第2章 プロローグ
ブックマークありがとうございます。
今日から第2章に突入です。
冷たい風が吹きつける崖の上に複数の人が立っている。
大きな湖の上にせり出した一番高い場所に、真っ白な少女が立っていた。
真っ白なベール、地面にまで広がる真っ白なドレス、一見すると花嫁のように見える少女だが、その手には不釣り合いな枷が嵌められている。よく見ると、細い首にも首輪のような物が見える。
悲しげな笑みを浮かべていた少女が後ろを振り返る。必死に少女の名を呼んでいる女と男がいた。二人も少女と同じように手枷が嵌められ、身体も拘束されていた。その周りには剣や槍をもった者達が囲んでいる。
そんな状態でも、名を呼び続ける二人を見て笑みが零れる。少女の唇が動く。声は、でない。それでも伝えたい思いを伝える為に声なき言葉を二人に贈る。
少女の唇の動きを読み取った二人は大きく目を見開くと、震える声で自分たちの思いを伝える。その言葉を聞いた少女は花が綻ぶような笑みを浮かべて、もう一度、同じ言葉を紡ぐ。
その様子を近くで見ていた男が苛立ったように少女に剣を向けて、歩くよう命じる。
ゆっくりと再び崖に向かって歩き出した少女は、名を呼ぶ声と伝えられる思いを強く心に刻む。
そして、とうとう崖の淵に辿り着いてしまった。眼下に広がるのは深い蒼色の湖。足が竦みそうになる高さだ。
トン
背中を押され、少女は湖へと落ちていった。
そこに残されたのは、高笑いしている男と嘆き悲しむ男女、そして武器を持った男たちだけだった。
だが、彼らは知らなかった。水面に叩き付けられる直前に少女を守るように風が包んだことを。そして、水が少女を優しく受け止めたことを。
水の中を大きな水球がゆっくりと沈んでいく。真っ白な少女を風が包みそれを更に水が包み込んでいる。そしてその周りを青と緑の光がくるくると回っていた。
だが、どこからともなく現れた黒い塊が青と緑の光に襲い掛かり弾き飛ばす。
少女を包む水球を黒い影が覆う。青と緑の光が黒い影を追い払おうとぶつかっては弾かれる。
そしてそれは突然だった。黒い影が突然水球を破壊して少女を取り込んだのだ。だがその時、水中に白、赤、茶、黄、漆黒、紫、の光が現れ青と緑の光と一緒に黒い影にぶつかり黒い影から少女を取り戻し、同時に再び風と水が少女を包み込む。
水球の中にいる少女の輝くような美しい銀の髪は陰に取り込まれた影響からか、くすんだ銀色へと変わってしまっていた。
黒い影はいつの間にか姿を消していた。光達はしばらく警戒していたが完全にいなくなった事が分かると少女の周りに集まる。
少女の周りをさまざまな色の光が取り囲む。光達が交互に明滅を繰り返していたが、突然同時に強い光を発し、その光が少女を包み込み、光が収まったとき少女は薄らと紫がかった水晶の中にいた。
光達はしばらくその周りを漂っていたが、一つずつ消えていき最後の光が消えた。
そして水晶の中に閉じ込められた少女は光の届かない湖の底に1人取り残された。
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少女が湖に落とされて数カ月が経過した頃、強力な魔法が湖に落とされた。落とされた魔法は水を割り湖底を露わにし、水晶に閉じ込められた少女を見つけ出した。
彼らは少女を水晶から出そうとしたが、どんな武器も、どんな強力な魔法も水晶に傷一つ付ける事は出来なかった。
そして、彼らは少女を水晶から出す事を諦めた。
代わりに地底深くにある洞窟の最奥に少女を隠した。
その少女の傍には常に一組の男女がいた。決して少女を1人にせず、どちらかは必ず少女の傍に寄り添った。
少女を洞窟の最奥に隠して1年が過ぎた。その時少女の傍には女が寄り添っていたが、聞こえてきた足音に入り口の方に顔を向けた。やってきたのはいつも一緒にいる男だった。その手に小さな箱を持っている。手を差し出した女に持っていた箱を渡す。女は箱の蓋を開けて中を見る。そして耳に着けていたイヤリングを片方外して箱の中に入れる。それを見た男も耳につけていたカフスを片方外して箱の中に入れた。
顔を見合わせて笑うと蓋をして少女の足元に箱を置いて小さく呪文を唱えると箱が氷に包まれる。
手を繋ぎ水晶の中にいる少女を見る。そっと少女に手を伸ばす。伸ばした手は分厚い水晶に阻まれ少女に触れる事は叶わない。しばらくの間そうして少女を見詰めていたが、それぞれ少女に何事か囁いて離れる。そして思いを振り切るように、背を向けると二人は一緒に外に向かって歩き出した。決して立ち止まる事も、振り返る事もなく二人は去っていき、そして、戻る事はなかった。
ありがとうございました。