レティンシアの不思議
翌朝も生憎の土砂降りだったので、出発は明日に見送り今日も自由行動にすることを決めた。
朝食後レティンシアに新しい上着を貰った。色は黒、丈は膝ぐらいまである。袖口や裾には藍色の糸で刺繍が施されている。手の込んだ作りだった。
「ありがとう、レティ。」
「動きにくくない?」
「いや、すごく動きやすいよ。」
着て動いてみたが、今までの上着よりもずっと動きやすかった。そして何気なく上着を視て俺は絶句した。
名前:漆黒のコート
効果:物理耐性・魔法耐性・麻痺耐性・毒耐性・治癒力Up
説明:物理攻撃、魔法攻撃を40%軽減。
麻痺、毒を無効化。
自然治癒力が上昇。
ルーカスのみ着用可能。
備考:レティンシアの気持ちが込められた特別なコート。
大事にしてね!
念の為シャツも視てみる。
名前:漆黒のシャツ
効果:物理耐性・魔法耐性・敏捷Up・腕力Up
説明:物理攻撃、魔法攻撃を10%軽減。
敏捷が20%Up
腕力が15%Up
ルーカスのみ着用可能。
備考:レティンシアの気持ちが込められた特別なシャツ。
大事にしてね!
レティンシア、なんてもの作ってるんだ!?
それに敏捷とか攻撃力ってなんだよ!
そんな設定あったのか!
もしかしてHPとかもあったりするのか!?
「どうしたの、ルーカス?」
「…レティ、この服特別なことしてるのか?」
「特別なことはしてないよ。どうして?」
そういえばレティンシアには呪われてることは言ってなかったな。
「レティには話してなかったけど俺、見えないモノが見える呪いに掛かってるんだ。」
「見えないモノが見える呪いってどんな呪いなの?」
なんで呪われてるのかとかは気にならないのか。
「俺が視たいと思ったモノの詳細が分かるっていえばいいのかな。たとえばレティの作ってくれた上着を視ると物理耐性、魔法耐性、麻痺耐性、毒耐性、治癒力Upってのが視える。」
「……どうして呪われたの?」
「呪いの腕輪を押し付けられたんだよ。ランダムで呪いは決まるらしいけど俺は『見えないモノが見える呪い』だった。」
「見せてもらってもいい?」
腕から外してレティンシアに見せる。じっと腕輪を見ていたレティンシアが無造作に腕輪に手を伸ばした。余りにも自然に伸ばされた手を避ける事が出来ず、腕輪はレティンシアの手に移動していた。
「レティ!」
呼んでも応えず、じぃっと真剣な表情で腕輪を調べていたレティンシアが突然腕輪にキスをした。
「ルカ、腕を出して。」
「いや、それよりなんで腕輪にキスしたの?」
「いいから腕を出して。」
キスした事に意味があるのか聞いても答えず、腕を出せと要求してくるので諦めて腕を出すとレティンシアが俺の腕に腕輪を嵌めた。
「ルカ、腕輪を視てもらえる?」
なんでと聞いても教えてはもらえないだろう。言われるがまま腕輪を視て俺はますますレティンシアが分からなくなった。
名前:真眼の腕輪
効果:鑑定
説明:指定したモノの詳細な情報を視る事が出来ます。
備考:ルーカス以外の者が装備すると呪われます。
「レティ、呪いの腕輪が真眼の腕輪になってるんだけどなんでだ?」
「その腕輪は元々真眼の腕輪だよ。腕輪が認めた人以外が身につけると変な呪いが掛かるの。呪ってる期間が長かったから呪いの腕輪になっちゃったんだね。」
いや、なんでそんなこと知ってるんだよ。あのキスはなにか意味があったってことなのか?
「レティはなんでそんな事知ってるんだ?」
「有名な魔法具は知ってるわ。」
この腕輪ってそんな昔からあるのか!?
