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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
転移したら女の子を拾いました。
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氷の洞窟からの脱出

「この道も駄目か。」


溜息交じりに短剣を振り上げ壁に傷を付けて、今来た道を引き返す。カツカツと洞窟内に俺の足音が響く。もぞもぞと腕の中にいる少女が身じろぐ。立ち止まって少女を見下ろすと、申し訳なさそうに見上げてくる銀色の瞳と目が合う。

最初この状態について恥ずかしいのかジタバタしていたが、裸足で歩くのは無理だとか、ペースが落ちるとかなんとか言い包めて現在も抱っこ状態を維持している。この少女に言った事も本当の事だが、実は別に理由はある。その理由とは、なんとこの子、とても温かいのである。生きてるんだから、温かくて当たり前だと思われるだろうが、とにかく温い。この洞窟、氷で覆われいてとにかく寒かったのだ。休憩したらそのまま凍死するかもと思わせる程の寒さだったのだが、この子がいれば休憩も取れる。

軽いし、柔らかいし、温いし、可愛いし、抱っこしているのは全く苦にならない。


「どうした?」


なにかあったのかと聞くと、首を横に振るので、また歩き出す。食料だってそんなに無い。早く出口を見つけないと俺もこの少女も死ぬ。ペースを上げると、ギュッと俺の服を握り締めるのをちょっとかわいいとか思ってる場合ではないのだ。






「ここも行き止まり……嘘だろ。」


ずっと歩き続けて、ここが最後の通路だったのだ。それなのに行き止まり、外に出れない。つまり死ぬ。茫然としていると、腕の中の少女がジタバタし始めた。見下ろすとなにか訴えている。ジタバタしてるから降りたいのだろうと降ろしてやると、壁に向かって歩き出した。そしてしばらくペタペタと足音を立てながら壁の前をウロウロしていたが、最初に向かった壁の前で足を止めて壁に触れる。すると一瞬で壁が消え、その先には道があった。なにをした、この子。

ホッとしたような表情で振り返った少女の腕を掴む。俺の行動に驚いたのか目を見開いて俺を見上げた、直後怯えたように後ずさろうとするのを腕を強く引いて止める。


「なにをした?」


腕を掴む手に力を込めると、痛みに顔を歪め瞳には涙が浮かぶ。それでも力を緩めることなく問いただす。


「なにをした?今まで通ってきた道にも同じような仕掛けがあったのか?」


首を横に振り、涙を零す。


「今まで通ってきた道には何もなかったのか?」


コクリと頷く。


「道を知ってるのか?」


首を横に振る。


「仕掛けの有無は見れば分かるのか?」


しばしの逡巡後、頷く。


「どうやって仕掛けを解いた?」


左手の中指に嵌めている指輪を見た。


「指輪か?」


コクリと頷いたのを確認して、指輪に触れ引き抜こうとしたが、びくともしなかった。まるで指に吸いついてるようでどんなに引っ張っても全く動かない。


魔法具(マジックアイテム)だったのか。」


指輪が入っていたあの箱自体、この少女にしか開ける事が出来ない様に細工がされていた。そこまでしていたのなら、当然指輪にも細工をしてあっだろう。奪われないようにする為なのか指輪も抜けない。そして隠し通路の位置が分かるのもこの少女のみ。わざわざ少女が一緒にいないと出られない仕掛けを作った?もし少女を置き去りにしたり、殺したりしたら、死なせたりしたら、一生ここから出られないように。恐らくこの先もこの少女がいないと出られない様にしている。

少女を見下ろすと、項垂れてハラハラと涙を零している。

なにか企んでるようには見えない。それに、あの箱を準備した人物はこの少女が生きている事を知っていた。だから、ここから出られるように魔法具(マジックアイテム)を準備しておいた。

でも分からないな。そこまで準備していたのならどうして、助け出さなかったんだ?


しばらく考えていたがいくら考えても答えは見つからない。

溜息を吐いて少女から手を離すとペタリと地面に座り込んでしまった。その様子に今更ながら罪悪感がこみ上げる。真っ白なヴェールに真っ白なドレス、花嫁のような衣装なのに、不釣り合いな枷を着けられていた少女。………花嫁?誰の?あそこにはこの少女しかいなかった。どうして枷を着けて自由を封じた?

無理やり誰かに捧げられた(・・・・・・・・)?脳裏に嫌な仮説が浮かぶ。


「生贄……?」


俺の呟きに少女はビクリと身体を震わした。その反応に俺は確信した。


「生贄にされたのか?」


俯いていた少女の頭が縦に揺れる。

腹の底から猛烈な怒りが込み上げてくる。生贄としてあの結晶の中に閉じ込めていたのか?少女の為にわざわざ魔法具(マジックアイテム)を準備しておいて助けなかったのも生贄だったから?

