
数えることができた足音の数を答えるとアンドリューさんが真剣な表情でマクレーンさんを見た。
「ギルド長、レティの言う事は恐らく当たってる」
マクレーンは苦虫を噛み渋ったような表情を浮かべてギャレット先生を見る。ギャレット先生も頷いて私の言葉を肯定すると決断を下した。
「逃げるしかないか。すぐに荷物をまとめろ。逃げるぞ!」
バタバタと部屋にいた人達が出て行く。
荷物を纏めるのは時間がかかりすぎる。少し考えてカバンを持って立ち上がると部屋を出る。マクレーンが一瞬こちらを見たが何も言われなかった。
「ジゼルさん、お手伝いします。どれを持って行くんですか?」
慌ただしく荷物をかき集めていたジゼルに声を掛ける。
「ありがとうよ。それじゃあここにある服を纏めて…もう少し減らしたほうがいいね。ちょっと待って…」
「ここの服を全てですね?」
カバンを開いて服に近づけると一瞬で消える。
「あとはどれですか?」
ジゼルを振り返ると唖然としていた。周りをみると全員固まっていた。
(もしかして、アイテムボックスだって気付かれてなかったのかな?)
「ジゼルさん、あと持って行くモノはどれですか?」
「嘘だろ!?」
「どうなってるの!?」
ジゼルに再度声を掛けると、違う場所から大きな声が上がった。
そちらを見ると赤茶の髪の男と金茶の髪の女が立っていた。
目は黒だった。
勇者?この人たちがステラギルド長の話にでた2人?嘘ではなかったの?
「レティンシアちゃん」
呼ばれて振り返るとジゼルさんに手を引っ張られた。
「やっぱりアイテムボックスだったんだね。初めてみたけど便利なもんだ。まだ容量は空いてるのかい?こっちの食料も入れて欲しいんだけど」
「はい、まだ大丈夫です。食料だけでいいですか?皆さんが持って行かれたい物全部入りきると思いますよ?」
「そうかい?じゃあ悪いんだけど全部入れてもらっていいかい。」
「はい」
その場にあった物を全てカバンに入れていく。部屋を回って持って行くモノを全てを回収し終わるとギャレット先生達の待っている部屋に戻る。
「ギャレット先生、アンドリューさん準備終わりました」
部屋に入るとギャレット先生もアンドリューさんの出発準備も終わったようだった。
「ところでレティ、なんでそんな恰好なんだ?」
アンドリューさんに指摘されて、自分を見下ろすと青いドレスが目に入った。
そういえば着替えるのを忘れていた。
「……いろいろあって着せられました」
「いろいろってなんだよ?」
「あとでちゃんとお話しします。それよりも早くここを離れましょう」
詳しく説明している暇はない。そして着替える時間はもっとない。
ドレスの上にマントを羽織る。武器は弓でいいかな。
カバンから弓と矢筒(矢専用アイテムボックス)を取り出して装備して最後にカバンを斜めにかけて準備完了だ。すると私の装備をみてマクレーンが話しかけてきた。
「短剣は使わないのか?」
「あなたは剣を使うでしょう?道幅も狭いし前衛はお任せして、私は弓と魔法で援護します」
「わかった。ギャレットの弟子なら期待できそうだ。戦闘できるのは俺達2人だけだからな。頼りにさせてもらう」
「(あの勇者と巫女は戦闘はできないんだ)矢に刺さらないように気を付けてください」
「・・・・・・・・・」
今まで誤射した事はないから大丈夫だとは思うけど、この人の戦闘スタイルがよく分からないし気をつけなきゃ。
ありがとうございました!