レティンシアの魔法適性
「おいしいよ、レティ。」
「本当?良かった、今日は前に作ってみた凝縮出汁を使ってみたの。」
「あ~。あの牛もどきの骨で作ってたやつか。」
「うん。上手く出来てて良かった。」
4人でレティンシアの作ったスープと師匠が持ってたパンとチーズといった組み合わせの昼食を食べている。やっぱりレティンシアの作ったスープは美味い。
「師匠、先生どうですか?レティンシアの作ったスープの味は。」
「とても美味しいよ。レティンシアさんは料理が上手なんだね。」
「美味いな。もう1杯貰うぞ。」
師匠は早くも1杯目を飲み干し、2杯目を注いでいる。
「良かったな、レティ。師匠も先生も美味しいってさ。」
「うん。」
レティンシアが嬉しそうに笑う。かわいいな。
昼食も食べ終わり、片付けも終わった。そろそろレティンシアの事についても話さないとな。
本人の承諾なく魔法適性について話すわけにもいかないので、レティンシアに確認するとあっさりと頷く。自分の魔法適性が問題だとは思ってないな、これは。
「師匠、先生、レティンシアの事で話があります。」
師匠達の顔つきが変わる。いくらレティンシアが召喚魔法を知ってる可能性があるといっても、旅に連れて行く事については納得してない事は俺も気付いてた。でもレティンシアの魔法適性を知れば納得してもらえるだろう。
「実はレティンシアの魔法適性ですけど、光属性を持ってます。しかもかなり高い適性です。」
「どうして高い適性だと分かったんだい?」
やっぱり魔法となると先生が食いついてくるよな。
「彼女は幽閉されている間、魔力を封じられていて一度も使った事がなかったそうです。でも、魔物の集団に襲われた時、初めて使ったのに中級魔法のホーリーランスを発動させることが出来たんです。」
「…槍は何本だったか分かるかい?」
「5本です。初めて使って5本全ての槍を命中させました。」
「それなら確かに適性は高そうだね。属性は光とあとは水と風の3つかい?」
「その戦闘では雷も使ってます。そしてこれら全ての属性の中級魔法を詠唱破棄で発動する事も今では可能です。」
「4属性持ちで中級魔法の詠唱破棄が可能だと!?」
「信じられないな。本当だとしたらすごい才能だよ。」
師匠と先生が驚くのは無理もない。レティンシアはどうしてそんなに驚かれるのか分からないのかきょとんとしている。
「俺も4属性だと思っていたんですけど、昨日火属性を持ってる事が判明したので5属性持ちです。たぶん一番高い適性は光だとは思います。俺が負ったかなり深い傷を癒せるぐらいですから。」
「「・・・・・・・・・。」」
師匠も先生も固まってしまった。そうだよな、そうなるよ。俺も驚いたもんな。
「ルカ、あと地属性魔法も使えるよ。」
「………レティ、今なんて言った?」
「?『ルカ、あと地属性魔法も使えるよ。』って言ったよ。」
「……………詠唱破棄、出来るのか?」
「うん。」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」
まさかの6属性持ちでした。
「危険だな。」
「誘拐されますね。」
「置いては行けないですよね?」
俺が危険だというならレティンシアは更に危険だろう。しかも女の子、神殿は喉から手が出るほど欲しいだろう。一番の問題は本人に自覚がない事だがな。
先生が大きく息を吐いた。
「レティンシアさん。魔法以外では何が出来るんですか?」
「…お裁縫、調合、お料理、棒術、体術、投擲、剣、あとは弓と槍を練習しています。」
「運動神経もいいみたいで棒術、体術、投擲は実戦でも通用するレベルです。」
そうだった。レティンシアに言ってない事があったんだった。
「いい忘れてた。レティ、攫われそうになったら死なない程度に反撃していいから。棍なら多少思いっきりやっても大丈夫だから、変なのに襲われそうになったら必ず反撃する事、分かった?」
「変なのってなに?」
「レティを攫おうとしたり、如何わしいことしようとする奴だよ。」
「………?分かった。そういえば、私を攫おうとした人が味見とか言ってたけど大陸の人は人を食べるの?」
「「「・・・」」」
あいつらレティンシアの前で変な事言いやがって、このままじゃレティンシアの中の大陸人が人食いになる。
「おい、その味見ってのは食べるんじゃなくて…。」
ゴスッ!
