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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者召喚されたけど人違いでした。
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旅の始まり

「単刀直入に言おう。ルーカス、明日中にここを出て行け。」


頭が真っ白になった。どうして、突然そんな事を言われたのか理解できなかった。


「どういう事だ。ギルド長。」


静かな声で師匠がギルド長に問いかける。ただ、その声には怒りが滲んでいる。

ギルド長がちらりと先生を見て、次に俺を見た。


「話したのか?」


『なにを』とは聞かなくても分かる。俺が異世界の人間であるということについてだろう。口止めされていた事もあり、秘密を知る者は少ない方がいいだろうという師匠の意見もあったので、先生には話してない。


「話してないのか?」


その問いに、俺は頷いた。


「ちょっと待てください。その件と、ルカの話は関係あるんですか?」

「ある。」

「…分かりました。ギャレット、知っているとバレたら消される可能性もあるが聞くか?」


消されるって殺されるって事だよな。でも、誰に殺される……まさか、王家にか!?


「ちょっとま…」

「もちろんだ。」


俺が止める前に先生が即答してしまった。


「だと思ったがな。おいルカ、自分で話せ。」


ここで俺に振るの!?いや、確かに俺の事だから俺が話すべきなんだろうけど、でも…。


「殺させるかもしれないんですよ!?先生、本当にいいんですか?」

「ルカ、君は私の弟子だ。弟子の危機を放っておけるものか。それに、そう簡単に殺されるつもりもない。だから、教えてくれ。」


先生が真剣な表情で俺を見る。確固とした意志が宿る目を見て俺は全てを打ち明けた。


「俺は、この世界の人間ではありません。他の世界から間違えて召還されてきたんです。」

「他の世界?………そういえば、かなり前に王家が勇者を遣わしてくださるよう神に願うという噂をきいたが、まさか!?」

「俺の居た世界は神の世界ではありません。俺も『勇者』ではありません。そう、言われました。『偽物』だと…。元の世界に帰してくれって言いましたけど帰す方法は分からないと言わて、俺は帰る方法を見つけるために冒険者になることを決めました。」

「ルカを召還したのは、王家なのだな。」

「はい。殺すのは可哀そうだから、放逐にしてやると言われて、俺も、ここに居たら殺されると思ったから王女様にこの世界の服とお金を貰って城を出ました。」

「そして、この事について王家から口止めされていた。」

「そうです。」


これで、俺の秘密を知るのは王家以外では3人か。それにしても、俺の秘密とこの街を出て行かないといけないのとどういう関係があるんだろう?


「それで、どうしてルカに街を出て行けと?それもこんなに急に。」


師匠が改めてギルド長に問いかける。


「最近、冒険者ギルドの周辺をちょろちょろと嗅ぎまわってるのがいる。目的はルーカスだろう。」

「王家、ですか。」


師匠が苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「おそらくな。だから一刻も早くこの街を出ていけ。そうだ、ルーカス、ギルドカードと腕輪を貸せ。」


ギルドカードと腕輪なんて何に使うんだ?疑問に思いながらもギルド長に渡す。貸せと言ってるんだから返してくれるだろう。

俺が渡したギルドカードと腕輪を持って自分の机に行ってなにかしていたが、すぐ俺たちの前に戻ってきた。そして渡されたのは俺のギルドカードと翡翠の腕輪だった。


「?ギルド長、俺、Gランクなんですけど…。」

「Dランクまでは、各支部のギルド長の采配で上げることが出来る。お前ならCランクでもいけるとは思うが、ランクを上げたいなら試験を受けろ。」

「いいんですか?俺クエストも最近受けてなかったんですけど…。」

「Dランクの実力は十分あるから問題ない。」


ギルド長が問題ないと言うのなら大丈夫なんだろう。そういうことにしておこう。


「俺の話は理解したな?」

「「「はい。」」」


王家が俺を利用する為に捕まえる前に遠くに逃げる。元の世界に帰る為にも、王家に捕まる訳にはいかない。利用されるなんて御免だ。


「なら話は終わりだ。帰っていいぞ。」

「いろいろとありがとうございました。」

「気を付けてな。旅の無事を祈る。」

「ありがとうございます。」


ギルド長にお礼を言って部屋を出る。

これからどうするか話したが、今日はもう遅いので宿に帰って、明日の朝準備をすることになった。


「明日、ルカはいつも通り過ごせ。旅の準備は俺とギャレットがしておく。目的地はここから南にあるフルスタリだ。」

「師匠、先生、本当にいいんですか?フルスタリなら行った事あるし、俺1人でも…。」

「俺は元々フラフラ旅してたからな。ここまで長く一つの街に居たのも久しぶりだ。最初の予定じゃ1ヵ月ぐらいで、また旅に出るつもりだったから問題ない。」

「私も特には問題ないな。ただ、旅の途中で遺跡を調べたりもしたいのだがいいだろうか?」


遺跡か。もしかしたら帰る方法が見つかるかもしれないし、願ったり叶ったりだ。


「俺は大丈夫です。」

「ルカが元の世界に帰る方法も見つかるかもしれないしな。行って損は無いだろう。」


こうして俺達の旅の目的地は決まった。



次の日の朝、俺はいつも通り過ごして宿を出る。もう会えないかもしれないと思うと、涙が出そうだった。とても親切にしてもらったのに、ろくにお礼も言わずに出なければいけないのも心苦しかった。これも、師匠達に言われた事だ。俺の事を嗅ぎまわっている奴らに何日かで戻ると思わせる為に何も言うなと。仕方ない事だとは分かってはいるが、辛い。


街の外で待っていると師匠達がやって来た。


「行くぞ。」

「はい!」


既に歩き出している師匠達の後ろを追いかける。だが、一度足を止めて街を振り返った。最後にもう一度街を眺める。


「ルカー!さっさと来い。置いてくぞーー!」


師匠に呼ばれて慌てて追いかける。二人ともかなり先に進んでいた。歩く速度も速いのだろうが、コンパスの差も否めないだろう。、


「師匠、先生待ってください!」


走りながら、改めて心に誓う。帰る方法が見つかったら、必ずこの街に一度戻ってお礼を行ってから元の世界に帰ろう。その為にも、必ず元の世界に帰る方法を見つけて見せる。


こうして、俺の旅は始まった。そして、師匠達の『普通』がこの世界でも普通ではない事を知って、ショックを受ける事になるのはもう少し先の事だ。

ありがとうございました。

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