容量オーバー
レティンシアと師匠達を残して洞窟を出ると急いで下ごしらえをしていた場所に戻って作業を再開する。10分程で全て捌き終わり洞窟に戻った。レティンシアは泣いてないだろうか?
洞窟内はとても重苦しい空気に包まれていた。レティンシアは火の傍で木の枝を削っている。泣いてはいなない。師匠と先生は何をしているのだろうと見渡すと、レティンシアからかなり離れた場所で膝を抱えていた。なにがあった!?
入り口で固まっていると、レティンシアが気付いて嬉しそうに笑う。それだけで雰囲気が一気に明るくなった。
「お待たせ、レティ。串に刺すの手伝ってくれ。」
アイテムポーチから肉と魚を取り出して串に刺していたのだが、レティンシアは肉しか刺さない。魚は触れないのだろうか?
「魚、苦手なのか?」
きょとんとして魚を見る。
「魚?これが魚なの?」
魚だって判らなかったのか。まさか切り身が泳いでるとか思ってないよな。
「食べた事無かったのか?」
「切ってあるのしか見た事なかったから。こんなに大きかったのね。」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら答える。
良かった。切り身が泳いでるとは思ってなかった。純粋に見た事が無かっただけか。
魚の串の刺し方を教えてから一緒に串に刺して塩を振って焼いていく。しばらくするといい匂いが漂い始めた。
「師匠、先生、いつまでそこで膝抱えてるんですか?もう焼きあがりますからこっちに来てください。」
重い足取りでこちらに師匠達が歩いてくると、レティンシアが俺の横にピッタリと寄り添ってくる。
師匠達は火の近くに座っても項垂れたままだ。レティンシアに怯えられでもしたのだろうか?
師匠と先生に焼けた魚を渡す。レティンシアには一番小さな魚を渡す。俺も焼けた魚に早速齧り付く。焼きたてはやっぱり旨いな。魚と俺を交互に見ていたレティンシアも見よう見まねで食べ始めた。師匠達は黙々と静かに食べているのでそっとしておこう。
俺達が魚を食べ終えたころ、ちょうど肉が焼きあがった。ちなみにレティンシアはまだ魚を食べている。残り半分ぐらいだ。一口の大きさが違うし、食べ慣れない所為だろう。急ぐ必要もないのでゆっくり食べればいい。ようやくレティンシアが魚を食べ終えた頃、俺と師匠と先生は肉を食べ終えていた。残っているのはレティンシアの分だったのだが、本人は残ってる肉を見て眉を下げた。
「ルカ。」
「どうした?」
もじもじと恥ずかしそうにしていたが、訴えてきた内容もとてもかわいらしかった。
「お腹一杯で食べきれないの。お肉どうしたらいい?」
「俺が食べるからいいよ。魚は一番小さいのにしたけどレティには大きかったか。」
肉串を手に取ってみると、焦げない様に火から遠ざけていた所為か少し冷めてしまっていたので軽く炙って温める。
「おい、少なすぎるだろう。もっと食え。」
小さな魚1匹しか食べない事が気になったらしい師匠が声を掛けると、驚いたのかレティンシアが座ったまま飛び跳ねた。座ったままでも結構飛び跳ねられるんだな。
「師匠、レティンシアは食は細い方ですから沢山は食べられません。」
「それでも少なすぎだろう。もっと食った方がいい。」
「レティンシアは女の子なんです。俺達と同じ量は食べれません。」
「女性でも少なすぎると私も思うよ。旅をするなら尚の事しっかり食べないと身体が持たないだろう。食は全ての基本だよ。食を疎かにするなら旅に連れて行くのはどうかと思う。」
レティンシアがおろおろしている。まさか自分の食事量で喧嘩になるとは思わないだろう。
「ル、ルカ、私食べる。ちゃんと食べるから置いて行かないで。」
「お腹一杯なら無理して食べなくていい。具合悪くなるぞ。」
「大丈夫。だから、喧嘩しないで。」
置いて行かれると思ったのか、酷く焦って言い募る。
「ほらみろ。本人が食べるって言ってんだから食べさせろ。」
「女性だからと甘やかすのはよくない。好きな物だけ食べていては旅は出来ないからね。」
俺の手から肉の串を取って食べ始める。目は既に涙目だ。それでも必死に食べているが、ほぼ噛まずに呑み込んでいる。
「おい、飲み物じゃないんだ。しっかり噛め。」
ビクリと肩が震え、そこからはちゃんと噛んで食べ始める。
「レティ、大…」
「ルカ、しっかりと食べさせるのは本人の為だ。甘やかすのは本人の為にならない。」
「・・・・・・・・。」
顔色は青を通り越し白くなってきている。必死に口の中に押し込んで食べているが、本当に大丈夫なのだろうか?
