探索
ここの奴らが、何を考えていたのかはよく分からない。生贄としていながら、彼女が洞窟から出られる術を残した。滅びることが避けられないと知っての罪悪感だろうか?
いくら考えても分からないことに時間を費やしても仕方ない。訊きたいことはまだあるのだから、そっちから片付けよう。
そして、時間は掛かったがいろいろと分かった。
1つ目、ここは俺がいた大陸じゃなくて島だということ。地図を見せてもらったが、三日月のような形の島だ。その一番下の端にこの街はあるらしい。
2つ目、大陸に行くには島の中央にある王都に行かなくてはいけないという事。
3つ目、この神殿は街の一番奥にあったという事。人々毎日祈りを捧げに来ていたらしい。
4つ目、この隠し部屋は監禁部屋で、レティを寝かせた部屋が自室。この中は自由に動けたけど、この部屋の外に出たのは生贄にされた時が初めてで、生まれて以来外に出たのは昨日を含めて2回のみ。監禁されている間は、縫い物や編み物、料理、薬の調合、他には本を読んだりして過ごしていたらしい。
産まれて初めて外に出たのが生贄になる時って酷すぎだろう。
それにしても、これからどうするかだよな。大陸に戻るにはまずは王都を目指さないといけないけど、地図で見る限りかなりの距離がある。俺一人ならどうにかなるかもしれないが、レティを連れては難しい。それに洞窟内には魔物はいなかったけど、外にいないとも限らない。それを考えると、しばらくはここを拠点にしていろいろと調べた方がいいだろう。
今日は文字の相対表を作ったり、話を訊いたりとかして一日が終わってしまった。昼も夜も保存食を使った質素なスープだけだったけど、何も食べれないよりはましだ。
明日の調査で食料に出来そうな物も見つかればいいんだけど。ベッドに横になりながらそんな事を考えていた俺はいつしか眠りに落ちていた。
翌朝俺が起きた時には既にレティは起きており、朝食用のスープを作ってくれていた。
そして、スープを食べた後、食器を片付けようとしていたレティにこれから探索に出る事、危険かもしれないのでレティには留守番していて欲しい事を告げた。
留守番は納得はできるけど不安らしく、捨てられた子犬のような目で俺を見上げてくる。
「建物からも出たら駄目だ。必ず帰ってくるから待っててくれ。」
頭を撫でながら言い聞かせると、しょんぼりと肩を落としながら頷いた。
俺が準備をして、隠し部屋の外に出ると後ろからついてくる。そのまま神殿の入り口までトコトコとついてきて俺が神殿の外に出ようとした時マントの裾を掴まれた。振り返ると、レティが何か差し出してきた。渡されたのは、指輪の入っていた箱の中に一緒に入っていたペンダントだった。
「これはレティの為に用意した奴だと思うぞ?」
そう言ったが、首を横に振って受け取ろうとはしない。なにか意味があるのか?
「このペンダントは指輪と同じでただのペンダントじゃないってことか?」
コクリと頷いた。じゃあこれは何なんだと聞きたいが文字の相対表はないのでレティは答えられない。仕方ないので視てみることにした。
名前:時と羅針のペンダント
効果:特になし
説明:レティンシアとレティンシアが認めた者しか使用できない。
現在の時刻と方位を教えてくれる。
備考:良い子は6時にはお家に帰りましょう。
6時を過ぎると泣かれちゃうぞ!
約束を破ったら身長が伸びなくなるぞ☆
便利なペンダントだな。時間と方位が分かるのはとても助かる。そして泣かれても困るので6時までには帰ってこよう。
ペンダントを首に掛けてレティの頭を撫でる。それにしても、レティの頭って撫でやすい高さにあるよな。そう思った時、師匠と先生がやたらと俺の頭を撫でる理由が分かってしまった。そう、まさにこれだ。撫でやすい位置に頭がある。どうしてこんなに撫でられるのだろうと思っていたけど、理由が分かってすっきりした。
「ありがとうな、レティ。必ず帰ってくる。」
頭から手を離してそういうと、涙を浮かべながら頷いて手を振ってくれた。
もう一度撫でてから扉を閉めて歩きだす。どこになにが潜んでいるか分からない。気をつけて進もう。
神殿がある方角を確認してから、真っすぐに進んでいく。神殿を出てまっすぐ進むと店や民家が立ち並んでいたとレティは言っていた。だが、いくら歩いても建物は影も形も見えない。
「レティの記憶違いか?それとも…!」
背後から殺気を感じ、剣を抜きながら振り返るとそこには真っ白なウルフがいた。襲いかかってきたウルフを剣で斬り飛ばすといつの間に集まっていたのか四方八方からウルフが襲いかかってくる。
真っ白な地面に赤い色が飛び散る。その赤は白を侵食して気がついた時には辺り一面赤く染まっていた。
「はあ、はあ、雪の中って動きにくいな。」
