行き先
最初予定していた通りに進まない…。どうしよう。
師匠と先生に促されて横になってから朝まで夢も見ることなくぐっすりと眠っていた。レティンシアも俺が起きる少し前に起きたようだが、昨日の事は覚えていなかった。
覚えていないのでは仕方ない。でも昨日レティンシアの口を借りた何かが言った事が本当なら太陽の勇者と月の巫女が揃わなくてはいけない。歴代の勇者と巫女の事もあるので、これからは勇者と巫女の伝承について調べる事に決まった。
「ベルンにですか?」
「ここから一番近いから、補給も兼ねてね。それとレティもギルドに登録してギルドカードを作っておいたほうがいい。あれは身分証にもなるからね。」
朝食を食べながらどこに向かうのかを相談しようとしたら決定事項として目的地を国境の街ベルンにすると言われた。
先生の言う事ももっともなので、今日からベルンに向けて旅をする事になった。
レティンシアはよく分かってないようだが、ゆっくり教えればいいだろう。
朝食も食べ終え後片付けをしてテントも俺のアイテムボックスに収納する。
「便利だな。そのまま収納できるのか。」
「俺もそう思います。組みたてる必要もないし、片付けもしなくていいので大助かりです。」
出発の準備も整い街に向かって歩く。途中までは自由にさせていたレティンシアだが今は俺と手を繋いで歩いている。いつの間にかいなくなること数回、迷子防止に手を繋ぐことが決められた。本人は膨れて迷子になってないと言い張っているのだが、気になるモノを見つけたらフラフラと離れて行くので仕方ない。
「そういえば、ギャレット先生とアンドリューさんはアイテムボックス持ってないんですよね?」
休憩中に突然レティンシアがアイテムボックス所有の有無を先生と師匠に聞いて持っていない事を確認するとおもむろにカバンから皮の袋を2枚取り出して1枚ずつ渡す。
「ポーチ型のアイテムボックスはルカにあげたのが最後だったんです。あとはこれしかなくて、ごめんなさい。」
先生と師匠の目が点になっているがその反応は当然だ。当たり前のようにカバン型のアイテムボックスから更にアイテムボックスを取り出す奴がいるとは思わないだろう。
「なあレティ、あといくつ未使用のアイテムボックス持ってるんだ?」
「ルカも袋型のアイテムボックス欲しいの?」
カバンの中に手を入れると師匠達に渡したのと同じ皮の袋を取り出して渡された。
あと何個持ってるのかは分からないままだが折角貰ったので、魔力と名前を登録してカバンに入れておく。
レティンシアは固まったままの師匠と先生に魔力と名前の登録方法を説明している。相変わらずのマイペースっぷりだ。諦めよう。
なんとか復活した師匠と先生は念願のアイテムボックスに大喜びだった。
「本当に貰ってしまっていいのかい?」
「大丈夫です。使わないと勿体ないですから。」
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」
「ありがとな。レティンシア。」
先生と師匠がお礼をいう。そうそう気になる事があるんだった。
「師匠、師匠はどうしてレティの事を愛称で呼ばないんですか?」
師匠だけがレティンシアの事を愛称で呼ばないのか気になってたんだよな。レティンシアも嫌がるってことはないと思うんだけど…。
「…………会って間もない奴に愛称呼びされるのはレティンシアだって嫌だろう。」
すみません。会ってすぐから愛称で呼んでました。
「?私は構いません。」
あっさりとレティンシアは承諾した。
「そうか?なら俺も愛称で呼ばせてもらうか。ありがとな、レティ。」
「はい。どういたしまして。」
レティンシアはクスクスと笑っている。楽しそうだな。
「そろそろ出発しませんか?」
休憩はもう十分だろう。森は今日中に抜けておきたい。
「そうだね。そろそろ行こうか。」
立ち上がって服についた草や土を払う。歩きはじめるとすぐにレティンシアが傍に来たので手を繋ぐと情けなく眉を下げて俺を見上げてきたが、何も言わず、手も離さずに歩くと諦めたのか大人しく繋がれている。
しばらくは大人しくしていたレティンシアだったが、元々好奇心が強かったのか、それとも軟禁されていた反動なのかキョロキョロしながら歩いている。
「きゃっ!」
足元への注意が疎かになっている彼女は木の根や石によく躓いている。繋いでいる手を引っ張って転ばない様にしているのだが、そろそろ足元にも注意を払ってもらいたい。
「レティ、足元もちゃんと見ないと危ないぞ。」
「ルカがいるから大丈夫。」
「………はぁ。」
見慣れるまでは仕方ないか。幼児の引率をしていると思って諦めよう。
「………いま失礼なこと考えなかった?」
「いや。(なんでこういうのには勘が働くんだろう…。)」
街を目指して歩いてる道中、レティンシアの興味を引くものは多い。
「ルカ、あれはなに?葉っぱが閉じたわ!」
「あれは食人植物。食われるから近づいたら駄目。」
「ルカ、青いキノコがあるわ。」
「それはケタケタ茸。食べたら効果が切れるまで笑い続ける毒キノコ。」
「ルカ、兎が鳥に捕まったよ!」
「弱肉強食、可哀そうだけど仕方ないよ。」
「ルカ!ルカ!」
「なに?」
「兎を捕まえた鳥がアラクネに捕まったわ!」
「弱肉強食だから仕方ない……アラクネ!?どこにいるんだ!」
「あっち。でもこっちには気付いてないよ。」
「……(あっちってどっち!?てゆうかどんだけ視力いいんだよ!?)」
「ルカルカルカ!」
「今度は何?」
「アラクネが青くて橙色の羽のある虫に刺されて捕まってどこかに連れて行かれたよ!」
「…………。弱肉強食だから仕方ないな。ところでそのアラクネって鳥捕まえた奴と同じ奴か?」
「うん。」
「………………そっか。(羽音も聞こえないんだけど。どこにいるのが見えてるんだよ!?)」
「…………。」
「(やっと落ち着いた、いや疲れただけか?)レティ、疲れたか?」
「ううん。あのね、ルカ、……アラクネを連れて行った虫が、頭が逆三角形で緑色で鎌みたいな脚の虫に…食べられちゃったの。」
「………………………………そっか。(もう何も言うまい。)」
後方で交わされる弟子たちの会話と時折向けられる弟子の助けを求める視線に気付かないふりをしながらアンドリューとギャレットは当たり障りない会話をしていた。
「街に着いたらまずはレティの冒険者ギルドへの登録に行かないとな。」
「それもだが、レティの髪色は目立つから染めた方がいいんじゃないかな?」
「染めるのは勿体なくないか?」
「変に目立つのも危険だと思うのだが。」
「確かにな…。仕方ない、街に着いたら染め粉を買いに行くか。」
「じゃあ街に着いたら、染め粉を買って、宿で髪を染めてから冒険者登録に行こう。」
「そうだな。」
「ルカ、鎌みたいな脚の緑色の虫が鳥の魔物に連れて行かれちゃった……。」
「………………レティ、それが食物連鎖だ。兎を鳥が食べて、鳥をアラクネが食べて、アラクネを青くて橙色の羽のある虫が食べて、青くて橙色の羽のある虫を頭が逆三角形で緑色の虫が食べて、頭が逆三角形で緑色の虫を鳥(魔物)が食べる。厳しいけどこれが自然なんだ。」
「そうなんだ…。自然って厳しいんだね。」
「そうだな。」
「「・・・・・・・・・・・・。」」
「ギャレット、街に着いたら飲みに行かないか?」
「そうしよう、アンドリュー。」
レティンシアは弟子に任せておけばいいだろう。
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