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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者と巫女の出現
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逃走


翌朝、目が覚めると侍女たちが来て身支度を整えられる。朝食も用意されていたが何が入ってるか分からない物を食べるつもりはないので断ったが、何でも準備するから食べて欲しいとお願いされたので、果物のアプを用意してもらった。念入りに洗ってから皮を剥いて食べていると、元凶がやってきた。


「「おはよう」」


視線すら向けることなく、目の前にあるアプを口に運ぶ。流石城へ卸されるだけのことはあってとてもおいしい。女性のいる部屋にノックもしないで入ってくるような人間を視界にすら入れたくなくない。

しばらくすると夕方また来ると言って出て行ってくれた。


「お嬢様、勇者様方にあのような態度はいけません」


ここにいる侍女の中では一番偉い(らしい)侍女が眉を顰めて注意をしてきたが無視して黙って立ち上がると窓際に置かれている椅子に座って外を眺める。


「この世界をお救いくださる方達にあのような態度をとって恥ずかしくはないのですか!」

「嫌がる者を無理やり連れてきて部屋に閉じ込めるのは恥ずべき事ではないの?勇者なら何をしても許されるの?勇者とは高潔な精神を持っていると思っていたけど、力で人を従わせて幸せを奪うその行為は本当に勇者として相応しいの?」

「っそれは…」


分かってはいるのね。彼らの行動がいかに勇者として相応しくないのか。

溜息を呑み込んで、外を眺める。ここまでの道順は覚えてはいるけど、逃げるのは骨が折れそうだ。

窓のから見える範囲では何も見つける事が出来なかった。部屋の外に出ようとしたら扉の近くに控えていた兵士に止められて出してもらえなかった。

諦めてまた窓辺の椅子に座って外を眺める。


(誰もいなかったらルカの服を仕立てるのにな)


「お嬢様、本でもお持ちいたしましょうか?」


侍女の1人がそう提案してきた。本でもいいが趣味に合わない本を持ってこられても困る。

少し考えてから、別のモノをお願いしてみることにした。


「刺繍とかは駄目?」

「いえ、準備してまいりますので少々お待ちくださいませ」


待っているとすぐに必要な道具が揃えられてテーブルに置かれた。

真っ白なハンカチを刺繍枠に嵌めて、針に糸を通して刺し始める。下絵も書かずに始めたのに侍女たちは驚いていたが静かに見守っていた。

日が傾いて空がオレンジ色に染まるころ、遠くから聞こえてくる足音に心の内で溜息をつく。手元を見ながら黙々と針を動かしていると、またしてもノックすることなく扉が開いた。


「1人にして悪かったな」

「・・・・・・・・・・」

「それ、もしかして俺の為に作ってるのか?」

「・・・・・・・・・・」


何を話しかけられても無視して針を動かしていく。もう1つ近づいてくる足音に気付いて、ここに来る暇があるのなら鍛錬でもすればいいのにと思ったが、自分を勇者だと思い込んでいるだけの人間だから仕方ないと思いなおす。それにしても、この2人がいた世界にはノックの習慣は無かったのだろうか?


「遅くなってごめんね」

「・・・・・・・・・」

「わあ、すごい上手だね。僕の為に作ってくれてるの?」

「・・・・・・・・・」


この2人考え方も似てる。誰が無理やり連れてくるような人間に贈り物などするものか。


「おい、俺の為に決まってるだろ!」

「僕の為だ!」


喧嘩するなら余所でやってほしい。これはルーカスの為に作っているのだから。


「ねえ、僕の為だよね?」

「俺の為だよな?」

「・・・・・・・・・」


勇者達が苛立たしげな表情を浮かべると、控えていた侍女が口を開いた。


「勇者様、刺繍をする時に誰とも話さず完成させると願いが叶うという呪い(まじない)があるのです。きっと願いを込めて針を刺していらっしゃるのですわ」



肯定も否定もしないで黙々と針を進めていると、侍女の言葉を信じたらしく刺繍の邪魔になるからと早々に部屋から出て行った。ちらりと侍女を見ると「呪い(まじない)があるのは本当です」といわれた。

本当にあるのなら誰とも喋らずに作っていたのだし呪い(まじない)もやろうと、刺繍のスピードを上げて寝る前には完成させた。

仕上がった刺繍を見て侍女たちが感嘆の溜息を零した。


「お嬢様は刺繍がお上手ですね」

「どうして、あの勇者達にあんな事を言ったの?」

呪い(まじない)があるのは本当の事です。そしてお嬢様が誰かを思って針を刺していることは分かります」

「そう」


短く答えて完成した刺繍を見る。ルーカスの物を作るときに必ず入れている鳥の刺繍、ルーカスになんでいつも鳥なのかと聞かれたことがあるけど教えたことはないし、刺繍の意味を教えるつもりもないのだから。


