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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者召喚されたけど人違いでした。
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普通の日々

いつも通りの時間に目が覚めた。既に日課となったトレーニングを済ませ素振りをする。いつもなら、師匠が来てもいい頃合いなのだが、今日はまだ来ない。どうしたんだろう?

師匠が来るのを、素振りや体術の練習をしながら待っていたらおかみさんが呼びに来た。


「おはようルカ、朝御飯用意したからあの人達の事はほっといて先にお食べ。」

「ありがとうございます。でも、師匠達が…。」

「ほっときな、いい大人がなにやってるんだか…。ルカは今から大きくなるんだからしっかりお食べ。」

「はい。」


プリプリ怒っているおかみさんに、顔を洗ってから行くと伝えて宿の裏にある井戸で水を汲む。顔を洗い、持参していたタオルを濡らして、固く絞ると汗を拭いていく。さっぱりしたところで、食堂に向かった。


「ルカ、こっちだよ。」


食堂に入るとおかみさんが手招きしているので、そちらに向かう。テーブルの上には朝食が並べられていた。


「いただきます。」


手を合わせてから、並べられている朝食を食べる。残すなんてもったいない事はしない。全ておいしくいただいた。


「ごちそうさまでした。」


食器をカウンターに返すとおかみさんからサンドイッチとミルクの乗ったお盆を渡された。師匠達の朝御飯だそうだ。それを持って師匠達の部屋に向かう。



トントントン


「おはようございます。師匠、ルーカスです。」


扉を軽く蹴って呼びかける(両手が塞がっているのだから仕方ない)と、先生が扉を開けてくれた。


「おはようございます。先生。」

「おはよう、ルカ。」


俺が持っている食事をみると苦笑して、頭を撫でられた。


「朝食を持ってきてくれたのか。ありがとう。」


いつも思うのだが、師匠も先生もなんで頭撫でるんだろう?


「話し合いは終わったんですか?」

「もちろんだよ。ルカ、君は私とアンドリューが責任を持って育てる。」


冒険者として育てるって意味だよね!?子供としてとかじゃないよね!?


「…よろしくお願いします。」


室内には憔悴したギルド長達がいた。

そもそもどうして俺の親権争い(笑)が勃発したのかが分からない。先生も光属性持ちだって言ってたから、俺が光属性を持ってるからという理由だけではないと思う。


「流石俺たちの弟子(・・・・・・)だ。ありがとうな。」

「すみません。俺は先にいただきました。」

「気にするな。剣の稽古に付き合えなくて悪かったな。」


師匠も先生もギルド長達は完全無視してるが、なにがあったんだろう?


「師匠、先生、どうして俺の事で揉めたんですか?」

「そうか、ルカは知らないんだったな。」


師匠と先生ががサンドイッチを食べながら説明してくれた話をまとめると、俺の持っている魔法属性に対する適性はかなり高くて、火、土、雷は最上級魔法、光は究極魔法を習得できるぐらいの適性がある。どんなに努力しても適性が低いとランクの高い魔法は習得できない。


そしてこの世界の師弟と言うのは特別。産みの親より育ての師、師弟の絆は血に勝る。俺はこの世界に親はいないから俺の師となる人は俺の保護者、親になる。俺の師となれば、弟子と言う名の首輪を付けられる。


だから適性の高い俺を他のギルドに盗られないように、自分こそが俺の師となって俺を自分のギルドに縛り付けようとした。


だけど、師匠と先生が既に俺の師となっていた為なんとかその立場を譲ってもらおうとしていたらしいが、二人とも、『ルカが師と認めたのは自分達である。弟子を見捨てるようなことはしない。』と言って取り合わなかったらしい。


どうやら俺は良い人達を師とする事ができたらしい。良かった。


「本当に良いのか?ルーカスよ、今ならまだ…」

「ウィリアムギルド長、もう終わった話です。ルカは私達が立派に育てます。」

「ルーカスよ、本当にいいのだな?」


なぜそんなに念押しするのだろう?なんか嫌な予感がしてきた。

だが、俺が理由を聞く前に先生がギルド長達を追い出してしまった。なんか不安になってきたんだけど、大丈夫だよな俺………。



若干の不安を残しつつ、俺達は今街の外にいる。いつもならランニングをするのだが、先生に俺の魔法と魔力制御を見たいと言われたので、まずは魔力制御の訓練を見てもらった。

この訓練は魔力を全身に流す事なのだが、流す魔力量を均一にする事が難しい。いつものように魔力を循環させていると、先生の眉間にしわが寄っていく。


「駄目だ。全然なってない。」


その一言を皮切りに、次々と怒号が飛ぶ。ついでにウォーターボールも飛んでくる。

魔力制御に集中していると横をウィンドカッターや石、ナイフが通り過ぎていき、驚いて制御が乱れればウォーターボールが飛んでくる。とても過激な指導だった。ハッキリ言うと師匠に勝るとも劣らないスパルタ教育だった。


『普通の先生がいい。』ってこの世界じゃそんなに難易度の高い願いだったのだろうか?

俺のささやかな願いは叶わなかった。


そしてボロヨレ水浸しになる日々が3日を過ぎたころ、ようやく魔力制御については合格を貰った。本当に大変だった。魔力制御をしながらの耐久マラソンとか基礎トレーニング、剣、体術、棒術の稽古、制御が乱れれば容赦なくウォーターボール時々ウィンドカッターが飛んできた。毎日が命懸けだ。師匠に勝るとも劣らないスパルタだなんて思ってたけど、間違ってた。師匠以上のデンジャラスなスパルタ教育だった。


そして、魔法を覚える事になったのだが、いままで以上に生命の危機を感じるデンジャラス超スパルタ教育だった。思い出したくもない。どうしてあの時、ウィリアムギルド長に理由を訊かなかったのかと後悔しきりだ。それでも全ての初級魔法は発動できるようになった。適性がなくても魔力を大量に消費することで、他の属性魔法も使用できるらしい。魔力量が多くないと使えないのだが、風と水の複合魔法である『クリーン』はなんとか発動できるようになった。ただ、これを使うと今の俺の魔力量だと全体の90%近くを消費する。そして、適性のある人と比べて汚れの落ち方が違う。俺がやると少しマシになった程度にしかならない。このことからあまり使えない魔法ではあるのだが、どんな事も覚えておいて損はないとの先生の教えにより、全ての属性の魔法を覚えた。とは言っても適性のない属性の魔法は、発動はするレベルで使用できるレベルではない。まあ、いつか役に立つ日がくるかもしれないので、練習はまじめにしている。


こうして俺の日々は師匠達の『普通』に毒されながら過ぎて行った。そして、俺がこの世界に来て半年、師匠達の『普通』が当たり前になったころ、マクレーンギルド長に呼び出された。


「よく来たな、3人とも。とりあえず座れ。」


ギルド長に促されソファに座る。なんだろう。空気がピリピリしてる。


「単刀直入に言おう。ルーカス、明日中にここを出て行け。」


ギルド長の俺を見る目は、凍えそうな程冷たかった。




読んでいただきありがとうございました。

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