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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者召喚されたけど人違いでした。
38/100

昇級試験

ブックマークありがとうございます。

朝、いつもより少し早めに目が覚めた。

今日はいよいよ昇級試験だ。気合い入れて頑張らないと、万が一落ちたら恐ろしい事になる。

滞在する街が変わっても、やる事は変わらない。いつも通りの日課を済ませて朝食を食べ終わると、試験が行われるという場所に師匠達と向かった。


試験場所はなにもない場所だった。本当になにもないのだ。草1本すら生えてないし石ころもない。乾いた地表が続いている。


「来たわね。」


ステラギルド長は既に到着していた。仁王立ちしている美女はなかなか迫力がある。


「…試験官はまだ来てないのか?」


待っていたのはステラギルド長1人で他には誰もいない。師匠の説明では、試験員と審判員の二人一組で試験を行うそうだ。


「私が直接見てあげるのだから、必要ないでしょ。ルーカス、さっさと前にでなさい。」


ギルド長が直々に試験を行うのは普通なのだろうか?それとも俺に光属性があるからだろうか?

言われるまま、前に出る。


「よろしくお願いします。」

「始めるわよ。」

「はい。」


緊張する。だけど師匠と先生に無様な格好だけは見られたくない。


「試験開始」


そう告げた次の瞬間には俺の目の前にギルド長がいた。結構距離があったのにどうやって距離を詰めたんだろう?繰り出される拳を紙一重で避けて、蹴りを繰り出す。が、あっさり避けられた。避けられるとは思っていたので、そのまま追撃に出る。俺の攻撃を全て余裕の表情でかわしていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

試験開始と言ったと同時に私は一気に距離を詰める。攻撃魔法と身体強化は禁止だがそれ以外なら魔法は使っても問題ない。風魔法を使い、距離を詰めた私はこの一撃で決めるつもりで拳を繰り出した。

それなのに、この子供は完全に見切った上で紙一重で避けて、反撃をしてきた。ギリギリで避ける事は出来たが、子供は攻撃の手を緩めることなく攻めてくる。攻撃をかわしながらその動きを観察していたが、徐々に上がっていくスピードに内心舌打ちする。一度距離を取ろう。そう決めて、地面に向かって風魔法を撃った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺を見ているギルド長は観察者の目で俺を見ていた。少し苛立つ。絶対一撃入れてやる。休む暇など与えない。攻撃の手を休めることなく一心に打ちこんでいたその時、微かな魔力の動きを感じた。


(俺に直接魔法を撃ちこむ事は出来ないはず。)


突然俺とギルド長の間の地面が吹き飛んだ。土や石が降り注いできたが、一切気にせずギルド長を追う。目的は俺と距離を取る事なんだろうが、これくらいの攻撃に驚いていて師匠と先生の弟子をやってられるか!!

離れた距離を一気に詰めると手を伸ばして、ギルド長の腕を掴む。そして、思い切り投げ飛ばした。

テレビで見ていた一本背負いを見よう見まねで練習していたのだが、最近やっときれいに投げ飛ばせるようになったんだ。こっそり魔物相手に練習してたから、師匠と先生にも今日が初お披露目だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

地面に向けて風魔法を撃ちこんで、後ろに飛び退る。あの子供も当然引いただろう。そう思った。冒険者になって1年も経っていない、経験値も低い子供だと油断していた。飛びだしてきた子供に腕を掴まれたと思った次の瞬間、身体が浮いて僅かな浮遊感の後、地面に叩きつけられた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ルカ、試験終了だ!」


ギルド長を投げ飛ばしたところで、師匠が試験の終了を宣言する声が響いた。

捕まえたままだったギルド長の手を離して、声を掛ける。


「ステラギルド長、大丈夫ですか?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「ステラギルド長?」


ガバリ!!


突然勢いよく起き上ったギルド長は、俺を見ることなく立ち上がると師匠達に向かってドカドカと歩いていく。


ステラギルド長が肩を震わせながら、師匠に食ってかかる。


「あれのどこが10ヵ月前に冒険者になったDランクなの!?」

「?だからCランク試験を受けさせただろう。」


心底不思議だって顔をして師匠がステラギルド長を見下ろしている。


「10ヵ月間に冒険者になった子供がCランクに上がることもおかしいわよ!」

「Cランクの実力はあっただろう。なにがおかしいんだ。」

「もちろん試験は合格よ。Bランクへの昇級手続きをしておくわ。」


Bランク?俺、Cランクへの昇級試験を受けたはずなんだけど…。


「ちょっと待て、ルカは今Dランクだぞ。」

「私が多少油断していたとはいえ、ギルド長である私に土を付けた冒険者がCランクな訳ないでしょう。Bランクに昇級させる。これは決定よ。」


俺はCランクから上がるつもりはない。Bランク以上になると、指名が来たり緊急時に強制招集される事もあるのだ。師匠のランクがCランクなのもそれが嫌で上げなかっただけで、本当はAランクになる事も出来たとマクレーンギルド長は言っていた。


