死にかけた理由
ブックマークありがとうございます。
師匠達と旅に出て、4か月が経った。いろいろとあったのが、それは割愛。一つだけ言えるとすれば、遺跡は人を変える。先生があんな事になるとは思わなかった。
今のところ、帰還方法は見つかっていない。そう簡単に見つかるものではないと思っているので、落ち込んではいない。それに、今の生活も結構楽しいしな。
そして俺達は今、王都の次に大きな都市クリュスタに来ている。港がありこの国の貿易を担っている都市でもある。だが、俺にとってはどうでもいいことだ。港、つまりここには海があるのだ。海と言えば、マグロやブリ、カンパチ、カニ、エビ、アワビやホタテ、そう!海の幸が食べれるのだ!この世界でなにが採れるのかは知らないが、魚や貝は絶対にあるはず。なんといっても海だからな!
「ルカ、お前随分と楽しそうだな。」
「師匠は海は好きじゃないんですか?」
ウキウキしながら歩いていたが、師匠は気が進まない様子だ。嫌いなのだろうか?
「別に嫌いじゃないが、ただなぁ…出来れば会いたくない奴がいてな。」
師匠でも苦手な人はいたのか。
「ふ~ん、誰に会いたくないの?」
「誰ってそりゃあ……!?」
後ろから、掛けられた問いに答えかけた師匠が硬直した。すでに俺たちのすぐ傍に来ていた声の主は、素晴らしいプロポーションの女性だった。長いピンクの髪を項で1つに結び、メガネを掛けている。目は少しツリ目だが、顔だちは整っている。年齢は…女性に年齢は禁句だな、とてもきれいなお姉さんだ。
「それで、誰に会いたくないの?」
綺麗なお姉さんだが、大変お怒りのようである。俺はそっと師匠の隣から先生の隣へと移動する。巻き込まれたくない。
「…誰だっていいだろう。久しぶりだな、ステラ。」
「そうね。久しぶり、アンディ。」
師匠を愛称で呼ぶ人、初めてだな。
「いつこの街に来たの?」
「今着いたばかりだ。ステラは戻るのか?」
「ええ、今から戻るところよ。」
「今日は時間あるか?話したい事がある。」
「大丈夫よ。予定は入ってないわ。」
「宿を取ったら行く。」
「待ってるわ。でも出来るだけ早く来てね。」
もしかして師匠の恋人だろうか?手を振って去って行く後ろ姿を見送ると、師匠が恨みがましい目で見てきたので、さりげなく目を逸らしてこれからの予定を訊いてみる。
「師匠は宿を取ったら、あのお姉さんのところに行くんですか?」
「皆で行くに決まってるだろう。ステラがこの街の冒険者ギルドの長だぞ。」
「………えっ?あのお姉さんがギルド長なんですか!?」
「そうだ。宿取ったら行くぞ。」
そう言ってさっさと歩きだした師匠の後を先生と一緒に追いかける。
それにしてもギルド長だとは思わなかった。実は結構年上だったりするのだろうか?師匠の後を追いながらそんな事を考えていた。
その後は、無事宿も取れたのでギルド支部に向かい、そのままギルド長の部屋に向かう。
「早かったわね、アンディ。」
「遅かったら文句言われるからな。」
うーん。やっぱり恋人関係なんだろうか?
「ところで、後ろの方達はどなた?」
「でかいのがギャレットで小さいのがルーカスだ。」
小さくない!思わず出かかった言葉をなんとか飲み込む。師匠達に追い付いていないだけで、背はちゃんと伸びてる。決して低くはない。師匠と先生の身長が高いだけだ!
「珍しい、パーティーを組んでるの?しかも、1人はまだ子供じゃない。」
「ルカは俺とギャレットの弟子だ。」
子供という言葉に俺がムッとすると、師匠が乱暴に俺の髪をかき混ぜながら弟子だと告げる。
「…アンディとギャレットさんの弟子?どういう事?」
声がワントーン低くなった。周囲の温度も下がったような気がする。なんでだ?
