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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
転移したら女の子を拾いました。
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少女の涙と隠された部屋

肌を刺すような痛み、凍りつきそうな程の寒さ、見渡す限りの白銀の世界。


肩を震わせ、美しい銀の瞳から大粒の涙を零す少女を見ている事しかできない自分が情けない。

雪と氷に包まれた世界はとても美しくて、冷たい。

人の気配を全く感じない。ここが街から離れた辺鄙なところにあるのか……。そうだとしても、少女の様子を見る限りこの状態は異常なのだろう。

それにしても痛いし寒い。このままジッとしてたら本当に凍りつく。

顔を覆い俯いて泣いている少女に歩み寄りそっと抱き上げる。ビクリと体を震わせたが、背中を摩ってやると、俺の胸に縋りついてきた。そのまま建物の中に入って扉を閉める。扉から出来るだけ離れた場所に少女を抱えたまま座り、その背を撫でてやる。



どのぐらいの時間こうしているのだろう。腕の中にいる少女の涙はようやく止まったようだ。内心ホッとしつつ、ゆっくりと少女の髪を撫でて、落ち付くのを待っていると少女が身じろいだので手を止めて様子を窺う。ゴソゴソと動いて俺の膝の上から降りると、フラフラと歩き出した。


「おい、どこにいくんだ?」


声を掛けても反応することなく、おぼつかない足取りで地下へと続く扉へと歩いていく。

真っ暗な闇の中を迷うことなく少女は歩いていく。俺は暗闇の中でも微かに輝いてみえる少女の髪を頼りについていく。一体どこに行くつもりなのか。まさかあの洞窟まで戻るつもりだろうかと思い始めた時、少女が床にしゃがみ込んだ。手は動かしているので何かしているようだ。


ガコンという何かが動いた音がして少しすると、少女の前の壁が開いた。躊躇うことなく、その中に入る少女の後を追っていく。そして進んだ先にあった扉を少女が開ける。

部屋のようだが、少女が扉の近くにあった何かにに触れると一気に部屋の中が明るくなった。


目が眩んで、何も見えなくなる。動くことが出来ずにいる俺の事などまったく気にすることなく、少女が歩いていく音が聞こえる。少女の気配は追っていると、扉を開ける音がした。中に入り、部屋の中を歩き回ったあと、また別の部屋に向かい同じ様に部屋の中を歩き回る。誰かを探しているようだ。少女が3つ目の部屋から出てきたとき、ようやく目が部屋の明るさに慣れた。


部屋の中央にテーブルが一つとイスが3つ、奥にはソファーとローテーブルが置いてある。壁には一定の間隔で光る石が埋め込まれていて、これのお蔭で部屋の中は驚く程明るい。見える範囲にある扉は全部で6つあり、少女は4つ目の部屋に入っていく。


少女の所に行こうとしたとき、台座に固定された大きな乳白色の丸い石が目に入った。位置的に少女が部屋に入ってすぐに触れた物だ。

試しに触ってみると石に手を置いた直後、魔力を吸い取られる感覚に驚いて手を離した。本来の魔力量の10分の3程まで回復していた魔力が、10分の1ぐらいに減っている。どうやらこの石に触ると魔力を吸い取られるようになっているようだ。この石が吸収した魔力を動力源にして、部屋の明かりが点くようになっているのだろう。


「なんで魔力を注入じゃなくて、吸収なんだろうな。」


普通この手の魔法具は自分の意志で魔力を籠めて動かすのだ。それなのに、吸収させるという事は、本人が魔力操作を出来ない、あるいは、魔力を放出することが出来ないように封じられている、このどちらかだろう。そして少女の場合、後者の可能性が高い。


俺が考えを巡らせている間も少女は部屋の中を歩き回って、最後の6つ目の扉を開けて中に入っていくところだったので追いかける。

少女に続いて部屋に入る。部屋の角に小さなテーブルとロッキングチェア、中央には一人掛けのソファーが2つ、3人掛けくらいのソファーが1つとローテーブルが置かれている。壁には棚が作り付けられ、ぎっしりと本が詰め込まれている。少女は部屋を見回して、更に奥に続く扉を開けて入っていくので付いていくと、その部屋は寝室だったようだ。クイーンサイズのベッドと壁際に大きなクローゼットがある。化粧台なども置いてあるので女性の部屋のようだ。少女は部屋の中にある扉をパタパタ開けて回っていたが、誰もいなかった。


誰もいない割に部屋の中はきれいに保たれているから、いなくなったのは最近なのかもしれないが、今、誰もいない事に変わりはない。


誰もいない事がショックだったのか、立ち竦んだまま動かない少女に声を掛けようとしたとき、突然少女が倒れた。ギリギリで抱き留める事が出来たので、床に後頭部を打ちつけることはなかったが、少女の意識は既になかった。閉じられた瞳から一筋の涙が零れていった。


丁度ベッドがあったので、そこに寝かせてしばし思案する。必要な事であると自分に言い聞かせながら、少女のドレスの裾に手を掛けた。少女の着ているドレスの裾は長い。床を引きずるぐらいの長さだ。少女の足は完全に隠れていて見ることは出来ない。


「いや、別に足が見たいとかじゃないから。決してやましい気持ちはない。裸足で歩き回って怪我したり、凍傷になったりとかしてないか確認して、必要なら治療するだけだから。」


少女以外誰もいない部屋で、誰にしているのか分からない言い訳を口にしながら、ドレスの裾を踝が見えるぐらいまで上げてそっと少女の足に触れてみる。少女が目を覚ます気配はない。

大丈夫だ。何が大丈夫かよく分からないけど、大丈夫だ。

改めて、少女の足を診てみると、真っ赤になって腫れてきている。痛そうだ。

もう一度少女の様子を見て、意識が無いことを確認してから回復魔法の『ヒール』を使う。反対の足にも『ヒール』をかけて、ドレスの裾を元に戻して毛布と布団を掛けてから部屋の中を見て回る。


トイレや浴室、洗面所もあって、地下にある事だとかを除けばとてもいい部屋だ。

少女の部屋を出て他の5部屋も見て回る。1つは来客用なのかベッドが置いてあり、浴室やトイレもあった。2つ目は、鍋やらすり鉢やらが置いてあって、薬草の匂いがする部屋だ。薬でも作っていたのだろうか?3つ目はなにもないただの空き部屋だった。4つ目は書庫だった。部屋の中いっぱいに棚が置かれ、本がぎっしりと詰め込まれている。手近な本を1冊とって開いてみたが、俺にはまったく読めなかった。そう、読めないのである。文字をマスターしたはずの俺が読めない。なぜならば、この本、古代文字で書かれているのだ。並べてある本を適当に抜いてみたが、全部古代文字。

あの子、古代文字しか分からないってことないよね!?筆談も無理とかじゃないよね!?

他に人がいないとなると、あの子と話が出来ないのは困る。しばらくどうしようか考えていたが、あの少女が目を覚まさない事にはどうしようもないので、本を棚に戻して部屋を出る。

きっと、古代文字が読めるだけだ。そうに決まってる。

気を取り直して5つ目は台所だった。調理器具と食器はあるので、食材さえ調達できれば食事は作れそうだ。

腹は減ってるが、あの少女を置いて出かけるわけにもいかないし、歩き続けて疲れてもいたので、俺も寝ることにした。1つ目の部屋に行き、マントと上着を脱いでベッドに潜り込む。

横になるとすぐに眠気が襲ってきた。俺は抗うことなくその眠りに身を委ねた。


読んでいただきありがとうございました。

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