ギルドへの報告 ~アンドリュー視点~
ドゴン!
爆笑と野次の渦の中、すぐ近くで何かを殴ったような音がした。音の発生源は冒険者ギルドのカウンターで、殴られた個所は無残にも穴が開いていた。そして、カウンターを殴って穴を開けた犯人はルーカスだった。
「冗談ってなんだよ。なにが、冗談だって言うんだ!!」
ルーカスの怒声が響いた。本気で怒ってしまったらしい。だからと言って、カウンターに穴を開けるのは良くない。
「冗談を冗談だと言って何が悪いんですか!それより、こんなことしてただでは済みませんよ!」
このねえちゃん新人だな。それにしても、怒ってるやつを更に煽ってどうするんだろうな。
「へえ、どうなるんだよ?先に喧嘩売ったのはあんただろ!責任者だせよ!!」
完全に頭に血が上ってるな。そろそろおとなしくさせるか。
「おい、落ち付けルーカス。」
「なんでだよ!本当のことなのに、冗談だって断言されたんだぞ!魔石も、剥ぎ取った毛皮とかだってあるのに、確認もしないで、冗談だって、それに、腕だって……」
そう声を掛けると、怒りながら必死に訴えてきたが、途中から勢いが無くなり、目が潤み始めた。今にも泣きだしそうだ。あれだけ元気だった声も尻すぼみになり、最後には項垂れてしまった。
呆れる気持ちもある。魔石持ちの変異種がいた事は、魔石や討伐部位をみせれば証明する事は簡単な事だ。それなのに、こんな騒ぎをおこしてどうするんだとも思う。だが、ルーカスが怒った事が嬉しくもあった。
とにかく、説教は後だ。先にルーカスを宿に帰そう。
「本当にしょうがない奴だな。荷物置いて、先に宿に戻ってろ。俺も後で行く。俺の分の夕飯と部屋が空いてたら部屋も頼んどいてくれ。」
俯いていたルーカスは、黙って荷物を置くと足早に出て行った。
「ちょっと、勝手に帰さないでください。あの人はカウンターに穴を開けた犯人なんですから!今すぐ呼び戻してください!」
キャンキャンと甲高い声で文句をいう新人を睨みつける。
「ひっ!?な、なんなんですか。あ、あなたが、変な冗談、いうから、」
ゴツン!
急いでやってきた女が、新人の頭を殴った。結構いい音がした。
「申し訳ございませんでした。」
新人の頭を掴み、頭を下げさせながら、女も一緒に頭を下げる。
「いい。こっちも連れがカウンターに穴開けちまってな。ただ、アイツの気持ちも分かるしな。確認もしないで、冗談だと決めつけられるのは、かなり気分が悪い。」
「当り前でしょ!誰が本気だとおも…」
ガツン!!
「!@*?&%$#!!」
懲りない新人が、手を振りほどき口を開いたが、さっきより更に力を込めた一撃で黙らされた。
かなり痛かったのか、悶絶している。
「本当に申し訳ありませんでした。この者には必ず処罰を与えます。・・・奥に連れて行きなさい。」
新人は隅に固まって様子を見守っていた内の受付仲間の一人に奥に連れていかれた。
「代わりまして、私、ネイダが担当させて頂きます。よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む。」
室内は相変わらず沈黙に包まれたままで、かなり重い空気が流れている。先程、野次を飛ばしていた奴らも黙り込んだままだ。
「魔石持ちのブラッディーウルフの変異種4体を森で見たと報告を受けたと聞いたのですが、間違いないでしょうか?」
空気が張り詰める。
「間違いない。証拠なら魔石と毛皮、尾、耳、爪、4体分ある。大きさを確認すれば分かるだろう。」
カウンターにルーカスが置いていった荷物を置く。
「他のも交じってるようですね。こちらで分けてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、魔石以外は買い取りも頼む。」
「魔石もお売りいただけませんか?」
「売らん。」
魔石は貴重な物なので高額で売れるが、今日売る気はない。そもそも、1つはルーカスの分なのだ。ルーカスの意思も確認せず売り払う事などできない。
「かしこまりました。では、魔石は一度お返しします。後ほど改めて見せてください。買い取り分の鑑定をさせていただきます。少しお待ちください。」