「そのままの意味だ。俺とギャレットがルカの師だ。」
「だから、どうして二人も師がいるの!?しかも同時にだなんて!」
師が二人いる事を怒ってるのか?なにが悪いのか分からず首を捻っていると、すごい目で睨まれた。そして俺の前に移動してくると、手を振り上げた。
訳が分からなくて動けず、振り下ろされる手を見ていると後ろから腕を引っ張られた。
後ろを見ると先生が険しい顔でステラギルド長を見ている。
「私の弟子に手を上げようとするとは、どういうつもりですか?ステラギルド長。」
「節操のない子供への躾よ。邪魔しないで!」
節操がないってどういう事だ?意味が分からない。
「ステラ、俺の弟子になにしようとした。」
「同時に師を持つなんてふざけてるわ!」
「俺とギャレットが納得している。」
「私が納得できないわ!こんな子供に馬鹿にされて悔しくないの!?」
「いい加減にしろ!!お前には関係ないだろう。」
苛立ったように師匠がステラギルド長を怒鳴り付けた。
ギルド長に頼みたい事があって来たのだが、このままだと駄目になりそうだ。
「師匠、先生、師が二人いるのはおかしな事なんですか?」
「そんな事も知らないなんて…」
「ステラは黙ってろ。…ルカには教えてなかったが普通、師は生涯1人だ。例外は途中で師が死んだ場合ぐらいだな。」
「そうだったんですか。でも、どうして教えてくれなかったんですか?」
「あの時点で俺かギャレットのどちらかを選べと言われたらお前は俺を選んだだろう?」
本人がいる場で答えにくいことを聞いてくる。でも師匠の言うとおり、どちらかと言われたら師匠を選んだだろうな。
「師匠の言うとおり、あの時選べと言われたら師匠を選んだと思います。」
「私とは初対面だったのだから当然だろう。」
先生が気にしていないと言うように俺の頭を撫でる。
「ステラ、確かに同時に二人も師がいるのは普通じゃない。だがな、ルカにはかなり優れた魔法の才があった。俺は冒険者としての知識や技は教えてやれるが魔法は教えられるほど上手くない。なら、教えられる奴に頼むしかないだろう。そして、魔法の師として呼ばれたのがギャレットだ。」
「魔法を覚えたいなら魔法ギルドに入ればいいじゃない。なんで冒険者ギルドにいるのよ!」
「本人が冒険者を目指してたんだから、冒険者ギルドにいるのは当たり前だろう。それに、マクレーンギルド長が魔法ギルドには絶対に渡さなかっただろう。勿体ない。」
「………そんなにすごいの?」
「4属性持ちで3つは最上級魔法、1つは究極魔法を習得できるくらいには高い。あとは、剣、投擲、体術、棒術も使える。飲み込みも早い。もしかしたらS級ランクに育つかもしれない奴を逃がすと思うか?」
S級ランクは買い被りすぎだと思うけどな。魔法も初級は無詠唱が出来るようになったけど、中級は詠唱しないとできないしな。
「本当にそれだけ?まだなにかあるんじゃないの?」
「光持ちで一番適性が高いのが光だ。」
「!!!!本当なの?」
「あぁ。念の為言っとくがこの事は他言無用だ。」
「分かってるわ。そしてあなた達は、あの子を守るよう指令を受けているということなのね。」
俺を守る指令!?驚いて師匠と先生を見ると、すまなそうな顔で俺を見かえしてきた。
「本当なんですか?」
「一応な。誘拐されないように気を付けろとは言われてる。あと死なせるなともな。」
「私も同じだな。あとは魔法ギルドへの勧誘だな。」
知らなかった。でも俺が死にかけたのってブラッディーウルフ以外では全部修行中だったと思う。そこのところはどうなのか聞いてみたら、『生きてるだろう』って言われた。納得できない気もするが、今生きてるのも事実なので気にしない事にする。
「修行中に死にかけるって何してるのよ。死なせるなって言われてるんでしょう!?」
「うっかり崖に落とした時は焦ったな。あと、投げた短剣が心臓近くに刺さった時も心配した。」
「私ももう少しでウィンドカッターで真っ二つに仕掛けた時は焦ったよ。でもルカの素晴らしい反射神経と咄嗟の判断力に感心したよ。」
「そんな事もありましたね。最近はしっかり避けるか防げるようになったからいいですけど、あの頃は毎日生命の危機を感じましたし、死に掛けました。先生の回復魔法がなければ死んでましたね。」
そんな事もあったなと懐かしく思い思わず笑みが零れる。本当にあの時は死ぬかと思ったけどな。自分の反射神経と勘には感謝してる。
「弟子になんて事してるのよ。えっとルーカスだったかしら。あなたも何懐かしそうに笑ってるの!?怒るとこでしょ!殺されかけてるのよ!?」
「でも俺、生きてるし、今ではちゃんと避けたり防いだりも出来るから問題ないです。」
「問題大ありでしょ!?」
「ステラ、そのことは済んだ事だからもういいんだ。それよりルカにCランクへの昇級試験を受けさせたい。」
「良くないわよ。それにCランクへの昇級試験ってこの子いつ冒険者になったのよ!?」
「冒険者登録して10ヵ月です。」
10ヶ月、あっという間だったな。
「!?10ヶ月でCランクへの昇級試験を受けさせるの?」
「ルカの実力なら問題ない。」
「……………分かったわ。準備するから明日の朝一で試験場へ連れてきて。」
「分かった。明日の朝一に連れて行く。よろしくな。」
「準備があるから今日はもう帰って。」
そう言うと俺たちに背を向けてしまったので、素直に宿に引き上げることにした。
明日はとうとう昇級試験だ。頑張らないとな。
宿の夕飯は新鮮な海の幸を使った料理ばかりでとてもおいしかった。
そういえば、師匠が会いたくない人って誰だったんだろう?
サブタイトルが思い付かない……。
読んでいただきありがとうございました。