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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
転移したら女の子を拾いました。
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レティンシアの特技

買い物の終わったレティンシアを回収して宿に戻ると、レティンシアは今日の戦利品の整理を始めた。何を買っていたのかは師匠と先生の反応で何となく分かった。一緒に店に入らなくて良かったと心の底から思う。逃げた俺グッジョブ!


レティンシアの方に背を向けて、昨日本屋で見つけた本を読む。

部屋の中にはページを捲る音がするくらいで他の音はしない。やけに静かだ。

眠ってしまったのだろうか思い、隣のベッドを見るとレティンシアが黙々と針を動かしていた。針の動きが異様に早い。刺繍だけじゃなく縫い物のスピードも速いのか。何か作っているらしいが、何を作っているのかは分からない。まあ大人しくしていてくれるならばいいか。俺は特に気にすることなく視線を本に落とし、再び読み始めた。


空腹と喉の渇きを覚えて本から顔を上げる。凝った首と肩を解しながら隣を見ると、レティンシアはさっき見た時と変わらないスピードで黙々と針を動かしていた。疲れないのだろうか。観察していると手が止まり、糸を切る。よく見ると手に持っているのは俺のカバンだった。


「レティ、なんで俺のカバン持ってるんだ?」


どうしてレティンシアが持っているのか分からずに聞いたら呆れた目で俺を見た。


「やっぱり私の話聞いてなかったんだ。」


そしてレティンシアに教えてもらった彼女が俺のカバンを持っている理由と、それに至るまでの会話を俺は全く覚えてなかった。そういえば誰かに話しかけられた様な気もする。その時だろうか。


~本に夢中のルーカスとレティンシアの会話~


「ルカのカバン大分痛んでるから直そうか?」

「…うん。」

「カバンにアイテムボックス縫いつけてもいい?」

「うん。」

「……カバンに可愛い刺繍入れてもいい?」

「うん。」

「………本当に刺繍入れるよ?」

「うん。」

「可愛い花とか蝶とか鳥とか入れちゃうよ?」

「うん。」

「本当にいいの?」

「うん。」


~会話終了~


マジで!?可愛い花とか蝶とか鳥とかあったら恥ずかしすぎる。レティンシアから返されたカバンを確認する。ほつれたり、穴が開いていた場所はきれいに修繕されている。そして大きく翼を広げて今まさに羽ばたこうとしているきれいな鳥の刺繍が刺してあった。デフォルメはされてない。


「……ルカがいいって言っても、ルカのカバンに可愛い刺繍なんて刺せないよ。……気に入らない?」

「いや、凄い上手だな。ありがとう。」

「どういたしまして。」


裁縫で食っていけるんじゃないだろうかと思うぐらいには上手い。この腕前はプロ級だろう。


カバンを開けると中にポケットが一つ増えていた。


「レティ、なんかポケットが増えてるんだけど。」

「そのポケットには袋型のアイテムボックスを入れておいたよ。ボタンで止めてあるだけだから、ボタンを外せば取り外せるよ。」


いや、いちいち袋の口開くのも面倒だなとか思ったけど、まさかカバンに縫いつけられるとは思わないだろう。むしろ縫いつけて大丈夫なのか?


「大丈夫なのか?」

「?ポーチ型と一緒で大きなモノを入れる時は口が大きくなるから大丈夫だよ。」


レティンシアが大丈夫というなら大丈夫なんだろう。深く突っ込むのは止めておこう。


「そうか。……レティお昼食べに行かないか?」

「行く!」


お昼に誘うと嬉しそうに笑って、裁縫道具を片付ける。1階の食堂で遅めのお昼を食べてお金を払うとまた部屋に戻って俺は本、レティンシアは裁縫を再開する。


本が読みづらくなってきて顔をあげると部屋の中は大分暗くなっていた。

気付いていないのかその中でも無心に針を動かしているレティンシアは今度は布を縫っている。何を作ってるんだろう?

手を止めて糸を伸ばすと結んで糸を切る。広げているそれはどうやらシャツのようだ。針に新しい糸を通して再び縫い始めるレティンシアの顔は真剣そのものだ。

じっと見つめているとレティンシアが笑った。


「ルカ、どうしたの?そんなに見られると恥ずかしいんだけれど。」


手を止めることなく、俺に視線を向ける事もなく聞いてくる。視線には気づいていたらしい。


「なに作ってるのかと思って。」

「後少しで完成するから少し待って。」


苦笑しながら答えるレティンシアの手が動きを止めることはない。

立ち上がって部屋の明かりを点ける。縫っていたのは黒いシャツのようだ。数時間で裁断して縫いあげられるって凄すぎだろう。


縫物をしているレティンシアの真剣な表情は凄く綺麗だった。明かりを受けて煌めく金色の髪だけが少し残念だけど、銀髪は目立つから仕方ない。染めるのも嫌がるかと思ったけど、染める事をすんなりと了解した彼女が何を思い考えているのか分からない。仕方がないと分かってはいるのに、レティンシアには銀色の髪が似合っていた。月光を紡いだかのような銀糸の髪と満月を写し取ったかのような銀色の瞳。

彼女のどこが禍の忌み子だというのだ。むしろ…巫女だよな。


かちゃん


音がしてレティンシアがハサミを置いた。袖や裾、襟などを確認していたが満足いく出来だったのか大きく頷いて嬉しそうに笑った。


「ルカ、どう?」


俺に広げて見せているシャツは、明らかにレティンシアのモノではない。彼女が着るには大きすぎる。

それは誰のシャツだ?モヤモヤした気持ちが胸の中に広がる。面白くない。誰の為にあんなに真剣作っていたんだ?


「ルカ?……気に入らなかった?黒色ばかり着てるから好きなんだと思って、違った?」


黙っている俺に不安げな表情を浮かべて聞いてくる。

…『黒色ばかり着てるから好きなんだと思った』ってまさか…


「それ、もしかして俺のなのか?」

「うん。今着てるシャツ少し小さいみたいだったから作ってみたの。迷惑だった?」


迷惑なんてことあるわけない。レティンシアが俺の為に作ってくれたシャツ。


「いや、俺のだと思ってなかったから。貰っていいのか?」

「その為に作ったんだもの。」

「ありがとう。」


シャツを受け取り早速着替えてみる。


「……動きやすい。」


今まで着ていたシャツより格段に動きやすかった。どこが違うのか全く分からないが、今までのシャツと比べても、一番いい。


「どこも違和感とかない?」

「ないよ。すごく動きやすい。」

「よかった!」


レティンシアが嬉しそうに笑う。

その笑顔を見ていたら胸の中に広がっていたモヤモヤしていた気持ちが消える。

俺の為に一生懸命作ってくれたことが凄くうれしかった。

いつもありがとうございます。

もう少しで第2章が終わる予定です。

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