ベルン到着
レティンシアの質問と遠くで起こる食物連鎖の実況中継を聞きながらの旅を乗り越え、ルーカス達は漸く街に辿り着いた。途中からルーカスが本気でレティンシアに迷子紐か鈴を付けないかと提案するぐらいには、レティンシアは暴走していた。人は見かけによらないのだと、ルーカス達の心に刻みつけるには十分すぎる暴走具合だった。3人ともお疲れさまでした。
やっと街に着いた、これで少しはレティンシアが大人しく…
「ルカ!あれは何。水が上に吹き出してるわ!」
「噴水だ。」
「ルカ、あそこに人が集まってるわ。どうして?」
「屋台。食べ物を売ってるんだ。」
「あっ!」
パタパタパタ
「ちょっ、レティどこに行くんだ!」
バタバタバタ
全く大人しくならなった。
好奇心を刺激するモノが沢山あるようで駆けて行ってしまうレティンシアをルーカスが捕獲しに行く。
迷子紐と鈴が着けられてしまう日は近そうだ。
「レティ、頼むから少し大人しくしてくれ。用事が済んだら街を案内するから。それに1人にならないって約束しただろ?」
捕獲したレティンシアに言い聞かせながら2人で宿に向かう。
アンドリューとギャレットはレティンシアの髪を染める為の染料を買いに行っている。レティンシアの捕獲に向かうルーカスの背中に『俺達が買ってくるからレティを連れて宿取っといてくれー。』と投げかけて、そそくさと買いに行ってしまったのだ。
そんな2人にルーカスが心の中で『裏切り者―――!』と叫んでしまったのは無理ないだろう。
「本当に用事が済んだら案内してくれる?」
「約束する。だから大人しくしてくれ。」
「うん!!」
突撃していかないようにしっかりと手を繋いで歩いてやっと宿に辿り着いた。
「4人なんですけど部屋は空いてますか?」
宿屋の主人に空き部屋を確認するルーカスの隣で、街に入る前に髪色が目立つからとフードを被らされているレティンシアはキョロキョロと物珍しげにしている。
「4人一緒でもいいのかい?」
4人一緒、つまりレティンシアも一緒の部屋。男3人の中に女1人は些か問題がある気もするが、レティンシア1人を別の部屋にするのも危険だ。当分は仕方ないだろう。
「一緒の部屋でいいです。」
「それなら空いてるよ。お連れさんは後から来るのかい?」
「はい。」
台帳に名前を書いてとりあえず今日の分の宿泊費を払う。
「えーと、ルーカスさんね。鍵はこれだよ。お連れさんがきたら案内するよ。」
「はい。お願いします。」
「部屋は3階の一番奥だよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
鍵を受け取ると、レティンシアを促して部屋に向かった。
部屋は中央にテーブルとイス、入口横にクローゼットが1つ、反対側に浴室とトイレ、奥の左右に2台ずつ計4台のベッドが並んでいる。
「レティは入口側と窓側どっちがいい?」
「窓側がいい。」
「じゃあレティは左奥、俺はその隣にするか。」
「うん。」
使うベッドを決めて荷物を置いて、のんびりしていると師匠達が帰ってきた。
「レティ、染め粉買ってきたからこれで髪染めろ。」
「はい。」
アンドリューから染め粉と使い方の書かれた紙を受け取ったレティンシアは、まず使い方を熟読する。読み終わると染め粉とタオルを持って浴室へと入っていった。
15分後
浴室から出てきたレティンシアの髪は金色になっていた。
金髪も似合うけど、やっぱり銀髪の方がレティンシアには合ってるよな。
「どうかな?」
「似合ってるよ。」
恥ずかしげに上目づかいで見上げてくるレティンシアの頭を撫でて褒めると頬を赤く染めて俯く。
「…おい、ギルドに行くぞ。」
「はい。レティも準備して。」
俺達はレティンシアの支度が出来るのを待ってギルド支部へと出かけた。
ギルド支部に着くと早速冒険者ギルド窓口に行って、レティンシアの冒険者登録の手続きをする。
10分後、問題もなく無事にギルドカードが発行されたので、ついでにレティンシアの持っていた魔石を1つ売った。売ったお金はもちろん彼女のお小遣いだ。街を見て回れば欲しいモノも出てくるだろう。買い物の仕方を覚えるのにも丁度いい。
用事が済んだのでギルド支部を出ようとした時、3人組の男の1人がわざとレティンシアにぶつかった。
「おい、どこに目付けてやがる。」
レティンシアの肩を掴もうとしたその手を叩き落とす。
「それはこっちのセリフだ。ぶつかってきたのはそっちだろ。」
レティンシアを背に庇って男達を睨む。
「なんだと!クソガキが誰に言ってるのか分かってるのか?俺はCランクだぞ!!」
「ふ~ん。だからなに。」
「なに!?今日登録したばかりの新人がCランクの俺に楯突く気か!」
「CランクがBランクの俺に楯突く気なのか?」
左手に着けている銀の腕輪を見せる。
「なっ!?さっき登録したばかりの新人じゃなかったのか?!」
「俺はこの子の付き添い。それで、この子が何だって?」
「どうせコネかなにかで成り上がったただのガキだろ?」
「そうそう、こんなガキがBランクになんてなれるわけねえよ。」
男①の後ろにいた男②と男③がしゃしゃり出てきた。
そして自分より高ランクだと知り怯みかけたが、仲間の言葉に勇気づけられたのか再び絡んできた。
「親のコネでなったBランクになったお前と違って俺らは自分の実力でCランクになったんだ。格が違うんだよ。生意気なクソガキが!」
でもちょっと調子に乗りすぎだよな。ついでに視野も狭すぎ。
「おい、お前ら俺達の弟子になにか文句でもあるのか?」
後ろから師匠と先生が声を掛けられて振り返った3人は、師匠と先生の顔を見ると一目散に逃げていった。
あんな般若のような顔で睨まれたら逃げるよな。
逃げて行く男たちの後ろ姿を見送って、レティンシアを振り返ると唖然とした表情で逃げて行く男達を見送っていた。
そっとフードを被せなおすと、情けなく眉を下げ小さな声で謝ってきたのでポンポンとフードの上から軽く頭を叩いて気にするなと伝える。
「レティ、大丈夫かい?」
「はい、ギャレット先生。アンドリューさんもありがとうございました。」
「ああいったのは多いからな。気を付けろよ。」
「はい。」
ギルド内でかなりの注目を集めてしまっているが、殆どの視線はレティンシアに向かっている。こんな美少女が男3人の中に混じってるんだから仕方ないだろう。
レティンシアと手を繋ぐと、嫉妬、憎悪、妬み、いろいろな種類の視線が全身に突き刺さるがいちいち気にしていたらきりがないのでさっさとギルド支部の外に出た。
「これから先は自由行動な。俺達は情報収集に行ってくる。遅くなるから先に寝てていいぞ。」
「レティはルカから離れたら駄目だよ。いいね。」
引き留める暇もなく去っていった2人の師を見送ったルーカスだったが数時間後、なんとしても引き留めるんだったと後悔することになるとは思いもしなかった。
ありがとうございました。