大陸への帰還
サブタイトルを思い付かない。
真っ暗な石造りの部屋に光が溢れ、その中から2つの人影が現れた。
「着いたよ、ルカ。」
その声に目を開けると、そこは石造りの部屋だった。足元の転移陣の光が弱くなっていき、部屋の中が段々と暗くなっていく。
レティンシアがカバンの中からランタンを取り出して、魔力を注ぐと一気に周囲が明るくなった。
「ここはもう大陸なのか?」
「うん。大陸の転移陣は大陸の人に見つからない様に遺跡の最下層の隠し部屋の中にあるって書いてあったから地上に出るのに少し時間がかかると思う。」
部屋にある唯一の扉に手を掛けて外に出たところでレティンシアが転移陣の中央から動かないことに気付いた。
「レティ、どうしたんだ?」
「ごめんなさい。少し待って。」
持っていたロッドをアイテムポーチに仕舞い、別のロッドを取り出す。
レティンシアがロッドの柄で床を2回叩くと転移陣が赤く光りだした。
そして、転移陣が外から内に向かって消え始める。転移陣が全て消えたと同時に赤い光も消えた。
「ブレイク。」
レティンシアの声が響いたと同時に、床に亀裂が走り砕けた。
呆然としている間に全てを終わらせてしまったレティンシアが部屋から出てきた。
「何をしてるんだ!?こんな事をしたらもうあの島に帰れないだろう!」
「……遺言だから。大陸に渡ったら、この杖で転移陣を消して念のため、陣が描かれていた床も破壊するようにって。だから、いいの。」
レティンシアは2度と島に戻るつもりはないのだろう。それはレティンシアの自由だが、転移陣を破壊することはないだろう。これを解明すればもしかしたら召還術についても分かったかもしれないのに。
「良くない。この転移陣だってこの大陸では貴重な物だったんだぞ。」
「転移の魔法陣は私たちが作りだした私たちの物。」
彼女は恐らく転移陣の構成を知っている。そしてそれを誰かに教える気もない。
「俺にも教えてはくれないのか?」
「………ごめんなさい。転移の魔法陣は禁忌とされた魔法に繋がるから教えられないの。」
転移魔法から派生する魔法に禁忌となる魔法があるということか?でも転移から派生する魔法ってなんだ?
「禁忌魔法ってなんなんだ?」
「………どうして、そんなに知りたがるの?」
これも答えないか。異世界から来たって正直に言うか、それとも異世界に行ってみたいとかの方がいいかな。うん、こっちにしよう。
「レティは、こことは違う世界、あると思うか?俺はあると思ってる。だからいつか別の世界…」
「駄目!!」
強い口調でレティンシアが遮る。その顔は青ざめていた。
「レティ?」
「ルカ、それは絶対にしてはいけないこと。別の世界への道を開くのは禁忌とされているのよ。」
その言葉で確信した。レティンシアは、こことは違う別の世界が存在することを知っている。もしかしたら世界を渡る方法も知っているかもしれない。
「レティは知ってるんだな。他の世界がある事を、そして別の世界に行く方法がある事も。」
ハッとして口を手で覆う。カタカタと震えて後ずさるのを捕まえる。
「どうすれば、別の世界に行ける?」
首を横に振り口を噤む。目も合わせようとしない。
「レティ、教えてくれ。俺は、俺はどうしても、帰りたいんだ。」
弾かれたようにレティンシアが顔を上げる。
「ルカは、この世界の人ではないの?」
「一年ぐらい前に違う世界から召還されたんだ。それからずっと帰る方法を探してる。だから、レティ教えてくれ。頼む。」
驚愕から大きく見開いていた瞳から大粒の涙が零れた。そして、
「…ごめん、なさい。」
『ごめんなさい。』一瞬言葉の意味が解らなかった。そして、怒りが込み上げてくる。
レティンシアのすぐ横の壁を思い切り殴るとビクリと首を竦め震えた。
「……どうしてだ?俺は元の世界に帰りたいだけなんだ。」
自分の声がいつもより低く冷たく聞こえる。レティンシアが怯えていることも分かってる。それでも、これだけは譲れない。俺は元の世界に帰りたいんだ。
「……駄目なの、異なる世界への門を開いて道を繋げるのには、沢山の命が必要なの。だから禁忌とされた。」
「…………命って、生贄ってことか?」
「ごめんなさい。召還魔法が知られているなんて、どうして………。」
それはつまり、
「召還魔法を作ったのはレティンシア達なんだな。」
ずるずると座り込んでしまったレティンシアが頷く。
「どうして、召還魔法なんて創った。」
首を横に振って話すことを拒否するのを見て、抑えがたい怒りが込み上げてくる。
「俺は、お前たちの作った召還魔法でこの世界に無理やり連れてこられた。お前たちが召還魔法なんて創らなきゃ俺はこんな世界に来ることもなかったんだ!」
ごめんなさいと繰り返しながら、理由も何も教えない事に苛立つ。
「話す気はないんだな?」
目に見えて肩が震えたが、それでもレティンシアは頷いた。
「分かった。ならここでお別れだ。俺は元の世界に帰る為に旅をしているんだ。邪魔されたら困る。」
俯いて肩を震わせて泣くだけで、何の反論もしない。そのことが尚の事俺を苛立たせる。
「勝手にしろ。」
そう言い捨てて俺は部屋を出て、地上に出るための道を探す。
しばらく歩いて後ろを振り返ってもレティンシアが追いかけてくる気配はない。しばらく待っても追いかけては来なかった。
「最低だな、俺。」
壁に背を預けて、手で顔を覆う。連れて行くと約束したのに、こんな場所に置き去りにした。
分かってる。レティンシアは悪くない。悪いのは召還魔法を使ったやつで、これはただの八つ当たりだ。
彼女が召還魔法について口を閉ざしているのも生贄が必要だから、多大な犠牲がでる事が分かっている魔法を、おいそれと誰かに教えることは出来ない。当然だ。
「それでも俺は、俺の事を信じてほしかったんだ、レティ……。」
しばらくそうしていたが、覚悟を決めて来た道を引き返す。そして、例の部屋近くまで来たとき違和感を感じた。何が違うのか分からないが、胸の中に焦りが生まれる。急いでレティンシアを置き去りにした部屋に入ったが、そこに彼女はいなかった。
「レティ…、レティ!レティー!」
名前を呼んでも返事はない。俺とは違う道を進んだのか?
もう一つの道を走って追いかける。そんなに時間は立っていない。走れば追いつけるはずだ。
ありがとうございました。