腹立ちまぎれに壁を殴る。それに怯えて震えて更に泣く少女の姿に、何度か大きく深呼吸を繰り返してなんとか怒りを抑える。この少女を怖がらせたい訳じゃない。屈んで少女の頭にそっと手を置く。ビクリとした震えが伝わってきたが、そのままそっと撫でる。


「ごめん。君に会う前から迷ってて、イライラしてた。酷いことして、ごめん。」


そろそろと顔を上げた少女にそっと手を差し伸べる。恐る恐る手を重ねる少女の手首は赤くなっていた。

一緒に達がるとさっきまでと同じように抱き上げる。腕の中でブルブルと震えている様子に自己嫌悪から出そうになる溜息を飲み込んで、怖がらせない様にゆっくりと歩き出す。

そして、今までは1本道だったのだが、また分岐がある。さて、どこの道に行こうか。考えていたが、少女を見下ろす。腕の中で大人しくしていた少女が視線に気づいたのか顔を上げて、すぐに俯いた。


「どの道が正しい道か分かるか?」


ふるふると首を横に振る。


「じゃあ、どの道がいいと思う?」


その問いに首を傾げて俺を見上げてくる。


「間違えても怒らないから。どの道がいいか選んで。」


道を選ぶように促す。しばらくウロウロと視線を彷徨わせていたが、6本ある道の中から左から2番目の通路を指差した。


「わかった。ありがとうな。」


少女が示した道を歩いていくとそこは行き止まりだった。少女を見下ろすと項垂れて首を横に振る。


「そっか、さっきも言ったけど間違えても怒ったりしない。だからそんなに怯えなくていい。」


そろそろと見上げてきたので笑いかけるとやっと微かに笑みを見せてくれた。


「本当にさっきはゴメン。痛かったよな。」


困ったような笑みでゆっくりと首を横に振る。


「許してくれるか?」


笑ってコクリと頷いてくれる。


「ありがとう。」


俺も笑みを浮かべて礼を言う。そして歩くペースを少し上げようとした時、服を引っ張られた。


「どうした?」


見下ろして問いかけると、壁を指差すので壁に近づく。少女は壁をしばらく見比べてから手を伸ばす。俺が立っている位置から少し遠かったので、触れようとしている壁の方に移動する。そして、少女の手が壁に触れると壁が消え、道が現れた。


「見ないと隠し通路がある事は分からないのか?」


その問いに眉を下げて頷いた。


「ちょっと俺の首に腕を回して掴まって。」


不思議そうにしたが素直に細い腕を俺の首に回したので、お姫様だっこから片腕で膝を抱えて腕に座らせる俗に言う子供抱っこに変更する。驚いたのかギュッとしがみ付いてきたので、自由になった右腕で軽く頭を撫でる。少女の瞳がゆっくりと開いて自分の状態を確認する。視界が今までより高くなったのが怖いのか俺の服を握る手にはかなり力が入っている。


「大丈夫、落としたりしない。」


安心させるように笑って言うと、服を握りしめていた手から少し力が抜けたのでゆっくりと歩き出す。身体が強張るのを感じたが、意外と揺れない事に気付いたのかすぐにその強張りも無くなったので歩くペ速度を上げる。


この後も少女に道を選んで貰いながら歩いていく。選ぶとき時間は掛かるが、一度も外すことなく正しい道を選択し続けるでどうして分かるのか聞いてみたけど、首を傾げていたので本人もよく分からないらしい。

とにかく今はここから出るのが先決なので、すごく勘がいいという事で納得する事にした。

生贄の事については気にはなるが、声が出ないのでは話す事も難しいだろうし、何より触れてほしくない事のようなので聞いてない。地上に出られれば、誰かに話を聞くことが出来るだろう。


そして、ようやく出口らしき扉の前に俺達はいる。俺が触れてもびくともしなかった扉だが、少女が触れると簡単に開いた。

中に入ると目の前には長い階段がある。この階段も凍っているのでゆっくりと慎重に上っていく。ようやく階段が終わり、また目の前に扉が現れたので開けてもらう。


ここもまだ地下なのか相変わらず真っ暗である。その中を歩いていると徐々に少女の顔から血の気が無くなっていくのに気付いた。よく考えれば自分を生贄にした奴らと顔を合わせなくていけないのは嫌だろう。


「大丈夫か?」


立ち止まって顔を覗き込むと、その瞳には涙が溜まっていて今にも零れそうだった。それでも大丈夫だというように頷いたので、上に登っていく。そして数えるのも面倒になるぐらいの扉を潜って、辿り着いた扉を開けた時、光が差し込んだ。かなりの時間、暗闇の中にいたので少女は肩に顔を伏せさせて光を直接見ない様にする。俺も極力光を見ない様に注意しながら外にでる。ゆっくりと目を光に慣れさせてようやく普通に周りを見れるようになる。肩に顔を伏せさせて少女も明るさに目を慣れさせる事ができたのか顔を上げて辺りを見渡している。

どうやらここは神殿か何かのようだがここにも誰もいない。神殿なら神官がいてもおかしくないのだが、全く人の気配がないのだ。少女が服を引っ張り降ろしてくれと訴えるので降ろしてやると、突然走り出した。余りに突然の行動だったので、反応が遅れたが急いで追いかける。ドレスの裾を持って必死に走る少女は、正面にあった扉にたどり着くと、押し開けようとするが力が弱いせいか開けられないらしい。後ろから押すのを手伝って開けてやると、少女1人が通れるような僅かな隙間から外に飛び出した。俺も更に扉を開いて外に出る。少女は扉近くで立ちつくしていた。


痛みすら感じる冷たい空気、雪と氷に覆われた極寒の地に少女は立ち尽くし、涙を零す。

声なき声で泣き叫ぶ少女の慟哭が冷たい空気を震わせた。

いつもありがとうございます。

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