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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者召喚されたけど人違いでした。
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やるべき事

宿に向かって歩きながら俺はこれからの事を考えていた。

冒険者を続けるか、辞めるか。ギルド長には辞めろと言われた。でも、冒険者を辞めたとして俺はそれからどうしたらいいんだ?生活するにも金はいる。どうにかして生活費は稼がないといけない。それに、俺は帰りたい。生活費だけ稼いでいても帰れないのだ。

ぐるぐると考えている間に宿に着いてしまった。宿に入りかけて、昨日身体を拭いていない事を思い出した。思い出すと気になる。行き先を変更し、宿の裏にある井戸へと向かう。井戸から水を汲み上げてから、荷物を置いて服を脱ぐ。もちろんパンツは履いている。外で全裸はまずいからな。それから、水の入った桶を持ちあげて、一気に頭から被った。


「冷たっ!」


水はかなり冷たく、急激に体温を奪っていく。ちなみにこの国の今の季節は春だ。草花の芽吹く季節である。日本だと季節外れの雪が降る事もある。そしてこの国の春は冬に近かった。簡単にいうと、寒いのだ。その中で、水浴びをしている時点で間違ってるとは思うが、臭いと思うと我慢が出来なかった。

ガタガタ震えながら、2杯目の水を汲み上げてもう一度頭から被る。カバンから取り出したタオルで身体を擦ってざっと汚れを落とし、最後の仕上げに3杯目の水を被った。新しいタオルを取り出し、髪と身体を荒く拭いてから服を着る。これは、ギルドに行く前に着替えた服なので問題ない。シャツや上着を着た後は、マントを羽織ってからパンツを脱いで、直接ズボンを履く。心もとないが仕方ない。ついでにパンツを洗っておく。洗い終わったら、宿の表の入り口から中に入った。幸いおかみさんはいなかったので、急いで部屋に戻る。荷物を置いて洗ったパンツを干しておく。なんか情けない感じがするのは俺だけだろうか。


「寒い…。」


なかなか体温は戻ってこない。ベッドから毛布を剥ぐ。ベッドに転がると寝てしまいそうなので、椅子に座って毛布に包まる。その内体温も戻ってくるだろう。


「『冒険者を辞めろ』か。」


思い出すのはギルド長の言葉だ。向いていないとも言われた。じゃあ、どうすればいい?何が正解なんだ?分からない。テーブルに突っ伏してしばらく考えていたが、なにも浮かんでこない。


『なにが一番したいの?』


突然頭の中に知らない声が響いた。そういえば、この声ブラッディーウルフと戦ってる時にも聞いたような…。


『ルーカスはなにが一番したい。望みは、何?』


俺が一番したい事、俺の望み、それは一つしかない。


「帰りたい。元の世界に俺は帰りたい。」

『どうやって帰るの?』

「探す。王女は過去に元の世界に帰った勇者がいたと言っていた。帰る方法はどこかにある。それを探す。」

『どうやって探すの?』

「まずは文字を覚える。文字が読めないと帰る方法が書いてあっても分からない。」

『文字を読めるようになったら?』

「この世界を巡って、帰る方法を見つける。」

『どうやって、世界を巡るの?魔物だっているよ?お金はどうするの?』

「それは……」

『ねえ、どうするの?』

「…………」

『ルーカスの帰りたいって気持ちはその程度なんだね。諦めたら?』

「嫌だ!俺は、帰るんだ。絶対に帰る。」

『じゃあどうするの?』

「冒険者を続ける。」

『死んじゃうよ?』

「死ぬとは限らない。何もしないで死ぬのは嫌だ。」

『誰かが死んだらどうするの?生き返らせることなんて出来ないんだよ?後悔しない?』

「……後悔すると思う。俺のせいで誰かが死んだら、きっと後悔する。」

『それでいいの?』

「良くないに決まってるだろう。だから、おれは強くなる。自分を守ったそのうえで、一緒にいる誰かを死なせないくらいに強くなる。」

『偽物なのに?』

「俺は俺だ。偽物じゃない。」

『勇者じゃないのに?』

「アンドリューさんもギルド長も勇者じゃないけど強い。」

『答えは見つかった?』

「まずは文字、その後は魔法、そしてこの世界の事を覚える。剣も、もっと練習しないといけないな。そして、いつか絶対に元の世界に帰るんだ。」


そうだ。俺の一番の願いは元の世界に帰る事。そして元の世界に帰る為に必要な事。


①文字を覚える。情報収集に一番必要だ。

②魔法を覚える。魔法が使えれば戦闘も有利になるはずだ。

③この世界の常識を覚える。この世界の事を知らないから、秘密がバレる。知識は必要だ。

④剣や体術をもっと徹底的に指導してもらう。実戦での戦い方を真剣に学ばないと旅は無理だ。

⑤身体を鍛える。旅をするにはもっと体力が必要だ。基礎トレーニングをした方がいいだろう。


まずはここから、焦りは禁物だ。最終目標は、元の世界に帰る事。その為に必要な事をまずは覚える。そこから始めよう。


『でも、しばらくはベッドの住人になりそうだね。きっと叱られるよ。』


ベッドの住人?叱られるって誰に叱られるんだ。あれ?そういえば俺、誰と話してたんだ?部屋には俺以外誰もいないはずなのに…!


ハッとして目を開ける。慌てて立ち上がって部屋の中を見渡したが、誰もいなかった。


「夢?でも、それにしてはハッキリしすぎてたような、……あれ?」


足から力が抜けた。立っている事が出来ず床に座り込む。だが、上体を支える事が出来ずそのまま床に倒れ込んだ。起き上ろうとしても、全く身体に力が入らない。


トントントン


扉を叩く音がする。誰だろう?早く開けないと…。開けに行かないといけないのに、身体はまったく動かない。


ドンドンドン


さっきより強く扉を叩いている。分かってる。聞こえてる。でも、動けないんだよな。どうしよう。


ドゴンドゴンドゴン


扉が壊れそうだ。おかみさんに怒られる。早く、開けなきゃ…。


「****!************!」

「##!######!!」


扉の外で誰かが言い争ってる声がする。何を言ってるのかは聞こえない。

おかしいな、なんだか、すごく、ねむ……………。


ガチャ!

バン!


「ルーカスいい加減に!?おい、ルーカスどうしたんだ!おい!」


意識が消える直前、アンドリューさんの声が聞こえた気がした。

ありがとうございました。

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