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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者と巫女の出現
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勇者と巫女の出現

俺とレティンシアはベルンで師匠達が戻るのを待っていた。

1日に1度、俺かレティンシアから連絡を入れて状況は確認していた。襲撃なども無く平穏そのものらしい。予定では今日クリュスタに着く予定で、ステラギルド長からの呼び出しの理由を聞き終わったら連絡すを貰える段取りになっている。

宿の部屋で今日はレティンシアもクローゼットに籠らずに連絡を待っているのだが、その連絡がこない。

何かあったのだろうか心配していたのだが、連絡がきたのは日付が変わってからだった。


「『悪い、遅くなった』」


「本当ですよ。心配したんですからね!」


「『スマン』」


「それで、ステラギルド長の呼び出しってなんだったんですか?」


「『それなんだが、3ヵ月ぐらい前から太陽の勇者が2人と、月の巫女が現れたって噂がある。前に俺が勇者と巫女についてなにか分かったら教えてくれって頼んでたから連絡してきたらしい』」


「それなら別に手紙でもよくないですか?」


「『ああ、俺もそう思った。だがステラは気になる事があるらしい。2か月前、王都に行ったときに知り合った男女がいて、男がセイ、髪は赤茶、女がナナ、髪は金茶、年は17。その2人組、黒目だったらしい。髪は染められるが眼の色は変えられない』」


「本当は勇者が3人、巫女が2人いたけど、何らかの理由で勇者と巫女が1人ずつ抜けた?」


「ああ、俺達もそう思う。ステラもそう考えたらしい。だからこの2人が剣と魔法を教えてくれる人を探している聞いて、紹介することを約束したそうだ。それが俺達を呼び戻そうとした理由だ』」


「………行くつもりですか?」


「『直接会って確認した方がいい。もしかしたらルカの同郷の奴かもしれないだろ?』」


「危険です」


「『お前が行くよりは安全だ』」


「でも!」


「『大丈夫だ。俺達はお前の師匠だぞ。心配するな。明日、王都に向かう。お前達も念の為ベルンから離れろ。なにか分かれば連絡する』」


「……分かりました。無理はしないでください」


「『分かっている。お前達も無茶するなよ、また連絡する』


通話が切れた後、黙って俯いているとそっと腕に触れてきた白い手を見る。その手を軽く握ると握り返してくる。レティンシアにも先生から連絡がきていたから不安なのだろう。


「レティ、俺達も7日後ぐらいにここを離れてクトロに行こう」

「クトロ?どうしてクトロなの?」

「ここが一番アーロゲントの王都に近い。7日遅れぐらいで俺達がここを発てば、同じぐらいの時期に師匠達は王都、俺達はクトロに着く。出来るだけ連絡を取る為にも距離は縮めておきたい」

「分かった。………ルカ、ギャレット先生とアンドリューさんは大丈夫だよね?」


不安げに瞳を揺らすレティンシアの肩を抱くと素直に身体を預けた。


「どうしてだろう?すごく不安なの」

「大丈夫、師匠も先生も強い。だから大丈夫だ」


呪文のように大丈夫だと繰り返すのは自分に言い聞かせる為。

強制転移させられて師匠達と離された時もこんな不安は感じなかったのに。


定期的に連絡を取って師匠達が進むのに合わせて俺達もクトロに進む。

出てくる魔物は既に俺やレティンシアの敵ではなく、襲撃を受ける事もなく進む。


「『今日フルスタリに着いた。予定通りなら明後日には王都に着く。襲撃とかも無いから安心しろ』」

「本当に気をつけてください。レティも心配してます」

「『分かってる。王都に着いたら連絡する。じゃあな』」

「気をつけて」


俺達もこのまま進めば明後日にはクトロに着く。クトロに着いたら補給をしてから、山を越えてアーロゲント国に入れないか調べてみよう。


2日後、クトロに着いた俺達はいろいろ補給をしてから宿に入った。

そろそろ師匠達から連絡があってもおかしくない。レティンシアと2人でそわそわしながら連絡がくるのをまった。


夜が更けて日付が替わって朝が来た。

師匠と先生からの連絡はない。こちらから連絡してもいいのだが、連絡を取れない理由があるのかもしれないと思うと連絡ができなかった。軽率な行動で師匠達が危険に晒される可能性がある。それは嫌だ。

結局2人揃って徹夜をしてしまったが、眠る気にもなれず予定通り出発して、国境の山の麓を目指す。

連絡がきたら起こす事を約束して、交代で休みながら山の麓を目指し5日後、俺達は国境の山の麓に辿り着いた。この間、師匠と先生から連絡は無かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


迂闊だった。

『気をつけて』心配そうな声音でそう気遣ってくれた弟子を思い出す。

心配しているであろう弟子と少女のことを思うと連絡をしたいのは山々だが魔力が足りなくてはどうする事もできない。レティンシアが持たせてくれた魔包石も使い切ってしまった。

なんとか敵を撒く事は出来たが、魔力が回復するまで身を潜めているしかない状態だ。

ギャレットも魔力が枯渇し、負傷もしている。怪我もこのままだと死ぬ可能性が高い。

なんとかしなければいけないのだが、下手に動けば見つかる。

魔力を回復させ、ギャレットを治療し、ルカかレティンシアと連絡を取り、絶対にこちらに来るなと伝えなくてはいけない。


踊るシルフ亭は火事で燃え、おかみと主人は見つかっていない。マクレーンとネイダ、武器屋の親仁と魔法薬屋のばあさんは行方不明、全員ルーカスと親交があってよく知っている奴らばかりがいなくなっていた。


勇者と巫女の情報、勇者への手掛かり、その全てが罠だった。ルーカスを連れてこなくて本当に良かった。あいつらはルーカスは死んだと思っている。生きてると知られれば再び命を狙うだろ。


これからどうするかを考えていると人の気配を感じだ。

息を殺しこちらに来るなと念じる。しかし、その気配はこちらに近づいてきた。

そして潜んでいる場所に差し掛かった時、先手必勝で打ちかかるが受け止められてしまった。

舌打ちを堪え、2撃、3撃と打ち込んでいたが、とうとう剣を弾き飛ばされ、腹部に衝撃が走った。

敵を蹴飛ばして距離を取り、腹部を貫いたままの剣を抜く。

死ぬわけにはいかないのだ。生きて、待っているあいつ等の所に戻らなくてはいけないのだから。

視界が段々と暗くなっていく。死ぬわけにはいかないのに。身体が動かなかった。

ゆっくりと狭まっていく視界の中で敵が駆け寄ってくるのが見える。ここまでか…。


「(すまん。ルカ。レティ)」


その思考を最後にアンドリューの意識は闇に閉ざされたのだった。

ありがとうございました。

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