額に滲んだ汗を拭きながら、周囲を見渡す。潜んでいたウルフはこれで全部のようだ。それにしても、気配を消すのが上手い奴らだな。雪の中での戦闘は初めてで少し手間取ったけど、こいつらが弱くて助かった。戦闘中に視た情報で、こいつらの肉が食える事と毛皮や爪、牙がいい素材になる事は分かっていたので、早速剥ぎ取りと解体をする。手早く剥ぎ取りと解体を進めて最後の1体となり、これで終わりだと短剣を突き立てるとピシリと音がした。そして、ウルフが割れた。調べると中までしっかりと凍っている。これなら割れても仕方ないか。血も流れるんじゃなくて転がってる。必要のない部位も凍っていたけど、念の為燃やして、剥ぎ取った素材と肉を持って神殿に引き返す。冷たいし重いし最悪だ。捨てて行くのも勿体ないし、肉は貴重な食料なので頑張って持って帰ろう。
やっと神殿に帰り着いた。時間を確認すると5時40分、なんとか6時前に戻ってこれた。帰ってくる途中に今度は白いモコモコした毛並みのボアの群れに襲われて時間がかかったうえに荷物は増えるし冷たいしで本当に大変だった。
剥ぎ取った素材は神殿の出入り口近くに積み上げて、肉は離れたところに置いて外から雪を運びこむ。肉も凍ってるし雪の中に保存しておけば当分は持つだろう。肉を保存できるぐらいの雪をせっせと運んでいると奥に続く扉が開いて、レティが入ってきた。
俺を見つけると安心したように笑って側に駆け寄ってくる。
「ただいま、レティ。あと少しで終わるから待ってろ。」
レティが不思議そうに見ているが、雪を運び終えると隅に置いていた肉をホワイトウルフとモコモコボアの肉を一塊ずつ残して雪の中に突っ込んでいく。
「これで良し。」
肉を詰め込み終わり、残しておいた肉を持つとレティを促して隠し部屋に戻る。そして早速調理しようとしたのだが、先にお風呂に入るように注意され、俺は今レティが準備してくれたお風呂に入っている。すると、脱衣所にレティが入ってきた気配がする。なにかあったのだろうか?すぐに出ていったが何をしていたのか、疑問に思いながら風呂から上がる。服にクリーンの魔法を掛けようとしたが、肝心の服が無くなっていた。………犯人はさっき入ってきたレティだろう。でも俺の服なんてどうするんだよ。素っ裸で立っていたが、体が冷えてきたのでもう一度湯船に戻り考えていると、またレティが入ってきてすぐに出ていく。脱衣所に行ってみるとそこにはきれいになった俺の服が畳まれて置いてあった。素っ裸でいる訳にもいかないのでまずは服を着てレティのところに行く。居間にはその姿はなく、台所を覗いてみると鍋を掻き混ぜているところだった。小皿に少し取って味見をすると、少し思案して並んでいる壺の一つを取って中に入っていた白っぽいなにかを入れている。
壺?朝まではそんな物は無かった。それはどこから出してきた。
「レティ!!」
つい大きな声で呼ぶと驚いたのか、もう少しで手に持っていた壺が鍋に落下するところだった。両手で壺を持ち直して、ほっとしているレティの傍に行き壺を取り上げる。
「これはどこから出してきたんだ!」
調味料にも香辛料にも賞味期限はあるんだぞ!?
俺の剣幕に驚いたのか目をまん丸く見開いていたが、部屋の隅を指差した。そこを見ると大きな箱が2つ置いてある。急いで中を確認すると、中には壺や袋がいろいろ入っている。なんだこれ?いや、それよりこれはいつのだ!?レティを見るとクスクス笑っていた。そして、隣にある箱を指差す。その箱に手を掛けて蓋を開けようとするが開かない。びくりとも動かないそれに隣に歩み寄っていたレティが触れる。手を離して俺を見るので蓋に手を掛けると今度は簡単に開いた。そして中を見る。箱の中には芋が入っていた。ぎっしりと詰め込まれた芋、視てみたが普通の芋だった。隣を見るとレティがいなくなっている。ギョッとして見渡すと、いつのまにか肉を焼いていたフライパンの前に戻っている。
俺が芋を視ている間に焼きあがったらしい肉を皿に乗せ、スープをよそう。準備ができた食事をお盆に載せるとさっさと台所を出て行ってしまった。
ちょっと待って、どうしてこの芋は何ともなってないの!?なんで芽がでたり腐ったりしてないの!?
俺が居間に行った時には既にテーブルに食事を並べ終わっていた。
レティを捕まえて、どういうことなのか聞いたが食事が冷めるからと拒否され、食べ終わった後やっと教えてくれた話は驚くべきものだった。
魔法で箱と中に入っている物の時間経過を止めていたというのだ。時間を止めるなんて出来るのかと訊くと、結界魔法の一種らしい。詳しい事は分からないが、その特殊な結界魔法で時間経過していないので品質には全く問題ないとのことだった。確かに変な味はしなかった。むしろとってもおいしかった。
ついでにこの神殿自体にもその魔法は掛けられていたそうだ。レティが最深部の扉を開いた時に解除されているらしいが、これだけ大きな建物に魔法を掛けて維持し続けるなんて信じられなかった。
ありがとうございました。