変な事を口走り始めた師匠の足を蹴る。
「レティ、大陸の人も人は食べないから安心していいよ。」
レティンシアの視線が足を押さえて悶絶している師匠に向けられる。
「ルカ、アンドリューさんは…」
「レティは気にしなくていいよ。それと知らない奴について行ったり、1人で行動したら駄目だからな。必ず俺か師匠か先生と一緒にいる事。攫おうとする奴は絶対にいるから気を付けるように。分かった?」
「…うん。でもどうして私を攫うの?」
「レティは可愛いし銀の髪も瞳も珍しいから、捕まえて売り飛ばそうとするんだよ。見世物として檻の中に入れられたくないだろ?」
「うん。必ずルカ達と一緒にいる。攫われそうになったら棍で相手が死なない程度に反撃する。」
よし、これでいいな。師匠にはあとでレティンシアに変な事教えない様に釘を刺しておこう。
「ルカ、レティンシアさんもいいかい?レティンシアさんの事情は分かった。棒術とかはルカが教えたのかい?」
「レティンシアに何が向いてるのか分からなくて俺が教えられるのは教えました。師匠は弓とかは槍は使わないんですか?」
「槍は使えるね。弓はあまり得意ではないけど基礎くらいなら教えられるよ。」
「それじゃあ先生に教えてもらった方がいいですね。」
レティンシアのメインの指導役は先生に決定だな。他のは追々覚えればいいだろう。
「レティはどうだ?先生に教えてもらうのは嫌か?」
「でも、私……。」
レティンシアは悲しげに俯いてしまった。まだ怖いのだろうか。
「私、『禍の忌み子』と呼ばれていたんです。ルカは気にしないって言ってくれました。でも…。」
「その事ならルカに聞いている。髪と瞳の色が銀色だったからそう呼ばれていたと。だが私も気にはならないな。その色も君にとてもよく似合っているよ。」
「…迷惑ではないですか?」
「迷惑だなんて思わないよ。」
躊躇いがちなレティンシアの言葉を即座にそれでいてにこやかに否定する。こんなに可愛らしく才能もある弟子ができるのはむしろ大歓迎だろう。
「あの、ではお願いいたします。あと私のことはレティと呼んでください。」
「分からないことがあったら聞いてほしい。相談にも乗る。遠慮は不要だよ。」
「はい。ありがとうございます。……ギャレット先生。」
先生が手を差し出すと、その手にレティンシアが手を重ねる。
「これからよろしく頼む。困った事があればいつでも言うんだよ。私はレティの師なのだから必ず力になろう。」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。ギャレット先生。」
レティンシアも先生には慣れたらしい。先生がレティンシアを怖がらせない様に極力穏やかに話していたからだろうけど、それでも良かった。
「師匠、仲間外れにされたからって拗ねないでください。師匠が拗ねても可愛くありません。」
1人蚊帳の外に置かれ不貞腐れていた師匠に声を掛ける。
「拗ねてない。」
そんな仏頂面で言われても説得力はない。
「師匠、レティンシアを旅に連れて行くことについて異論はありますか?」
「街に1人で置いておく方が危険だ。それにギャレットの弟子になったのなら連れて行くのは当然だろう。反対する理由はない。」
よし、これでレティンシアを旅に連れて行く事についての障害は無くなったな。
師匠が先生を見る目が羨ましそうに見えたが気のせいだ。まさか可愛い弟子が欲しいなんて言わんだろう。
残るは召喚魔法と送還魔法についてだけど、無理やりレティンシアから聞きだすわけにもいかない。手がかりも無くなったし、これからどうしよう。
ありがとうございました。