「さっきのキスはなんか意味あったのか?」
「………呪いの解呪。」
キスで呪いを解くのはテンプレではあるがどこのおとぎ話だ。
「そっか。ありがとうな。」
「うん。どういたしまして。」
レティンシアがハイスペックなのは分かっていたことだ。光属性も持ってるんだし呪いを解く事が出来てもおかしくない。解呪方法が少し変わってるだけだろう。
レティンシアは疲れたのかベッドに横になってしまったので俺も本の続きを読もうと思ったのだが、呪いも解けた事だし久しぶりに自分のステータスでも視てみることにした。
名 前:ルーカス【龍宮タツミヤ 彰斗アキト(アキト・ルーカス・ハワード)】
年 齢:17歳
性 別:男
レ ベ ル:71(冒険者ランク:B)
状 態:健康
H P: 15000/15000
M P: 1000/1000
腕 力: 287(250)
体 力: 300
魔 力: 300
器 用: 250
敏 捷: 228(190)
幸 運: 222
魔法適性:火・土・雷・光
ス キ ル:自動翻訳・剣術(Lv.9)・体術(Lv.7)・投擲(Lv.MAX)・棒術(Lv.7)・弓(Lv.1)・槍術(Lv.1)・短剣(Lv.6)・料理(Lv.MAX)鑑定
耐 性:物理(60%)・魔法(50%)・毒(100%)・麻痺(100%)
称 号 異世界人 偽(人違い)勇者 非常識人
………増えてる。今までは呪われてたから視れなかったってことか?
もしかして今ならレティンシアのステータスも視れるだろうか。
いけないことだと思いつつレティンシアを視てみた。
名 前:レティンシア
年 齢:14歳
性 別:女
レ ベ ル:59(冒険者ランク:C)
状 態:睡眠中
H P: ***/***
M P: ***/***
腕 力: ***
体 力: ***
魔 力: ***
器 用: ***
敏 捷: ***
幸 運: ***
魔法適性:秘密
ス キ ル:マル秘
耐 性:非公開
称 号:禍の忌み子
説明:省略
備考:スケベ!!
PS ステータスは称号『禍の忌み子』により隠蔽されています。
『スケベ!!』ってなんだよ!
あれ?PSってなんだろう。なになに…
「・・・・・・・・・・・」
スキルじゃなくて称号でステータス隠蔽されてるってことは、レティンシアも当然知らないんだよな。
それにしても、レティンシアのどこが『禍』だというのだ。
称号って消せないのか?ただ銀の髪と瞳を持って産まれただけじゃないか。それだけでこんな腹立たしい称号をつけられるなんてひどいだろう。
レティンシアのステータス画面を消してベッドに寝転がって目を閉じる。
称号を消す方法について考えているうちに俺の意識は闇に沈んだ。
目が覚めた時には大分と日が傾いていた。師匠と先生はまだ戻っていない。
レティンシアはどうしているのだろうと隣のベッドを見たがそこは空っぽだった。どこにもレティンシアがいない。トイレにでも行ったのだろうと思っていたのだが、いつまで待ってもレティンシアは戻ってこなかった。声を掛けてから浴室も覗いたがそこにもいない。残るはトイレぐらいしかない。
「レティ?大丈夫か?」
トイレのドアを叩いて声を掛けるが、中から返事は無かった。倒れているのだろうか?
「レティ、無事か?レティ?」
「なに?」
「うわぁぁっ!?!?」
突然後ろから声を掛けられ驚いて振り返るとレティンシアがきょとんとした顔で立っていた。
「レティ!?どこにいたんだよ!?」
本当にどこから現れた!?声を掛けられるまで全然気配も感じなかったぞ!
「クローゼットの中にいたよ。」
「なんでそんなとこにいるんだよ!?」
なにがあったらクローゼットの中に入るんだよ!?クローゼットの中でなにしてたんだ!?
「1人で集中して作りたいモノがあったの。心配かけてごめんね。」
「……なに作ってたんだ?」
「まだ内緒。完成したら見せてあげる。」
いたずらっぽく笑うレティンシアは可愛かった。完成したら見せてくれるらしいし好きにさせとくか。
「そっか。なら楽しみにしてる。」
「うん。楽しみにしててね!」
にっこり笑うと再びクローゼットの中に籠ってしまった。
1人になれる空間で集中したいのは分かったが、そこでクローゼットを思いつくとは思わなかった。
でもレティンシアの行動にいちいち驚いていても仕方ないか。そう仕方ない。レティンシアだからな。
数時間後帰ってきた師匠達にレティンシアの居場所を聞かれ、1人の空間で集中して作りたいモノがある為クローゼットに籠っているというと驚いてはいたが、最後は『レティだからな。』で納得されていた。
寝るときはしぶしぶクローゼットから出てきたが、翌朝いつもより早く目が覚めて隣を見ると空っぽだった。もう起きたのかと思っていたら、クローゼットが開く音がしてそっと出てくると静かにベッドに潜りこんだ。いたずらがばれない様にしている子供のような行動に叱っていいのか、知らないふりをするべきが悩んだが、今回は知らないふりをすることにした。余程作るのが楽しいのだろう。旅に影響がなければいい。そう思い、俺ももう一度寝るために目を閉じた。
ありがとうございました。