「ステラギルド長待ってください。1回の試験で上がるのは1ランクのみだと聞いています。Cランクのクエストを規定数達成してからBランクへの昇級試験を受けるべきではないのでしょうか。」


Bランク昇級を阻止するために俺も参戦する。

だが、俺の言葉にもふふんと笑う。そして爆弾を投げ込んでくれた。


「Bランク以上になるといろいろと面倒な事もあるとかで、昇級試験を受けないバカがいるのよ。それで5年前から昇級試験の結果でランクを決める事になったのよ。まったく、師が師なら弟子も弟子ね。」


師匠をみると視線を逸らされてしまった。もしかして師匠のせいだったりするんですか?


「それにしても、本当に10ヵ月前まで剥ぎ取りの仕方も知らなかったの?」

「はい。文字の読み書きや街や国の名前や伝承、いろいろ教えてもらいました。」

「10ヵ月で全部覚えたの?随分とは…」

「いえ、その辺りは10日で覚えました。」

「10日!?」


懐かしいな。今思い出しても絶対2度と体験したくない。


「ちょっと待って、元々冒険者をしていてアンディの弟子になったのではないの?」

「いえ、師匠と初めて会ったのは冒険者登録をする時です。文字が読めなくて困ってたら、冒険者ギルドのカウンターまで連れて行ってくれたんです。」

「………なんか疲れてきたし、手続きもあるから一度ギルド支部に戻りましょう。」



そして、戻って来た俺達はギルド長の部屋にいる。俺はギルド長の隣に座らされているのだが、師匠と先生は床に正座させられている。どうしてこんな事になったのかというと、新しい腕輪と、ギルドカードの更新が終わった後、師匠と先生との修行の内容について訊かれた。隠す事もないので、笑い話(死にかけた話)を交えつつ話したら、ステラギルド長が激怒。師匠と先生を床に正座させて説教が始まった。

説教の内容を要約するとこういうことだった。


①弟子を何度も殺しかけるな。

②師匠達の普通と世間一般の普通は違う。

③子供に間違った常識を教えるな。


「いい、ルーカス。今君の中にある普通は世間一般では非常識だという事をまずはしっかり覚えて頂戴。」

「魔力制御にの練習中にウィンドカッターとかナイフが飛んでくるのも普通じゃないんですか?」

「普通じゃないわ。」

「魔力制御が乱れたらウォーターボール時々ウィンドカッターが飛んでくるのは?」

「普通じゃないわね。」

「ひたすら魔法と剣と棒と投擲を避け続けるのは?」

「…普通じゃないわ。」

「歩いてると突然後ろからナイフやウィンドカッター時々ウォーターボールが飛んでくるのは?」

「………普通じゃないわ。」

「じゃあ…。」

「もういい!もういいわルーカス。一つ確認だけど、最初のころアンディ達の修行についてどう思ってた?」

「毎日ハラハラドキドキの命を掛けた超スパルタ教育だと思ってました。」

「そう!それが普通なの。お願いだから常識を普通の感覚を思い出して。」


ステラギルド長に『普通』の感覚を思い出すよう懇願されてる間も師匠達は正座から解放はされなかった。

その後も師匠達は正座から解放される事は無く、俺が世間の常識(普通)と師匠達の常識(普通)の差について諭されている間に日が沈み夜が明けた。


「分かった?ルカ、思い出した?」


いつのまにが愛称で呼ばれているけどそれはいいんだ。寝かせてほしい。


「俺の認識が世間一般と比べてとってもずれている事は理解できました。前の感覚を思い出せるように頑張ります。」

「あんな非常識を増やす訳にはいかないの。しっかり思い出すのよ。」

「はい。ありがとうございました。」

「じゃあ帰ってもいいわよ。あと邪魔だからこの二人も連れて帰って。」

「はい。」


ようやく帰宅の許可が下りたので、急いで師匠と先生を立たせると半ば引き摺りながら部屋を辞する。

これでやっと寝れる。ベッドの感触を思い浮かべながら俺は師匠と先生を引きづりながら宿へと帰るのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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