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レティンシアはゆっくりとだがなんとか1/4程食べているが、顔色は土気色になっている。これ以上は無理だろう。
「レティ、もういい。」
レティンシアの手から串を取り上げると、何か言われる前にさっさと食べて師匠達に向き直る。
「師匠、レティンシアは小食なんです。これ以上無理に食べさせたら具合を悪くします。」
「だが、…」
「無理です。食べきれないんです。俺達の胃袋とレティンシアの胃袋を一緒にしないでください。」
魚だって捕った中では一番小さかったが30センチはあったからサイズ的には大きい方だろう。
「一気に食べれないなら、食事回数を増やして分けて食べたらどうだ?」
無理だから!どうやってもレティンシアの胃袋に同じ量は詰め込めないから!
「先生、彼女の胃にはどうやってもこの量は入りません。諦めてください。師匠も先生もこれ以上レティンシアに嫌われたいんですか?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
口元を手で覆っているレティンシアの背中を摩ってやる。
「レティ、大丈夫か?」
「……うん。でもちょっと、動けそうにない。」
テントまでも動けそうにないので、テントから毛布を2枚持ってきて一枚は地面に敷く。
「ここに少し横になって休んで。それとも吐きそう?」
「横になってれば大丈夫だと思う。」
大人しく毛布の上に横たわり苦しげに息を吐いて目を閉じたので、身体に毛布を掛けて最後に軽く頭を撫でてやる。もっと早く止めてやるべきだった。
「……食べきれなくてごめんなさい。」
レティンシアもか細い声で謝るが、レティンシアの所為ではない。旅を始めたころはそんな量で大丈夫だろうかと俺も思った。でも燃費がいいのか途中で空腹を訴える事もなく食事量も毎回大して変わらなかった。それでいて痩せもしないのでこれがレティンシアの普通の食事量なのだと納得したのだ。それからは気にしてない。
「レティンシアは旅をしている間も俺が食べる半分以下の量しか食べませんでした。それでも痩せることなく毎日歩き続ける事が出来たんです。自分の身体に見合った量を食べてるんですから押し込まないでください。」
横になって苦しそうに息をするレティンシアの頭を撫でてやる。かなり無理して押し込んでいたようだ。
その様子を神妙な顔で師匠と先生が見ているが、無視だ。誰の所為でレティンシアがこんなに苦しむ羽目になったと思ってやがる。
レティンシアが堪えるように口元を覆って身体を丸める。さっきから何度かこうして吐き気を堪えている。いっそ吐いた方が楽になるだろうに我慢しているのだ。
ゆっくりと髪を漉くように撫でていると突然レティンシアが身体を起して立ち上がると、離れた壁際に走っていく。とうとう我慢できなくなったらしい。
水を持って壁際に屈みこんでいるレティンシアの側に行く。苦しげに咳き込んでいる背を撫でてやる。落ち付いたところで水で口を何度か漱すすがせる。
「大丈夫か?」
小さく頭が縦に揺れる。
「立てるか?」
立ち上がろうとしたが途中でへたり込んでしまったので、抱き上げて焚火のそばに戻る。
腕の中でごめんなさいとすすり泣くレティンシアを毛布の上に横たえて、身体に毛布を掛けて撫でてやる。
「疲れただろ、少し眠ったほうがいい。」
「ごめんなさい、ルカ、置いていかないで。」
「置いて行ったりしない。だから眠れ、ずっと傍にいるから。」
「……うん。」
泣きながら眠ってしまったレティンシアをしばらく撫でていたが、呼吸が落ち付いたので撫でるのを止める。
「大陸に来てからレティンシアはいろいろあったんです。俺に置いて行かれたり、へんな奴らに無理やり連れて行かれたり、そんな事があったのに食欲があるはずないでしょう。それにレティンシアは食べたくないいではなく、食べきれないと言ったんです。2人で旅している間も、手に入るのは肉ばかりでしたから、朝から肉なんて普通でした。それでも愚痴も不満も聞いた事はありません。」
「「・・・・・・・・・。」」
「それなのに、旅に連れて行くのに支障があるような言い方で、脅して無理に食べさせるのはどうかと思うんですけど。」
自分の声がいつも以上に低く尖って聞こえる。
「すまん。」
「すまない。」
師匠と先生がちらちらと眠っているレティンシアを見る。
「脅すような事は絶対に止めてください。」
俺が傍にいない時にレティンシアに無理やり食べさせない様にしっかりと釘を刺しておく。次にやったら師匠と先生といえど、絶対許さん。
プロットも何も深く考えることなく主人公とヒロインの設定だけ決めて書き始めたお話しでした。誰にも読んで貰えないだろうと思いながら投稿して、初めてブックマークと評価を頂いた日は凄く驚きました。とても、嬉しかったです。ありがとうございました。行き当たりばったり矛盾する点、誤字脱字もあるかとは思います。それでも読んでくださる皆様にとても感謝しております。
本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。