ネイダが目配せすると、他の受付メンバーも加わり鑑定を行っていく。
鑑定が終わるのを待っていると、顔なじみ冒険者が話しかけてきた。
「さっきはすまなかった。あの坊主にも謝っといてくれ。」
「いや、アイツも気が立っててな。偶々、薪を拾いに行かせてて無事だったが、俺が腕を喰われちまったのを気にしてるんだ。許してやってくれ。」
「「「「「「「「「「「「腕を喰われた!?」」」」」」」」」」」」
かなり衝撃だったのか、冒険者たちやネイダ、他の受付メンバーたちが固まっている。
「なんだよ、4体同時に襲ってきたんだ。腕の1本くらい喰われても仕方ねえだろ。」
(本当に4頭同時だったら、死んでただろうがな。)
「怪我は、大丈夫なんですか!?」
硬直から復活したらしいネイダが怪我について確認してくる。
「ポーションを飲んだ。傷は塞がってるから問題ない。」
「問題大ありですよ!?」
ネイダの言葉に皆が頷いている。
「喰われて胃袋に入っちまったもんは仕方ねえだろ。」
「それは、そうですけど…。」
「それより、早く鑑定してくれ。」
鑑定作業が終わらないと帰れないのだから、早く終わらせてもらわないと困る。
「あっ!申し訳ありません。」
慌てて鑑定を再開しているのを眺める。程なく、鑑定作業は終わったようだ。
「まず、ブラッディーウルフ以外の買い取り額ですが、9,200ソルになります。よろしいでしょうか?」
「おう。」
「残りのブラッディーウルフですが、鑑定の結果、通常の個体より大きく、更に魔力を帯びていました。通常種ではありえないことなので、4体とも変異種と認定し別途討伐報酬が支払われることになりました。」
「いくらだ?」
「討伐報酬は1体につき金貨5枚、4体なので金貨20枚です。毛皮などの買い取り額が合計1,480,000ソルになります。よろしいでしょうか?」
「それでいい。」
それだけあれば、当分クエストは受けなくても問題ない。
「では、準備しますので少々お待ちください。」
ネイダが奥の部屋に入る。それと入れ替わりに別の人物がやってきた。
「おい、魔石を見せてくれ。」
「挨拶もなしですか?ギルド長。」
やってきたのは、冒険者ギルドの長をしているマクレーンだ。
「おい、早く見せろ。」
ため息を飲み込み、催促してくる手に魔石を一つ置く。しばらく魔石をじっと視ていたが、カウンターに置くと、また手を出してくるので新しい魔石を置く。その作業を繰り返し、すべての魔石を視終わった。
「片腕だけで済んだのは幸運だったな。」
カウンターに並んだ魔石を見つめながらそう呟いた。
「俺もそう思います。」
俺は本当にルーカスに感謝しているんだ。アイツがいなければ間違いなく死んでいた。そう言っても、アイツは信じられないだろうがな。
さっきの泣き出しそうな、情けない顔を思い出し笑みがこぼれる。
「気持ち悪い奴だな、なに笑ってやがる。」
気持ち悪いとは相変わらず失礼な御仁である。
「いや、連れの情けない顔を思い出しまして。」
「そういえば、お前の連れが穴開けたんだって?」
カウンターを指でたたく。
「申し訳ありません。」
「新人受付の失言が原因だ。報告の内容が信じられないから冗談だと断じるとは、教育を見直さなきゃならん。だが、備品を壊したのも事実だからな。お前の連れには俺が直接罰を与える。明日連れてこい。」
「……分かりました。」
呼び出されると思ってはいたが、ギルド長から直接呼ばれるとは思わなかった。
「お待たせしました。報酬をお持ちしました。」
「ありがとうよ。」
カウンターに置かれた報酬の入った袋と魔石を懐にしまう。やっと帰れそうだ。
「ギルド長、明日は何時に来ればいいですか?」
「何時でもいいが、できるだけ早く連れてこい。」
「分かりました。」
ギルド長に頭を下げて、ルーカスの荷物を持ってギルド支部を後にする。
腹も減ったし、早く宿に戻ろう。ルーカスが宿を押さえられてればいいのだが。
歩く速度を上げて、宿に向かった。
ブックマークありがとうございます。
拙くて読みにくい部分も多いかと思いますが、これからもよろしくお願いします。