そっと畳んでクローゼットに仕舞っているカバンの中に入れている間に刺繍道具が片付けられ、入浴を促された。

就寝の準備ができて、ベッドに入り誰もいなくなるとルーカスに連絡を取って今日あった事と部屋から出してもらえない事を伝える。ルーカスはギャレット先生たちの手掛かりは見つけられなかったけど、地下に続くらしい入口をスラムで見つけたから明日そこに入ってみるそうだ。勇者たちには気をつけろ、なにかあったら迷わず急所を蹴ろと繰り返し言われたが、最後に就寝の挨拶をして通信を切る。


「私、何もできない。せっかくお城に入れたのに先生達を探しにも行けない。やっぱりどうにかしてここから出なくちゃ」


どうやって外に抜け出すかを考えているうちに眠ってしまい、目が覚めたら夜が明けてしまっていた。

ベッドから降りてカーテンを開けると、雨が降っていた。

起きたのに気付いたのか侍女が入ってきた。ただいつもとは別の初めて見る侍女だ。


「おはようございます。お嬢様」

「おはよう」

「今日はわたくし達がお支度をお手伝いさせていただきます」


すぐに侍女たちに囲まれてドレスを着るための準備をされる。そして一番嫌いなコルセットを着つけられていたのだが、いつもよりもぐいぐい締め付けられる。


「っいつもこんなに締めないわ」

「・・・」


無言で数人がかりで締め上げて、簡単に解けないように固く紐を縛る。続けてドレスを着せられてこれもしっかりと着付けられてしまう。髪を結われて、髪飾りやネックレス、イヤリング、腕輪など装飾品でたっぷりと着飾らされて、化粧を施される。最後にヒールの高い靴を履かされて、細いベルトで脱げないように足首で固定される。立ち上がっても裾が床に広がる程に長く歩きにくい。侍女たちは道具を部屋から出て行ってしまった。


「重たい……」


高いピンヒールの靴は歩きにくいし、コルセットで締め付けられて呼吸も苦しい。着けられた装飾品は重い。

ゆっくりとソファーに向かっていると扉が開かれた。

足音は聞こえていたから来るのは分かってはいたけれど会いたくなかった。


「「おはよう」」


相手をするのも億劫だし、相手をする気もないので無視して足元に注意しながら窓辺のソファーに向かう。


「この世界の女ってすっげえ身持ちが固いんだってな。結婚するまで純潔を守るぐらいにさ」

「逆に結婚の時に純潔じゃないと結婚もできないんだよね?」


厭らしい目で体を舐めまわすように見られて、全身に鳥肌が立つ。


勇者①(こういち)が大股で近寄ってきて乱暴に腕を掴んで引き寄せられる。顎を持ち上げられて上向かされると、顔が近づいてきた。


(いいかレティ、変質者ににあった時は迷わずココを蹴るんだ。いいな、思いっきり、渾身の力でだぞ。それは被害に合う人を減らすことにも繋がる。変質者に情けは不要だ!)


頭の中にルーカスの言葉が蘇り、体はその行動を起こすために動く。

勇者①(こういち)突き飛ばすと、思いっきり、渾身の力で急所(股間)を蹴り上げた。


「!#$%~&*@!」


続けて2撃目を勇者②(まさき)に打ち込む。


「!!|&%$#@*¥!」


急所(股間)を押さえて床に倒れ込んだ2人に構わずクローゼットに駆け寄り扉を開けると、中からカバンを取り出して斜めに掛けた。

そして外に続く扉を開け、ドレスの裾を持ちあげると全力で走りだした。

ちらりと後ろを見るといつも立っている兵士の姿がなかった。


(居ないのは好都合だけど、どうしていないのかな?)


ちらりとそんな事を考えたが、今は逃げるのが優先事項だと頭の中から追い出す。

ふと前から人が歩いてくる気配を感じ、別の通路に行こうとしたがその通路からも人が歩いてくる音がして、急いで手近にあった部屋の中に飛び込む。


幸い使っていない部屋のようだ。部屋の中を見回すと奥に続くらしい扉があった。その扉に耳を当て人がいない事を確認すると中に滑り込んで扉を閉めた時、たった今自分が居た部屋の扉が開く音がした。

この部屋にも来るかもしれない。隠れられそうな場所を探すが、入れそうなのはクローゼットぐらいしかない。他に隠れられそうな場所も無いのでそっとクローゼットを開けると中に入って扉を閉めた。

必死に見つからない事を祈りながら目を閉じてジッとしていると、不意に髪が揺れた。目を開けて周りを見ても何もない。扉も開いていない。ペタペタと壁に触れたり押したりしていると、壁の一部が沈み床が消えた。


「えっ?」


一瞬の浮遊感のあと落下する。

レティンシアが落ちた後、床も壁も元に戻った。そしてその直後、扉が開かれたがそこには何もなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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